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まやかし茜色と贋作 〜式神もどきと夕日の腐敗した村〜  作者: 犬冠 雲映子
式神もどきはまやかし茜色と贋作を否定する
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そう簡単なオンナじゃないの私は

「人身供養に出された修験者の娘。それがお前を最も形作る無念の形。まあ、人ならざる者なんて本来の形なんて無いも等しいけれどね」

「そ、そうね」


 ルシャが見捨てられた姫の残滓のように、自らも誰かのこびりついた呪詛に似た何かだったと?


「私には、…。山伏式神には関係ないわ。だってもう人間じゃないもの。そうでしょ?神さま」

「…羨ましいね」

 神さま、と言われるや否や情けなく笑い頭から手を離した。


「あんたの友達より長生きしなよ」


(え?)


 脳裏に童子式神や巫女式神の顔が浮かび、何だか悲しいやら恥ずかしくなる。

「と、友だち、とかじゃっ!」


「さあ、話している暇はなかったね。約束は叶えてもらえた。山の女神である私も手伝う。日間(にちま)の頼みだ。日仏村を破壊する」







 瞼を開けると時が動き出したように思える。日照が手を止め、わなわなと震え出した。

「…日照?」

「ひ、ひ、ヒツ、サ…マ」

 干からび何百年と閉じられていた唇が僅かに動く。

「ヒ、ヒツサマ、ヒツサマ!ああああああ!私は村を!!村を」

「何しているの?!日照?」


 絶叫し、そうして自ら隠し持っていのか、小刀を深々と喉に突き刺した。腐敗しきった血しぶきが舞い、山伏式神も目を見開きそれを眺めるしかなかった。

 自害してしまった。あっけなく。


「ひでり!なんで?!ひでり」


「…ルシャ様。太陽が登り、村を照らしています」

 リスが恭しくも動揺しながら告げた。外から久しく耳にしていなかった野鳥の(さえず)りが聞こえてくる。

「リス。良かったじゃない。時間が元に戻って」

「…お前は」

「…。越久夜町に帰るの」


 山伏式神はありったけの力で間近にある空間を叩き割る。


 亀裂が入り、バラバラと破片を起点に綻びが広がっていく。古びた床板の下にはあのガラスで隔てられ──不可思議な光景が広がっていた。

 たくさんのガラス張りの空間。

 監視室。

 ガラス張り、たくさんの四角い空間が連なり、静寂に包まれている。中身は空。


 箱の中、自分は閉じ込められている。

 真っ暗な中に僅かな光を放つ透明な壁。壊してしまえば何か変わるのだろう。


(童子式神。今度こそアンタと相見えるわね。けど、そう簡単なオンナじゃないの私は)


 村に充満していた古い空気が穴から雪崩落ち、真空状態に陥っていく。

 加えて自らの力を放出し黒い霧がブワリと舞う。お堂をあっという間に満たしたそれは戸をすり抜け村へ、漂っていった。越久夜町の力を使うために。


「何をした?」

 リスが怒りを込め、低い声音で問うてきた。


「全て消すのよ。この地に起きた記憶も、人間も」

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