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味方

　牢獄の外から足音がして、慌てて自らの収納スペースに資料をしまう。日照がゆっくりと廊下からやってきて、牢屋の施錠を開けた。

(今だわ！)

　素早い動きで飛び上がり、頭を蹴り飛ばす。後ろに吹き飛ばされた血まみれの巫女を確認し、一目散に旅館の窓を突き破った。

　ガラスが割れる音が響き、破片が飛び散る。

「………！……！」

　日照が声にならない叫びをあげ、のたうち回っていた。リスを呼んでいるのか？

(こんな簡単に逃げられるはずがない！こちらも予想外の行動を起こさないと！)

　山伏式神は空中にゲートを作り出すと、どこでもない空間──世界の裏に隠れこんだ。

「はあはあ…見つかる前に何とかしないと…！どうしよ！クソ！」

　人界と異界の狭間。堺の神たちが使う、特殊な裏口。

　己と同等の魂を持つのならば、ルシャもこちらを感知できてしまうだろう。なら今のうちに解決策を練らなければ。

(越久夜町に帰らなきゃ！アイツらに食われるなんてごめんよ！)

　頭がぐるぐると堂々巡りばかりをする。得策なんてありはしないのに。

　何か、越久夜町へたどり着く方法を！

「おや、まだ食われてなかったのか？」

　暗がりに童子式神に似たあの魔物がいた。「わ！驚かせないで！」

「大丈夫。まだ見つかっていないよ」

　童子式神なのか？座敷わらしにも見える。うっすらとした輪郭が幼い子だとしか教えてくれない。

「お願い！越久夜町に、蛇崩(じゃほう)に返して！」

「ダメだ。あの村から持って帰ってきて欲しいものがある」

「えっ？」

　魔物(・・)は懐から勾玉を取り出した。不自然にぼやけた顏に反して勾玉だけがクッキリと目視できる。

「私がかつて人間を引き渡す際にヒツに渡した宝物。それを取り返して欲しい」

「それが貴方の狙い？」

「そうさ。この勾玉は陰陽で一つだった。私が持つのは陰。あの村にあるのは陽。あれが手元に戻れば、町は再びよみがえる」

　そういうとこちらに投げてよこしてくる。しっかりと受け取り、勾玉を懐の奥に隠した。

「貴方、何者？童子式神じゃないんでしょ？」

「…。まだ明かせない。力を貸してやるから、それに従い探してくれ。約束を守るのならば私はアンタの味方であり続ける」

「ちょっと──」

　ぐい、と何かに手を引かれ、異界に連れ戻される。「やめて！」

「大丈夫。アンタは強い子だよ。越久夜町を覚えていてくれてありがとう」

勾玉って良いですよね〜〜翡翠とか。

死者への石って言われているらしいですが、翡翠。