集落到着
文字数を減らして更新速度を上げるか、一話を長くして更新速度が遅くなるか。
……どっちがいいんだろう(´・ω・`)?
アホなやり取り+決意に時間を取られて話が一歩も進んでいない。拠点(仮)の予定だった小屋も失い、食材すら集められなかった無能は誰だ。
――そう、俺だ。
そのことに気がついてしまった俺は自然と遠い目になってしまう。
ロック鳥の肉やSAN値など、失ったモノは数あれど、得た物は何もない。
これは……再び危機的状況なのではないだろうか? 生活基盤を整えるどころか生存すら危ぶまれる状況に陥ってしまっている。『衣』『食』『住』そのどれもが足りていない。
「う~む……」
やはりゼロからのスタートは厳しいものがある。
これからどうするか、俺は悩みに悩み、一つの結論に行き着いた。
「なあブラザーズ、ちょっとの間だけお前らの集落に厄介になるって無理かな?」
腰ミノだけとはいえ、大喰鬼には服を着るという概念がある。集落というのなら居住スペースもあるだろう。それなら少しの間だけお世話になろうと考えたのだ。
「オレたちのしゅうらくにか?」
「そう。俺たちの拠点が見つかるまででいいんだけど」
「それは……いいけど……。どうする、おとうと」
「オレもいいとおもうけど……。どうしよ、にいちゃん」
逡巡するブラザーズだが、彼らは隣人愛に溢れる人格者のようで、肯定的な反応を見せている。しかし不安もあるのか、チラリチラリとキキに窺うような視線を向けている。
さもありなん。やっぱり自分たちをボコボコにして従属させようとした相手は怖いよね。
「私に何か不満でもあるのかしら? まさか無いわよね? 私よりも遥かに弱い貴方達が。主様の慈悲によって生かされただけのゴミムシが。この、主様の、忠実な僕である私に? 雑魚とはいえ仮にも魔族なら敗北した時点で勝者に全てを明け渡すのが当然よね」
言いながら、キキから伸びる影がブラザーズの首を締め上げる。
残忍な笑みを浮かべながら、魔族=脳筋の方程式を常識のように語る非常識。世紀末もビックリな理論である。
「選びなさい、服従か死か」
そのまま自主規制されそうな絵面で説得(物理)し、ブラザーズは泡を吹きながらキキの軍門に下ることとなった。息も絶え絶えに平伏するその姿は……うん、見上げる巨体なだけ余計に涙を誘う。超可哀想。
俺? 俺はもちろん見てるだけだよ。
トリップしてる時と殺気を放ってる時の振れ幅が広くて、眩暈がしそうなほど怯えてたに決まってるじゃないですか。
友達は選べ。それだけ聞くと嫌な言葉だが、キキを見てから聞くと素直に納得してしまう。どうしたって相性の良し悪しはあると思うわけですよ。
なんて、そんな現実逃避してる間にも話は進み、なんだかんだで大喰鬼の村まで向かうことになった。
過剰な低姿勢で案内するブラザーズを、俺はグルーの背に立ちながら同情の視線で見守っていた。
ブラザーズに追われ殺されかけた道順を遡り、森の奥へ奥へと進んで行くこと約十分。たどり着いたのは山岳地帯の入り口。まるで解放された門のように佇む渓谷だった。
「ここがオレたちのしゅうらくだ!」
「リッパなもんだろう!」
デデンっ! と誇らしく胸を張るブラザーズ。その姿からは先程までの哀れな醜態など微塵も感じられない。
大喰鬼の集落には家などの建造物がある訳ではないが、渓谷の中には大きな横穴がいくつも開いていて、ブラザーズの声に反応したのか、そこからは薄緑色の肌をした大喰鬼たちがと顔を出していた。
誰も彼もが同じ顔に見えてしまうのは種族差によるものだろう。俺には見分けがつかない。
俺にわかるとすれば、どの大喰鬼もポケ~と、この魔境<享楽の森>に住むにしては随分と平和そうな表情を浮かべている事と、その逞しい腕を振り下ろされれば俺のような弱鳥など簡単に潰されてしまうだろうという確信だけだ。
……あれれ? なんか矛盾してない?
まあいいや。
だがブラザーズよ、そんなことより気づいて欲しい。さっきからキキが「主様へなんて口の利き方を……ッ!」なんて言いながらお前たちを折檻しようとしていることに。それを宥める俺の頑張りに。
ちなみにクオンとグルーはそこら辺の細かいことは気にしないのか沈黙を保っている。
「主様、あの者共には一度躾をすべきかと上申致します」
「いや、あの二人ってばもう一度じゃ済まない数痛めつけられてるから」
「ハッ! 申し訳ございません。このような雑事など偉大な主様に命じられるまでもなく、第一の僕たる私が行うべきでした!」
「ねえ俺の声ってキキに届いてる? 慣れてきた俺も俺だけど、とりあえずお前が一度落ち着こうな? な?」
もしかしてキキが言っている主とは俺以外を指すのではないだろうか。
その間にもブラザーズは同じ大喰鬼の仲間たちと交流を交わしている。たぶん俺たちの存在すら忘れているだろう。
その証拠に……ほら、今仲間の一人が俺たちを「あれはダレだ」と指差して、振り返ったブラザーズが「ダレだ!?」と驚いている。
ここまでバカだと哀れみを通り越して不憫に思えてしまう。
どうやって日常生活を送ってるのか。
「それはともかく……」
改めて見渡してみるが、チラホラ顔を出す大喰鬼は傷を負っている者ばかり。
おそらく薬草なのだろう、腕や脚に巻かれた葉からは所々赤染みが浮かんでいた。
こんな魔境で暮らしているのだから傷も絶えないのかもしれないが、それにしたって負傷者がやけに多い気がする。
よくよく大喰鬼の顔を観察してみると、心なしか疲弊しているようにも見えなくもないし……。
この巨体集団が傷だらけになるとか。<享楽の森>ってのはどんだけ人外魔境なんだよ。
こりゃ……ここも安全な拠点とは言いづらいかもしれない。
いつになったら俺はのんびりスローライフを送れるのだろうか。文化人を自称する俺にとって、野生に満ちたこの業界は水が合わない。そのせいで最近は肌荒れとかメッチャ気になるし。つねに鳥肌とか粟立ってるし。あ、ほらアホ毛も。
「あれだけ痛めつけられておいて私たちを忘れるとはどこまで低能なのかしら。いえ、お前たちが低能なのは理解していたつもりだったけど、よもや主様を忘れるなんてね……極刑万死に値するわ。お前ら如き塵芥、ご尊顔を拝しただけで生涯の誉れとするべき御方を前に、言うに事欠いて『ダレだ』ですって? ……いっそ見事だわ。魔族ってここまで馬鹿になれるのね」
感心したとばかりに微笑むキキだが、その身から漏れ出す殺意は隠し切れていない。
「お前たちの言動、立ち居振る舞い、どれをとっても不愉快を通り越していっそ清々しく、さらに踏み抜いて醜穢なのよ! 死ねッ! 死ねッ! 死んで主様をお生みになられたこの世界に謝罪しなさい!!」
「ギャァアアああああああ」
「ごべんなざぁああああい」
「少しでも謝罪する気があるなら死んでその首を主様に捧げなさいッ!!」
……一応言っておくけど首なんて別にいらないからね? そんなの貰っても手に余っちゃうよ?
そろそろこのやり取りも食傷気味なんだけどなぁ……。