第13話 流星
「そんな……ヘルゲイズを今から何とかできないんですか?」
「今はヘルゲイズはまだ何もしていませんからどうすることもできません。そして暗殺が一部明るみになりますが、魔族では最も強い者が王となる、という暗黙の了解が前提ですのでヘルゲイズの即位は成立します」
エレノアは俯いた。
「そして、こんなことを言うのは心苦しいのですが、あなた方二人もまもなく寿命を迎えます。仮に私の暗殺の場に居合わせて護衛しようとしてもあなた方も殺されてしまうでしょう」
救世主やヒーローが登場して平和を守る勧善懲悪の話はマンガやアニメのハッピーエンドだけであり現実は甘くない。
「私は人間をこよなく愛しています。魔族と一緒に幸せそうに暮らす人々を見るのが私自身の幸せであり、その理想を実現できたことに満足感はあるのですが……いくら理想を実現してもそれを維持することの難しさを痛感します。私の力が及ばず、今後人間の皆様に大変なご不便をおかけしてしまうことを深くお詫びします」
「何をおっしゃいますか。エレノア様は王として最高の治世をなされましたしお仕えした我々もそれを誇りに思っています。金剛不壊などというロマンは存在しません。いつの時代も苦難を乗り越えたものが時代を切り開いていく、そうして歴史は積み重なってきました。将来は将来の者に託しましょう。我々はできることをやりました。後世に形を示して残せたならそれは間違いの無い功績です」
エレノアはこの頼もしい人間臣下に囲まれたことに幸福を感じた。
月日は流れ、王宮の庭では故アーサー・ルシアンの像が太陽を見上げていた。
「エレノア様、体調はいかがでしょうかね。病に効くというお薬をお持ちしました」
王室の廊下から少し高い男性魔族の声が響く。
「ヘルゲイズ、あなたの要件はわかっていますよ。入ってください」
「さすがはすばらしい予知能力、理解が早くて助かります」
ヘルゲイズは武装した数名を伴って王室に入室した。
エレノアの予知は完璧であった。
人間を愛した魔王の生涯はここで幕を閉じた。
病を患ってもなお華奢でかわいらしい少女の外観のまま。
人類の苦難の歴史が開幕した。




