黒曜石の瞳 Ⅰ
僕のことなんか、君の目には映っていなかったみたいだ
君はいつも何かを探している
君は一人ぼっちなの?
僕の声なんか、君には聞こえてないみたいだ
君のこと、ずっと前から知っているのに
君は、僕の事なんか見えてないんだろう
君に初めて会ったのは、いつだっただろう。
真っ赤な夕日がこの世界を赤で染めていたのを覚えている。
君は何かを探していた
家の仕事を済ませた後だった
ゴミの中で何かを探す、痩せた子供に
僕はそっと近づいた
汚れた物から泥を手で拭い、中を確かめていた
ただとても一つ一つの動作が見とれてしまうものがあった
細い腕から指先にかけて
すべるように動く
この地には、まったく不似合いで不必要な上品さが備わっていた。
同じぐらいの年だろうか。
「何してるの?」
僕は、勇気を出して声をかけた。
この頃の僕の目は、まだ澄んだ色をしていたのかもしれない
君は、動きを止めて、ゆっくりと振り返った
黒曜石のような瞳がこちらを向いた
僕を確かに見ているのに、焦点を捉えることのない瞳
顔の輪郭を隠すように、流れる髪は、濡れたような漆黒で、ゆるやかな曲線を画いていた
性別を問わない端正な顔立ちをしていて
僕は、このとき、美しいという物を初めて見つけたように思う
瞳が揺れた
「本。」
何を言われたのか、分からなかった
「本だよ。本を探してるのさ。」
「…本?」
君は僕を置いて、行ってしまう
行かないで
君を追いかける
どこまでも
どこまでも着いて行けたらよかった
僕は、君を最後まで守りきることができなかった
君の大切なものすら、守ることができなかった
廃墟の奥に、君を家はあった
砕けたコンクリートが一面に転がっている
壊れた螺旋階段を上り、行き着いた先の扉の奥
その部屋は、円形で、壁はすべてが本でできていた
床も本で埋め尽くされている
「君は誰?」
「知らない。」
僕は、笑った。
「僕もだ。僕も、自分を知らない。」
君の黒曜石は、いつだって手元の本を見ている。
君の前に、僕は本当に存在していたのだろうか