始まり
私の目の前に大きな翼を持った美丈夫がいる。この世界を治めるアレクセイ様だ。いわゆる天使と呼ばれる存在だが彼の一族はもう彼一人しかいない。彼がこの世界の力の均衡を保っている。
「本当に行くのか?フロルメイ?」
心配そうに私を見つめるアレクセイ様。
「行きます。だって先に行ってしまったセイルと約束したもの。必ず行くからって。」
「しかし先程も言ったがこの世界で彼と君とは魂の双子‥‥ソウルメイトだったが力の均衡が元に戻った今、彼と君の縁は消えた。あちらの世界ではただの他人になるし記憶も無くなる。」
「でも彼は言ったわ『必ず見つけ出してみせる』って。私も必ずまた彼と一緒になるわ」
深くため息をつくアレクセイ様。
この世界がおかしくなっていたのはほんのちょっと前。世界中に精霊の力が溢れ暴走した精霊たちが世界を壊し始めていた。
原因はもう一つの世界セイルティアから大量の精霊達がこの世界に流れ込んでいた為。逆にセイルティアでは精霊がいなくなり死の世界と化していたらしい。
そこでセイルティアから精霊の力を操ることのできる少年セイルがやってきた。溢れ出した精霊達を捕まえて元の世界に帰す為に。
しかし彼はまだ未熟だった。完全に力をこちらで発揮するにはこちらの世界でソウルメイトと呼ばれる存在を見つけ殺しその力を奪わなければならなかった。
それがたまたま私だった。好奇心旺盛な彼は私をすぐ殺すでもなく近くにいて観察していた。
馴れ馴れしくしてくるセイルに最初はウンザリしていたが時がたつにつれて私はセイルに惹かれていった。
セイルがとって私の命が必要だと分かった時私はこう言ったのだ。
「しょうがないなあ、セイルにだったらあげてもいいよ。」
セイルは結局私を殺せなかった。セイルも私を愛してくれていたから。
セイルがそれを自覚した瞬間力が覚醒しセイルティアから溢れ出した精霊全てを捕まえることができた。
私達は喜んだがそれは別れの合図でもあった。彼は元の世界に帰りたくないと言った。しかしそれではいつまでたっても平和な世界にはならない。
そこで彼はアレクセイ様に頼んだ。自分は一緒に彼女を連れて行くことができない。だからあとからあなたの力で彼女を自分のいる世界へ送って欲しいと。
アレクセイ様もいつまでも帰ろうとしない彼に折れたのか渋々この条件を受け入れた。
そして今に至っているのだ。
「決心は硬いようだな。それではもうなにも言うまい。」
そうしてアレクセイ様は私の首に小さなネックレスをかけてくれた。
「これはお守りだ。なにもしてやれないがあちらの世界でも幸あらんことを」
「アレクセイ様」
私はぎゅっとアレクセイ様と抱き合った。
「さあ転移魔法を唱えるぞ。魔法陣の中へ」
私は青白く光る魔法陣の中へ入った。アレクセイ様が詠唱する。
「さようなら、私の生まれた世界」
私は光に包まれた。