新たな疑惑
追憶に浸る老人を警察官は慌てて制止した。
「マルテネス・リンドについていえることは、彼女は随分秘密主義のように思えましたね、個人的なことに対して随分と突っ込まれることを嫌っていた。親しい人間も随分と少なかったのではないですか、芸風と違って、少し陰気な女だと思っておりましたね」
そう言って視線を宙にさまよわせる。
「おそらく家庭環境に問題があったのではないかと思われますね。家族とは絶縁のようなことになっているらしいという噂も聞きましたし」
家庭内トラブルは、殺人事件の温床というのは警察管ならだれでも知っている。
男が殺された時は妻を、女が殺された時は夫を疑えというのは鉄則だ。
「親しい友人といっても数名ぐらいですが。後は仕事関係のみだったと」
「名前はわかりますか?」
「マリオン・ケネスと、マティルダ・リオンという女優は時々仕事で組んでいたと思われますが、それなりに親しかったと思われますな」
警察官は二人の名前を書き記した。
「後、闇夜鷹、当代の闇夜鷹が個人の仕事を請け負うのは極めて珍しい、それを考えればかなり親しい人間だと思われますが」
「闇夜鷹ですか」
舞台関係者以外はまともにあったこともない人物だ。
時折新聞に小さく載るが、一般人はあまりなじみがない。
「基本的に、舞台監督や、興行主と契約が主なもののはずです。個人での契約はほとんど聞いたことがない。おかしな話ですね」
本職が言うのならそうなんだろう。
それ以上有力な話は聞きだせそうになく、老俳優に一礼して戻ってもらう。
「呪具屋ですか」
個人の呪具屋は基本料金が高いので、一般人はあまりなじみがない。
呪具屋は税金がかなり高いので、顧客にたっぷり請求しなければならないかららしい。
公務員であれば税金は一般人と同じになるが、その代わり仕事内容を自分で選ぶことができなくなる。
個人の技量や才能によって、どちらかを選ぶことになるのだ。
ただ才能がある人間というのは癖のあることが多いのも事実。売れっ子の呪具屋が妙な性格をしているというのは珍しいことではない。
「闇夜鷹か」
性別も年齢も彼は知らないが。なんとなく不穏なものを感じたようだった。
しかし考える暇もなく、別の人間の取り調べが始まった。
部隊の雑用係、あまり人目につかない役柄だが、こういう人間が案外人の秘密を聞き出しているものなのだ。
そばかすの浮いた、あまりぱっとしない容貌の相手はぼそぼそと話し始めた。
「マルテネスはその、あんな容姿でも女優になるんだと思いましたね」
やはりマルテネスの容姿は悪目立ちしていたらしい。
「まあ、舞台では、美男美女ばかりだとかえってしらける。ああいう引き立て役みたいなのが必要なんだと言われればその通りなんですけど」
人の容姿を貶せるほどじゃないだろう。
結局マルテネスは実力はあるが、容姿のせいで役柄に恵まれない女優だったとしかわからない。
先程の友人だという女優からはどういう話を聞き出せるのか。そして、闇夜鷹の取り調べをもう一度すべきという結果だけを彼は書きだした。




