第807編「双璧の女神」(私たちの愛は、悠久の石よりも確かに刻まれる)
岩壁に刻まれたレリーフが、夕陽に照らされて金色に輝いている。
「やっぱり……ここの神殿は、双女神信仰ね」
石筆を指でなぞりながら、瑠璃は隣の杏沙を見上げた。彼女の横顔は、考古学者特有の鋭さと、長年の相棒である瑠璃にだけ向けられる柔らかさを宿している。
この遺跡は、古王朝時代の「双璧神殿」。ふたりの女神が対で祀られ、国家を守護したとされる聖域だ。しかし、ある時代を境に突然封印され、歴史の闇に沈んだ。
「でも、不思議よね。この主神二柱の姿、なんだか私たちみたいじゃない?」
「ふふ、そう言うと思った」
瑠璃が笑い、杏沙の手をそっと握る。汗ばんだ掌が触れ合い、遺跡のひんやりとした空気の中で温かさを確かめ合う。
長年の調査の末、ようやく封印を解いたこの神殿。しかし、まだ奥へ進むには試練があるらしい。
「この壁画、最後の試練を示してるみたいね。『愛を誓う者のみ、扉は開かれん』……」
杏沙が呟くと同時に、石床が静かに震えた。
「——ねえ、まさか……?」
「試してみる?」
瑠璃の瞳が悪戯っぽく光る。
——ここは、女神たちが永遠を誓い合った神殿。その封印を解くには、同じ誓いが必要なのかもしれない。
互いに視線を交わし、杏沙はそっと瑠璃の頬に手を添えた。
「私たち、もうとっくに誓ってるけど……改めて言うね」
遺跡の静寂の中、彼女の声が響く。
「私は、瑠璃を愛してる。この先も、ずっと」
瑠璃はふっと笑い、杏沙の首筋に腕を回す。
「——私も。今までも、これからも、あなたと生きるわ」
唇が触れ合った瞬間、神殿の奥の扉が重々しく開き始めた。
吹き抜ける風が、ふたりの髪をなびかせる。
「……やっぱり、私たちが双璧の女神だったみたいね」
「大げさよ。でも、悪くないわね」
手を繋ぎ、ふたりは暗闇の奥へと進んでいった。——愛の証とともに。




