第12話 赤井姫乃
12話目投稿しました!
13話目は明日の12時頃にあげようと思います!
私は紀見塚さんと別れた後、資料の整理をするべく資料室へと向っていた。
「おい」
振り返ると私の上司が機嫌悪そうに睨みつけていた。
私が幼い頃、両親は交通事故で亡くなった。
留守番を頼まれた時の会話が最後、二度と会うことは無かった。
事故の発見が遅れたのか、今も真相は謎のままだが、家の中で一人、空腹に苦しんでいる私を助けてくれたのは、警察ではなくこの組織の上司だった。
彼は私に衣食住を与えてくれた。
彼は私に生きる為に必要な知識を与えてくれた。
でも彼は私に愛を与える事は無かった。
彼に与えられた任務、あの生物とその教育係の監視。
彼女に国語辞典を渡してみた。
理由はただの好奇心。
自分の力でどこまで成長するのか気になった。
結果は一日で使いこなすまでに至った。
正直な話、あり得ないだろう。
一日で日本語を粗方読める様になり、意味まで分かるというのはおかしいのではないかと。
そこで、私はある一つの仮説を立てた。
それは、彼女は学んでいるのでは無く、知識を思い出している、ということ。
分からない、しかしそれ以外に説明を付けようとなると、この生物の脳が人間より発達しているという事になる。
それは人類にとって危険な存在だ。
紀見塚さんが彼女に日記を渡した次の日、私は紀見塚さんに渡すという理由でチカちゃんから日記を受け取り中身を読んだ。
内容は支離滅裂で字も汚く、とてもじゃ無いが読む事が出来なかった。
しかし、一つだけ読める場所があった。
「きみたけすき」
私は、それを見て胸を大きく打たれてしまった。
次の日も、その次の日も、少しずつ上手になっていく中、必ず
「きみたけすき」
彼への純粋な愛が書かれていた。
その好きはどういう意味の好きなのか、それはまだ分からないが、私はその純粋な気持ちに惹かれてしまった。
私は彼に嘘をついた。
二人の関係が壊れないように。
あくまで研究者と実験体、そこから越えないように。
「なんですか? 珍しいですね、ここに居るなんて。私に一任するんじゃなかったんですか?」
「何故あの男に情報を流した。お前は言われたことだけをしていろ。余計な事はするな」
バレている。
一体どこで? 流石に外は不味かったか?
「俺はお前を信用している、情報を流したのも何かかあっての事なのだろう。だが、これ以上我々にとって不利益な事をするな」
「はい……」
「後、あの男にはある物を作ってもらおうと考えている。」
「ある物?」
「人間を食屍鬼に変化させる薬だ」
「食屍鬼?」
食屍鬼、聞いたことのない名前だ。
「それと、あの男が薬を開発している間はお前があの生物の教育係だ。これ以上変な真似をしたら……わかっているな?」
私は静かに頷いた。
「ヒメノ、きみたけハ?」
「紀見塚さんは急遽出張する事になったんですよ」
「シュッチョウ? おシゴトか?」
「そうですよ、お仕事です」
「ウゥ……きみたけぇ」
彼女は寂しそうに項垂れる。
そんな彼女だったが、はっと何かを思いついたかの様に顔を上げる。
「テガみかく! ヒメノ! ワタしテガミをカくよ!」
「手紙ですか? いいですね、私が紀見塚さんに届けますよ」
「アリがトウ! カクかラマッてテ!」
テーブルの上に置いてあるノートの紙を1枚ちぎり鉛筆で字を書いていく。
数分後、
「デキタ!!」
出来たのか私に紙を渡しに来た。
内容は、
「おしごとがんばって! わたしもべんきょうがんばる! きみたけだいすき!」
胸が苦しくなった。
何故嘘をついたのか、正直に話せば良かったのではないのか?
わからない、頭の中をごちゃまぜにかき回されている様な感覚、
私はどうすればいいのだろうか。