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どうやら最強の女の子を恋に落とさないといけないらしい  作者: ラー油


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11/11

11.俺と萩原の過去

 「待ってくれ萩原」

 「七ノ瀬君、どうかしたの?」

 「よかったらもう少し話さないか?帰りながらでいいからさ」

 「私からもお願いしていい?」

 「喜んで」

 僕はそう答えると萩原の隣に立つ。

 「萩原って俺と同じで高校編入だよな。中学以前はどうしてたんだ?」

 「私は中学まで公立で、小学校が同じ人も多かったから能力の事もある程度受け入れてもらってたの。友達ができてから能力が発現したのもそうだし、純粋だったから」

 確かに小学校の頃を思い返せばどんな能力を持っているかが論点だった。

 強いや面白いが優先されていて、心が読めるとなれば面白い能力として扱われそうだ。

 特に隠し事もない時期でもある。

 だが年齢を重ねるにつれて変化していくものでもある。

 「中学ぐらいになると皆んな秘密を持つようになって、私は知りたくない事ばかり知っちゃって」

 知りたくない事か、藤原の裏の顔といったものや俺の秘密など様々なものがある。

 どんな事か聞いていいものだろうか?

 「そんな大層なものじゃないから」

 「あ、そっか意味ないか」

 気遣った時点で萩原には分かってしまう。

 かといって脳死で踏み込むのも違う。

 「七ノ瀬君って心は優しいんだね」

 「外面も優しいでしょ」

 俺がそう言うと萩原は明らかな愛想笑いを向ける。

 まあ、俺は萩原が部室に入ってすぐに逃げたからな。

 態度に関しては優しいわけない。

 「いや、私が悪いから。七ノ瀬君は絶対に心を読まれたくなかったよね」

 「そうなっちゃうね」

 誰かを惚れさせないといけないなんて恥ずかしいし。

 それに俺の〈愛情支配〉に関しては任務関係なしに父さんから口止めされている。

 出力がかなり高く、能力が発動さえしたらなんでもできてしまうからだ。

 虹色の能力は基本的に隠した方がいいとのことだ。

 じゃあ、今の俺はおかしな人になるわけだが。

 「俺のことは気にしないでよ。俺は自分の意思で心を見せることを決めたんだから」

 「そう言ってくれると助かる」

 萩原はそう言って笑うと沈黙が訪れる。

 気まずい沈黙ではなく、萩原が何か言いたそうにしているので待っている形だ。

 恐らく俺の心を読んで知った事について聞きたいのだろう。

 相手の意思に関係なく知ってしまった事を聞いていいのか迷っている感じだろうか?

 そして聞いてしまうと答えを読めてしまう。

 俺には悲しい過去も、複雑で隠したい人間関係もない。

 聞いてくれて構わないが、萩原が決める事だろう。

 俺はゆっくりと待つ方がいいだろう。

 「……聞こえてるんだよ?」

 「あ、そっか」

 心が読まれるって慣れないな。

 「七ノ瀬君がそう思ってるなら聞こうかな」

 萩原はそう言って一息吐くと、口を開く。

 「七ノ瀬君の能力って、仮に私が七ノ瀬君のことを好きになったら私の能力を消すことって出来るの?」

 萩原は真剣な表情を俺に向ける。

 そういう意図があるかはわからないが、俺は即答する。

 「出来るよ」

 〈愛情支配〉さえ発動すれば相手の能力を消すことも、奪うこともできる。

 そして俺を嫌いになったところで、能力の効果は決して消えない。

 「俺の彼女に立候補してみるか?」

 「ははは、それは遠慮しとく」

 なんとも見事な愛想笑いだ。

 ふざけただけなのに悲しくなる。

 「七ノ瀬君は中学まで能力の事みんなに言ってたの?」

 「言ってないね。口止めされてたし、言ったらからかわれそうでしょ?」

 「まあ、確かに。でも、能力無しの学校生活なんて苦しくない?」

 「苦しかった時もあるよ」

 能力が発現した時なんかは、意味不明な能力だと思った。

 ただ現実は変わらないし、受け入れるしかない。

 少数側であるこもを受け入れて、その上で前を向く。

 特に能力が無いことを馬鹿にされたりしたことも無いし、周りに恵まれていたことが大きいけど。

 「私はそこまで納得できない。だって今でも能力が〈読心〉じゃなければって思ってる。七ノ瀬君は自分の能力が別のだったらって思わないの?」

 「思わないよ」

 俺は文字通り即答する。

 思考を挟まずに自分の思いを口にする。

 〈愛情支配〉が無ければ今の俺は存在しない。

 「俺は自分の能力を心の底から愛してるよ」

 「それは、どうして?」

 「俺は父さんと母さんにはこの瞬間でも能力を発動できる」

 そして俺は親に対しては能力が発現した時から使えた。

 「俺が小学二年生の頃さ、事故にあったんだ。学校帰りの真っ昼間に飲酒運転の車が突っ込んできてさ、内臓も身体もボロボロで即死はしなかったけど、救急車が来た頃には助からないって判断されるぐらいにね」

 最初はもはや痛いとかいう感覚でもなかった。

 他人事のようで、理解の及ばない感覚。

 だが現実が分かるにつれて果てしない痛みに襲われた。

 いっそのこと殺してくれと本気で思ったのはその時だけだ。

 「でも、今は元気だよね七ノ瀬君」

 「うん、身体のどこにも異常はないよ」

 俺の傷は誰にも治せないものだろう。

 恐らく東野レベルの能力をもってしても無理だ。

 それでも俺が治った理由がある。

「俺の母さんの能力は〈身代わり〉って言って、触れた相手が受けた被害を肩代わりすることができる能力なんだ」

 母さんが俺の傷を全て受けた。 

 死ぬほどの痛みが嘘みたいに消えて、隣を見ると苦しそうな母さんがいた。

 でも母さんはうめき声さえ出さなかったし、笑顔を向けた。

 「ダメだ。死ぬことは許さない」

 俺がそう口にした瞬間、母さんの傷は何もなかったように再生した。

 〈愛情支配〉は死んでいなければ、どんな傷でも治せることを理解した。

 「さっきも言ったけど、この能力があったから今の俺があるんだ。それにこの能力のおかげで家族から愛されていることが分かるんだ。そう言った意味でも俺はこの能力が好きだよ」

 「凄いね七ノ瀬君は。それに羨ましい」

 萩原は俺をまっすぐ見るとそう口にする。

 羨ましいとはどういう意味だろう。

 「まっすぐ、本心で能力が好きだって言えることだよ。私も言えるようになりたい」

 萩原はそう言うと意を決したように口を開く。

 「私は七ノ瀬君と比較したら、しょぼい話だけど聞いてほしい」

 悩みに大小はないよ。と言おうとしたが野暮だな。

 萩原のペースで話すのを待つべきだ。

 「ふふ、じゃあ私のペースで話すね。私はずっと仲良かった女友達がいたんだ。春奈って言ってお互いに隠し後ともなくて、でも中学二年生ぐらいかな、その子に好きな子ができたの」

 小学生までの恋愛は結構適当なことも多いが、中学生にもなると、思春期かつ部活といった本気になる場も増え、恋愛がちゃんとし始める年齢だ。

 「結論から言うとね、春奈好きな人は私のことが好きだったの」

 「あぁ、それは大変だね」

 友達と好きな人が被るとかの比ではない。

 萩原に奪うつもりも狙っていたつもりもないのだったらなおさらだ。

 「三人の共通点で言えば、美術部が一緒なぐらいで、その子と特別深く関わってるつもりわかなったはずなんだけど……」

 萩原の言い方的には勝手に惚れられた感じだろうか。

 深く関わっていないなら、一目惚れというか、顔で好きになったのか?

 まあ、萩原のルックスなら下手な女子の積み重ねを捩じ伏せれそうである。

 「ご、ごほん。顔というより私の活発で元気な性格好きになってくれたみたいで、今の私からだと想像つかないかもしれないけど、凄く明るい子だったから」

 「そんな気はするね、名残を感じるし」

 俺がそう言うと萩原は少し恥ずかしそうにする。

 「私はできる限りその男の子と関わらないようにしてたけど、相手は私の事が好きなわけだから接点が増えて、告白されちゃったの」

 それは気まずいな。

 でも相手も心が読めることを知りながらアタックしているあたり本気なのだろう。

 「そこなんだよね。私は嫌でも相手が本気なのが分かるし、私が心を読める事も知りながらあそこまで真摯に思ってくれるなら付き合ってもいいと思った。でも私は口が裂けても、はい。とは言えなかった。だって春奈の好きな人なんだもん!春奈が本気なのも知ってる!」

 萩原は吐き出すようにそう口にする。 

 その姿が痛ましくて、胸が痛くなる。

 「私は断ったの、恋愛的には見えないとか、適当な理由で。でもこれは別に本心じゃなかったし、失礼だと思ったけど、どうしようもなくて!もし春奈がいなければ傷つけなくて済むとも思っちゃって!」

 この事に関して言えば、誰が悪いとかはないだろう。

 ただ知っているというだけで、萩原が苦しむ形になっている。

 「人間って恋愛に関しては鋭くて、私が振ったことは察されてた。たぶん気まずさから分かったんだと思う。もちろん春奈の耳にも入るわけで」

 萩原はそう言って春奈と二人で話した当時の会話を再現する。

 「ねえ悟李、告白されたのって本当?」

 「……うん」

 「そっか、あんまり話してなかったのにね」

 「そう……だね」

 「それとも、私が知らないだけ?」

 「そんな事はないよ。私、できるだけ関わらないようにしてたし」

 「そんな悟李に私は負けたんだね」

 「ごめん」

 「謝らないでよ、悟李は悪くないんだから。私が悪いから、魅力が足りなかった」

 「そんなこと、ないよ」

 「なら!私が!」

 「……ごめん」

 「ごめん悟李、これ以上は悟李を傷つけちゃうだけだね。じゃあね」

 「……やめてよ、悟李なんかいなければ。なんて思わないでよ」

 萩原は春奈の背中を見ながらそう呟いた。

 でもその権利もない。

 だって私も春奈がいなかったらって思ったんだ。

 「それは、しんどいな」

 萩原も春奈も悪意があったわけではないだろう。

 思わず思ってしまった感じだろう。

 「私が心を読めなければ、こんな思いしなくて済んだのかなって思った」

 萩原はそう言うと涙を流す。

 その痛ましい姿を見て胸が痛くなる。

 「確かに心が読めるから起きたことだけど、逆に心が読めなかった時を考えてみてもいいんじゃないか?」

 「心が読めなかったら結構変わってたんじゃ……」

 「変わってるかな?春奈が打ち明けてたかは分からないけど、打ち明けてたら心が読めめるのと結果は変わらなさそうでしょ。打ち明けてなかったとしたら、萩原はどうしてた?」

 「……付き合ってた可能性が高いかも」

 何も雑念なく告白されていたらそうなりそうだ。

 「それって、実際の結果とあまり変わってなくない?」

 結局のところ春奈が傷つくのは変わらない。

 「そう、だけど……」

 「むしろ萩原が心を読んで行動したからこそ、奪うような動きが無かったと思わない?」

 「それは……」

 「俺は萩原のこと優しい人だと思うし、それに〈読心〉も優しい能力だと思う」

 心を読んで、友達の邪魔をしないようにする。

 この行動がとれたのは心が読めたからだ。 

 それに別に恋愛だけに限った話ではない。

 友達が苦しい時、真っ先に気づくことができる。

 もちろん知りすぎてしまう苦悩こそあるが、俺はそれでも優しい能力だと思う。

 「本当にそう思う?」

 「本当だ。噓じゃないのはわかるだろ?」

 「ねえ、心が読めてもいいと思う?」

 「いいと思うぞ。少なくとも俺は萩原が友達にいてくれたら嬉しい。俺が間違った事を考えていたり、悩んでいる時に気づいて話を聞いてくれそうだし」

 なんか打算的な感じになってしまったが、萩原の人間性も込みだ。

 「ふふ、変わってるね七ノ瀬君は。好きな人ができたら真っ先にバレるんだよ?」

 「その時は協力してよ。矢印が重なることはないだろうしさ」

 「ふふ、考えておく!」

 萩原はそう言って楽しそうに笑う。

 その屈託のない笑顔を見て、俺の心配は消える。

 もう大丈夫だ。

 「ねえ七ノ瀬君。七ノ瀬君は自己紹介の時に能力もハレニウムの色も公開したんだよね?」

 「能力は偽ってるけど、そうだね」

 「私ね、七ノ瀬君の事尊敬してたんだよ。〈情報家〉って一方的に能力が分かる能力を持ってるのに、堂々と能力を言って友達を作ってる。学校に早く来て少しでも友達を増やそうとしてさ、私とは違うんだって」

 萩原はそう言うと俺にスマホを手渡す。

 周りを見ると公園で、ある程度大きな声を出しても大丈夫そうだ。

 「私は七ノ瀬君と同じことをしたら心が読めちゃうから。動画にする」

 「いいのか?クラスラインに残り続けるけど」

 「覚悟の上だから」

 「なら、いいんだ」

 俺はそう言うと萩原のスマホで動画の撮影を始める。

 「私の名前は萩原悟李、能力は〈読心〉で近くにいる二人の心が読めます!心を読んで知ったことは決して口外しません!元美術部なので、絵が得意です!こんな私でも仲良くしてくれる人がいたら、よろしくお願いします!」

 萩原が大きな声で言い終えると、俺は撮影を止める。

 「確認してくれ」

 「いや、さすがに自分で確認するのはキツイ」

 萩原がそう言うので俺が確認する。

 あえて聞こえ音で再生して――

 「再生しなくていいから!」 

 「冗談だから」

 「今は求めてない!」

 「それはそう」

 俺はそう言うと動画を再生する。

 もちろん萩原には聞こえない音量でだ。

 「凄くいいと思うよ」

 「なら、送信する」

 萩原はそう言うとクラスラインを開く。

 だが送信ボタンを押す手が震えている。

 そりゃあ怖いよな。

 試しに俺のことを好きになってくれた子に能力を打ち明ける事を想像してみる。

 俺にその意図が無くたって〈愛情支配〉があると、客観的に見て俺の方が立場が強く映るだろう。

 だって俺が能力を使えば相手になんだって出来るのだから。

 可能なら墓まで持っていきたい。

 使っても死なないようにすることぐらいだろう。

 能力が原因で嫌われることだって――

 「それを聞くと、言わない方が怖いかも」

 萩原はそう言って身震いをすると、笑顔を向ける。

 「七ノ瀬君なら、後から能力を伝えても大丈夫だと思うわ」

 萩原はそう言うと送信ボタンを押す。

 いつの間にか僕が励まされている。

 「もう大丈夫そう?」

 「うん、やっと前を向けそう」

 萩原はそう言って眩しい笑顔を向ける。

 不覚にも可愛いと思ってしまう。

 「聞こえてるからね!不覚にもって何よ!」

 萩原は怒りながらそう言ってもう一度笑う。

 もう大丈夫だ。

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