表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/39

ルシャ・アヴァダーナさま

「供物、ってそれ。やっぱ人じゃないの…くっさ、オエッ!どんな熟成方法してんのよ?!?」


 ルシャという姫君は人間でないのは確定だ。それによっぽどの腐肉を好む魔物らしい。ハエも寄り付かないくらいには悪臭で、山伏式神は嘔吐く。

 こんなのは初めてだった。


「ルシャ様が編み出した特別な製法です。どんな疾病にも効くんですよ」

「なによそれ???深夜の怪しいテレビショッピングじゃないっ!…あれ?わたし、テレビショッピングなんて見た事は無いはず…」


 鼻をつまみながらも自分に備わった知識に疑問がわく。俗世から離れた荒れ野にテレビなどあるはずがない。

 だが不思議と、夜中に延々と流れるテレビショッピングを()()()いるのだ。


(あの肉…本当に野生動物なのかしら…ああ、拾い食いする癖が祟った…)


 扉が開くのを待っていると、中からわずかに人の声がした。それに応え、恭しくリスが観音開きの門を片方動かした。

「ルシャ様。例の方がまいりました」


「こんばんは。ふふっ。貴方が例の…」

 少女がちょこんと上座に座っていた。その後ろ──隠された簾の奥から「お上がりになって」と可愛らしい声がした。幼げな、それでいて上品さを含む。



「な、なにこれ…」



 腐敗臭は強くなり、山伏式神は度肝を抜かれる。「供物って首?!」


「そうですよ」

 リスが営業的な笑みを浮かべる。お堂にはズラリと生首が壁に飾りつけられ、かなりだが腐敗した状態を保っていた。

 お堂にあるはずの装飾が埋もれ禍々しい空気が漂っている。


 腐敗したまま、骨に人体を構成している組織が付着している。死したらすぐに硬直する咬筋──死後硬直から緩んでおらず、異常さに虫すら寄らない訳だ。


「何故食べないの?!もったいないじゃない?!」

「食べる?貴方は人を一々食べているの?変な魔物ね?(わらわ)は観賞用が好きよ」

「か、観賞用は考えた事はなかったわ…奇抜な趣味をお持ちなのね」


「ルシャ様。そろそろ自己紹介を」

 簾の奥からクスクスと笑い声がする。


「まずそちらから名乗られよ。旅人さん?」

「わ、私は…化け物、荒れ野の暴食魔神、または…あー…山伏式神、とか呼ばれていたわ。なんとでも呼んで」

 名乗るなど人ならざる者らしくないではないか。先程、リスが言っていたように。


「なるほど。童はルシャ・アヴァダーナ。こちらは童のヨリマシ」

「大層なお名前ね」

 異界には異国情緒溢れる名の人ならざる者がいても不思議ではない。これまでも何回かそんな輩がいた気がした。


 ──名前は魔物にとって不要なのだ。いくら着飾っても意味が無い。ステータスにはなり得ない。

(人間に可愛がられてきたのね。恵まれているわ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ツギクルバナー

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ