第1章:オッドアイの子ども
街から数キロ離れた、工場の騒音の届かない小さな丘の上に、
ごくありふれた小さな家が建っていました…
その家には、母とその息子が暮らしていた。
少年は、ほとんど現実離れした美しさをしていた。金色の髪が、天使のような顔を縁取っている。
それなのに、彼には友達が一人もいなかった。
父親の顔さえ、思い出せない。
彼にとって、母親こそが残されたすべてだった。
ある日、少年は学校から帰る途中だった。
そのとき、土砂降りの雨が降り出し、少年は雨宿りしようと走り出した。
そして
ドン
少年は激しくつまずいたが、ほとんどすぐに起き上がった。振り返って、何につまずいたのかを確かめようとした。
一見ただの裂け目だったが、不思議なことに雨水が溜まっていない。ますます好奇心をかき立てられた少年は裂け目に近づき、今度はまっ黒な、ぽっかりと開いた穴を見つけた。
少年は不思議そうに、その穴を見つめていた。
そして無意識のうちに、そこへ手を差し入れてしまう。
その瞬間、穴からムカデの大群が這い出してきた。
すっかり怯えた少年は、慌てて手を引き抜いた。
引き抜いたその手は、一冊の本を握りしめていた。少年はそれ以上深く考えず、新しい本をカバンに入れると、急いで家へ駆け戻った。
カチャ
扉を開けると、きしむ音がした。屋根を打つ雨音が騒がしい。
家の中は暗く、静まり返っていた。少年は自分の部屋へと続く廊下を進んだ。床板の下から、奇妙なささやきが聞こえてくる。
通り道には、わずかに開いた母の部屋があった。
そこには、椅子に座り、窓から降りしきる雨を眺めている母の後ろ姿が見えた。
少年はそのまま歩き続けた。
部屋に着くと、着替えをした。
カバンを片づけていると、ふと先ほど見つけたもののことを思い出した。
カバンを開けて、本を取り出す。
それは妙に傷んでいて、とても古そうだった。
表紙は病的な黄色をしていた。けれども、題名らしきものが書かれているようだ。
[ 黄衣の王の劇場… ] と、少年は声に出して読んだ。
少年は急いで本を開いた。文字は奇妙で、意味をなさない言葉同士が、互いを補い合っていた。
次のページをめくると、言葉はさらに理解できないものになっていた。
まためくると、見知らぬ文字が並んでいた。
もう一枚めくると、そこでは、いくつかの文字が動いているように見えた。
それから一枚、また一枚と、何度も、何度も、何度も――少年の指は、もう自分では止められないようだった。
熱に浮かされたように最後のページにたどり着くと、そこにはこう書かれていた。
[ 観客は役者となる ]
雨音がぴたりと止んだ。窓も、本も、家具も…何もかもが消えた。
ただ白だけが
どこまでも果てしなく広がっていくようだった。
少年は床に倒れていた。その顔は、空っぽだった。
[ お母さん… ]
少年はもう一度繰り返した。
[ お母さん… ]
少年は震えながら立ち上がった。
[ お母さん! ]
ある声が、それに答えた。
[ お母さん! ]
怯えた子どもの呼吸が乱れ始める。
歩を進めるにつれて、人間のような形をした、全身が真っ白な生き物たちが姿を現した。
その生き物たちは、ささやいていた。
おおぉ! お母さん?
どこ! どこ!
食べられたのかな?
飲まなきゃいけないかもしれないね…
ユニコーンはピンク色だよ…
少年はますます恐ろしくなった。
泣き出してしまった。
そして走り出した。
[ お母さん!! どこにいるの!! お母さん!!! ]
白い影たちは面白がって、少年の真似をし始め、くすくす笑った。
お母さん!
お母さん!
お母さん! アハハハハ! お母さん!
[ やめて! お母さん!!! ]
お母さん!
お母さん!
アハハハハ!
生き物たちは跳ね回り、踊りながら、その言葉を繰り返していた。
[ めそめそ泣くのはやめてちょうだい…… あなた、あまりにもうるさすぎるわ ]
不思議な声が、絶え間ない喧騒に終止符を打った。その声は、数メートル先まで響いていた。
[ 助けて! お願いです! ]
少年は声のするほうへ駆け出し、目の前に、小さな女の子のような人影を見つけた。
[ 助けて、ですって! なんて皮肉なのかしら!? ]
その少女は、豪華なドレスで着飾っていた。白い髪が、腰まで垂れている。
少年は、ついに彼女の顔を見る勇気を出した。
鋭い痛みが、両目を貫いた。
思わず両手で顔を覆う。
指の間から血が流れ出した。
脚から力が抜けた。
[ 私の姿が見ていられないの? 随分と弱いのね…… ]
少女は背を向け、後ろ向きのまま話し続けた。
[ あなた、内側から来たわけじゃないのね…… きっと外側から来たのでしょう。初めてのことだわ ]
少年は、なんとか座り直そうとした。
涙が、再び頬を伝った。
[ お願いです…… 家に帰りたいんです…… ]
少女は数歩進んで、ぴたりと立ち止まった。
そのとき、白い影のうちの一体が少女の前へ駆け寄り、椅子の姿勢をとった。
少女はそこに腰を下ろして、話を続けた。
[ 家…… ああ、なるほど。だからお母さんと叫んでいたのね ]
[ お姉さん、あなたは…… 僕を家に帰してくれますか? ]
少年はどもりながら言った。
[ 母親…… 家…… そんなものはもう、何一つ残っていないわ! いえ、でも…… ここが今日からあなたの新しい家よ! しばらくすれば、慣れるわ! 存在しないことを、学んでいくのよ! ]
少年の表情が崩れた。
その目が大きく見開かれた。
[ ぼ…… 僕はもう、お母さんに会えないの!? ]
はっ!
はっ!
はっ!
少年の肺は、今にも破裂しそうだった。全身が震え、涙はとめどなく流れ続けていた。
[ あなたの母親にとっても、あなたの世界にとっても、あなたはもう存在しないの…… ]
その新たな言葉は、哀れな子どもを完全に打ちのめした。
[ アアアアアアア!!!! いやだ!!! お母さんに会いたい!!! お母さん!!! ]
[ いい加減に黙りなさい! ]
少年は崩れ落ち、頭を激しく掻きむしり始めた。
白っぽい生き物たちが、少年に近づいた。
アハハハ! おかしくなった! おかしくなった!
お母さん!
お母さん!
彼らは再び芸を始め、今度は少年と謎めいた少女を取り囲んだ。
[ 惨めなものね…… これが究極の絶望というものなの? ]
[ いやだ! いやだ! お母さん! ]
少年は繰り返した。精神は、崩壊の寸前だった。
[ 何ですって!? いやだ、ですって!? 私に怒鳴るの!? でも、私には何の関係もないわ! 私たちはみんな、同じ船に乗っているのよ! ]
少年は自分の首をつかみ、ねじり始めた。
白っぽい生き物たちは、呆然とした。
死ぬ気だ!
僕が殺してるの?
違う違う! あの子は不死身なんだ!
[ 君にはわからないんだ! どうせ、行き着く先はいつも同じなんだ!! ]
少年の視界は、ますますかすんでいった。
[ いいわ、それなら行きなさい…… でも、最悪の事態は避けさせてあげたかったのに…… 外にはね、狂気しかないの。そして、それがあなたを待っているのよ…… ]
少年が横たわっていた地面に亀裂が走り、その瞬間、少年は落ちていった。
少年は目を閉じた。
気がつくと、再び自分の家にいた。
母は背を向けて、窓越しに雨を眺めていた。
涙があふれ出した。
[ お母さん! ]
少年は叫ぼうとしたが、声は出なかった。そこで、母のもとへ駆け寄った。
力の限り走って。
走って、走って、走り続けた。
けれども、どうしても母にたどり着けなかった。
それでも、少年は走り続けた。
突然、声があふれ出した。
お母さん!
ユニコーンはピンク色だよ
死ぬ気だ!
君にはわからないんだ!
声が四方八方からざわめいていた。生き物たちの声、少女の声。そして、自分自身の声。
それでも、少年は走り続けた。
呪いだ!
違う違う! あの子は不死身なんだ!
外には、狂気しかないの……
ようやく息子が母のもとにたどり着いたとき、
そして、それがあなたを待っているのよ……
女が振り返ると、顔のないその頭が言った。
[ あなたは誰? ]
厚く垂れ込めた灰色の雲の下。
草木に埋もれるように横たわり、遠くまで広がる野原が見えていた。
涙で潤んだ目で、少年は唇を動かした。
[ 僕は誰? ]




