第五話 決闘
『なんだか、まつなちゃんの様子がおかしいよ』
『いつもより、おどおどしていないっていうか』
『まるで、だれかに取り憑かれているような』
そんなコソコソ話が聞こえてくる。
まずったかなぁ、まつなにバレたら怒られるかな……。
でも、小学校でのまつなの状況を変えないと、行きたがらないだろうしな……。
そもそも俺とまつなは元にもどれるのだろうか。入れ替わった原因も全然分かっていないんだよなぁ。
「おい、まつな」
……だれだっけこいつ。
あ、そうだ、今朝に喧嘩売ってきたガキだ。
「……なに?」
「放課後に校舎裏に来い! じゃあな!」
そう言うと、ガキは走り去っていった。
……何今の? 決闘の申し込み?
「ま、ま、まつなちゃん!」
となりの机に座っていたおさげの女の子が、ドンっ、と机に両手を置き、顔をぐいっと近づけてくる。
「今の何!!」
「決闘の申し込み?」
「違うでしょ! もう、鈍感なんだから」
何を言っているんだこの子。
おっとっと、こんなことしてる場合じゃなかった。
「……まつなちゃん、もしかして帰るつもり?」
「おう、またな」
「またな、じゃないわよ! たくま君が勇気を振り絞って呼び出したのよ、行かなきゃだめよ!」
「いや、でも……」
「ダメ、いくの! 行かなきゃ帰っちゃダメだからね!」
「………きたな」
結局振り切ることができなかった……。あの子見かけによらず迫力すごいんだな。
「なんで後ろの方にゆうこがいるんだ?」
あの子、ゆうこって名前なのか。
「しらん、なんでいるんだ?」
「俺がわかるわけないだろ! ……おい、正直に答えろよ」
なんか質問されるのか……。困ったな、まつなの事お母さんが怖いってこととお母さんがヒスってるってことしかしらないんだけど。
「……お前、まつなじゃないだろ」
「……⁉︎」
なん……だと。
「お前は誰だ、まつなに取り憑いて、何が目的だ!」
「…………え?」
取り憑く? いや、常識的に考えてありなくないか、いや実際取り憑いてるっていうのもあながち間違いではないけど……。
とりあえず誤解を解いて、まつなが戻ってきても大丈夫なように……。
いや、まてよ、逆に利用できるんじゃないか?
まつなの真似をするにしても限界はある。仕草とか口調とかは似せることができるかもしれないが、テストの点数とかがあからさまに違うと、またあらぬ噂を立てられる可能性がある。
まつなが何かに取り憑かれていることにすれば、すべて丸く治るのでは……?
意を決し、俺は口を開いた
「……よく、分かったな」
「やっぱり、妖怪が取り憑いていたんだな、まつなを返せ!」
「返すもなにも、まつなが望んだことなんだぜ? みんなが私に意地悪をするからってよ」
俺の言葉を聞くと、たくまはうつむき拳を握りしめた。
「…………悪かったよ」
「……え?」
「……もう意地悪しない! 構ってほしくて、いろいろ意地悪したこと、ちゃんと謝るよ! だから、まつなを返してくれ」
涙目になりながら、たくまはまっすぐを俺を見据えた。
ふと、昔の記憶が蘇った。俺も昔、好きな子に構ってほしくて、ちょっかいとか色々かけていたな……。
……好きな子?
「たくま、お前まつなのこと好きなのか?」
俺がそう聞くと、たくまは顔を真っ赤にしながら目を泳がせた。
「す、好きじゃねーよ!バカ!」
こりゃドンピシャだな。
たしかに、まつな見てくれはいいものな。好きになるやつもいるか。
考えは纏まった、よし、いくか、俺の大演技。
「ふん、まぁまつなの事が好きだろうが、俺には関係ないが……、くっ、おい、でてくるなぁ! ………たくま君」
「そ、その声は、まつななのか!」
いや、声は同じだろ。
「まっててね、私、きっとたくま君に会いに戻ってくるから」
「ま、まつな、まつなぁ!」
涙をうっすら滲ませ、手を振る。
「バイバイ」
膝を地につけ、拳を地面に叩きつけるたくま。
ポロポロと涙がこぼれおり、地面が少し濡れていた。
「……どうすれば、まつなを返してくれる」
「そうだな、まつなをいじめる奴がいなくなれば、返してやらんこともない」
「分かった、約束だ」
たくまはそう言うと、背を向けてゆっくり歩き出す。
よし、帰るか。
『と、とんでもないこと聞いちゃった』
後ろからそんな声が聞こえた気がしたが、塾に間に合わなくなるから、聞かなかったことした。




