麗子お嬢様の探偵事務所
【麗子お嬢様の探偵事務所】
麗子という彼女がどうもとんでもない金持ちだということを知るのに、そんな時間はかからなかった。
私のビルは裏に駐車場がある。いつも停まっているのは、『越前や』の白のヴァン、私のはスズキのスイフトだった。私が出勤したとき、その駐車場に黄色いフェラーリが停まっていたので、私は少し驚いたが、『越前や』には時折VIPが訪れるので、珍しいことでない。私が驚愕したのは降りてきたのが麗子さんだったということだ。彼女はサングラスにハットまで被っていた。この老朽ビルにはやはり場違いだった。
私が
「おはよう」と挨拶しても
彼女は一瞥もせずにビルへ入っていった。私は不機嫌になって、車のドアをいつもより乱暴に音が出るぐらいに閉めた。
ここ数日、客が来ないので、私は暇を持て余していた。そこで麗子さんの事務所の様子を見にいくことにした。
「こんにちは」
事務所に入ると、私は絶句した。まず天井にシャンデリアがあった。彼女のデスクも金ピカで、ソファも細かい刺繍がされているものだった。私は一瞬、迎賓館にでも迷いこんだのではないか、とも思った。
「ああ、なんだ、あなたね。何か用?」
私は年上にその口の利き方は何だ!……と怒鳴りつけたい気持ちを飲み込んで、笑顔で言った。
「……いや、ちょっと暇だったものでね……」
「フン……あなたいつも暇そうじゃない……てっきり金をせびりに来たのかと思ったわ……」
私は震える拳を握り締めた。我慢……我慢……
「……い、いやあ……しかし立派なオフィスだねえ。ヴェルサイユ宮殿かと思ったよ」
「まあね。でも、こんなのまだまだ粗末なほうよ」
「へえ……このソファいくらするんだい?」
「……えっと……いくらだったかしら……確か……三千万ぐらいかしら」
私はコーヒーを飲んでいたが思わず噴き出した。
「きゃ!……何よ!汚い!」
「ゴホゴホ……す、すいません……さ、三千万?」
「もう……最悪じゃない!このソファ!私のスカート!弁償してよね!」
「えっ!……おいくらぐらい……?」
「一億ね。一億!」
「えっ!そ、それは……」私は背筋が凍るのを感じた。
「何?」
「ちょっと……勘弁してください……」
「嫌よ……汚したのはあなたなんだから……」
「お、お願いします!な、何でもしますから!」
私は即座に床に這いつくばって土下座した。
「え〜、どーしよーかしら」
私が顔を上げると、彼女はロングの黒髪をクルクル手でいじっている。
「……まあ、いいわ。許してあげる」
「本当ですか!」
「ただし……条件があるの」
お嬢様はニヤリと笑った。
「捜査に付き合って」
「……捜査?」
「……そうよ。依頼が入ったの」