第813編「花鏡」(あなたが束ねる花は、私の心を映す)
陽の光が柔らかく差し込むアトリエの中、瑞花は慎重に**オアシス**へ挿したバラの角度を調整していた。
「もう少し、左右のバランスを取ったほうがいいかしら?」
隣で花乃が腕を組み、瑞花の手元を覗き込む。彼女のエプロンには花粉の淡い痕がついていた。
「そうね……でも、あえてアシンメトリーにするのも面白いかも。**ホガースライン** を意識して、曲線を作るのはどう?」
瑞花は少し考え、そっと手を動かす。リズミカルに配置された花々が、まるで旋律を奏でるように流れを持ち始めた。
「うん、いい感じになってきた」
瑞花が顔を上げると、花乃がじっと彼女を見つめていた。
「……えっと?」
「瑞花、すごく真剣な顔。可愛い」
「も、もう……! そういうのやめて」
花乃はくすくす笑いながら、瑞花の頬にそっと触れる。
「でも、こうしてると、瑞花がどんな気持ちで花を生けてるのか、すごく伝わるの」
「……それなら、今日はどんな気持ちに見える?」
花乃はしばらくアレンジメントを見つめ、そっと答えた。
「少し、切なげ。でも、すごく優しい」
瑞花は息をのんだ。彼女の心が、花に映し出されている。
「……すごい。花乃には、私の気持ちがわかるんだね」
「だって、ずっと瑞花の花を見てきたもの」
そっと手を重ねる。ふたりの指が絡み合い、温もりが伝わる。
「ねぇ、瑞花」
「うん?」
「このアレンジメント、私にくれない?」
「……もちろん」
瑞花は最後にそっと**レザーファン**を添え、優雅な余韻を残す。
ふたりの心が花々に宿り、アトリエには静かな香りが満ちていった。




