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百合ショートストーリー集 ~百合好きなのでさまざまなジャンル・シチュエーションの百合を描いていきます~  作者: 霧崎薫


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第787編「ヴィオラの揺れる頃」(纏う色、重ねる想い——美しさの中にある私たちの秘密)

 朝の光がカーテン越しに淡く差し込み、アレクシアは鏡の前でイヤリングを選んでいた。ベッドでは、まだ目を覚ましたばかりのマリーナが、シルクのシーツを巻きつけながら彼女の後ろ姿をぼんやりと眺めている。


「今日はどれにするの?」


 マリーナが尋ねると、アレクシアは艶やかなブロンドの髪をかき上げながら、小さなジュエリートレイの上を指でなぞった。


「パールか、ローズゴールドかで迷ってるの。今日はオフホワイトのセットアップだから、ゴールドだと肌に馴染みすぎる気がするし、でもパールだとコンサバになりすぎるかもしれないし……」


 マリーナは微笑んでベッドから降り、裸足のままアレクシアの背後に立った。ゆっくりと腕を伸ばし、彼女の指先からローズゴールドのイヤリングを取り上げる。


「だったら、これ。パールの周りに細いゴールドのラインがあるから、コンサバすぎず、程よくクラシック。あなたのアイボリートーンの肌にも映える」


 アレクシアは鏡越しにマリーナを見つめ、ふっと笑った。


「さすが、私のパートナーね」


 彼女はイヤリングを耳につけると、ジュエリーケースの奥からシャネルのヴィンテージブローチを取り出した。クリームホワイトのツイードジャケットの襟元に、そっとピンを差し込む。


「さて、仕上げはリップね」


 ドレッサーに並ぶリップスティックの中から、アレクシアはディオールの#999を手に取った。サテンのような質感のクラシックレッド。


「ちょっと意外」


 マリーナがそう言うと、アレクシアは片方の眉を上げる。


「そう?」


「あなた、普段はもう少し青みのあるルージュを選ぶじゃない?でも、それはオレンジ寄り。今日の気分?」


「ええ。たまには、少し温かみのある赤もいいかなって。オフホワイトのセットアップがモノトーン寄りだから、血色を足したくて」


 マリーナは感心したように頷き、アレクシアの頬に軽くキスを落とした。


「あなたのセンス、本当に好きよ」


 アレクシアは微笑み、鏡の中の自分を満足げに見つめた。リップを塗る指先の仕草まで、美しくあろうとするのが彼女の流儀だ。


###


 午後、二人は銀座のラグジュアリーブティックを訪れた。店内はフレグランスと上質なレザーの香りに満ち、並べられたアイテムはどれも端正なシルエットを持っている。


「今季のコレクション、パステルトーンが多いわね」


 ラックを眺めながら、マリーナが呟いた。彼女はアレクシアとは違い、深みのある色を好むタイプだった。今日もバーガンディのタートルネックに、ボッテガのイントレチャートのミニバッグを合わせている。


「春の立ち上がりだから、柔らかい色味が多いのね。マリーナはパステル、あんまり好きじゃない?」


「うーん、似合わないわけじゃないけれど、ちょっと儚くなりすぎるのよね。私はもう少し、コントラストがはっきりした方が好き」


 アレクシアは笑い、マリーナの頬にそっと手を伸ばした。


「じゃあ、ディープグリーンのジャケットはどう?少しスモーキーなトーンで、マリーナの色素に合うと思うわ」


「……いいかも」


 マリーナはラックからそのジャケットを取り出し、鏡の前に立った。確かに、くすんだグリーンが彼女のオリーブがかった肌にぴたりと馴染む。


「試着してみるわ」


 フィッティングルームへ入るマリーナを見送りながら、アレクシアはふと考えた。


 ——私たちは、どうしてこうも色に惹かれるのだろう。


 纏うものに、自分らしさを込める。その積み重ねが、私たちの生き方を形作っていく。


###


 ディナーの前に、二人はお気に入りのビスポーク香水店に立ち寄った。店内の奥には、数十種類の精油が並び、ブレンダーが香りの調合をしている。


「今日はどんな気分?」


 アレクシアが尋ねると、マリーナは少し考えてから言った。


「スモーキーなウードに、少しだけフローラルを混ぜたい気分」


「マリーナらしいわね。私はもう少しライトにしようかしら……ホワイトティーにベルガモットを合わせて」


 二人はそれぞれ香りを調合し、仕上げにミルラの一滴を加えた。


「ふふ、結局、お互いの香りにどこか寄せちゃうのよね」


 マリーナが笑いながら言うと、アレクシアも肩をすくめた。


「でも、それがいいのよ。あなたが隣にいると、私の香りも変わるの」


 調合した香水を手首にのせ、そっと香りを確かめる。甘すぎず、強すぎず、それでいてしっかりとした存在感のある香り——二人の関係そのもののようだった。


###


 夜、ベッドルームに戻ると、アレクシアはそっとマリーナの肩に寄り添った。


「ねえ、あなたに選んでもらったイヤリング、すごく褒められたの」


「でしょ?だって、あなたに一番似合うものを選んだんだもの」


 アレクシアは微笑み、マリーナの髪をそっと耳にかけた。


「……あなたが隣にいると、どんな服を着ても、どんなリップを塗っても、自信が持てる」


「それは、私もよ」


 そう言って、マリーナはアレクシアの唇を優しく塞いだ。香水の残り香が混じり合い、まるで新しい香りが生まれたように感じられる。


 纏うもの、纏う香り。選び取るすべてが、二人の愛の形だった。


(完)

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