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陰キャと陽キャは転生したら逆無双でした  作者: 夜嶋朔


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第11話 フラグ乱立

 オーガ討伐から二日後。


 朝の冒険者ギルドで、タケルはいつものように好感度表とイベント履歴を確認していた。


 その横では、レナードが腕を組みながら画面を覗き込んでいる。


「今日は何すんの?」


「まずサキ」


「何?」


「一緒にギルドまで歩いて」


「……それだけ?」


「うん」


「それイベント?」


「たぶん」


「朝一緒に歩くだけで?」


「ゲームではこういうの大事だから」


 レナードは眉を寄せた。


「登校イベントみてぇなやつ?」


「そんな感じ」


「異世界なのに登校イベントあんの?!」


「学校じゃないけど……」


「もう何でもありじゃん!」


 文句を言いながらも、最近のレナードはタケルの助言を無視しなくなっていた。


 何しろ、言われた通りに動けば本当に好感度が上がる。


 理屈はよく分からない。


 だが、結果は出る。


「で、何話せばいい?」


「普通でいいよ」


「その普通が一番むずいんだけど」


「サキには変に構えなくていいから」


「イオリと扱い違いすぎない?」


「キャラが違うから」


「人間をキャラって言うなよ!」


     ◇


 ギルドへ向かう通りでサキを見つけると、レナードはタケルに言われた通り、隣へ並んだ。


「おはよー」


「あ、レナード。おはよう」


「今日も早いじゃん」


「依頼見たいからね。レナードたちも?」


「まあそんな感じ」


 サキは明るく笑いながら、昨日見つけた店の話や最近増えている魔物の噂を話し始める。


 レナードはいつものように話題を奪わず、今日は適当に相槌を打つだけにした。


 しばらく歩いたところで、半透明の表示が浮かぶ。


【サキの好感度が少し上がりました】


「……マジで?」


 レナードが小声で呟く。


「何?」


「なんでもない」


 少し後ろを歩くタケルを見ると、親指を立てていた。


 レナードも小さく親指を立て返す。


     ◇


 ギルドへ着くと、今度はマイが大量の薬草を抱えていた。


 タケルがすぐにレナードの袖を引く。


「次」


「何?」


「あれ手伝って」


「荷物?」


「うん」


「それもイベント?」


「たぶん」


「なんでもイベントじゃん」


 レナードはぶつぶつ言いながらマイのところへ行った。


「それ持つよ」


「え?」


「重そうじゃん」


「大丈夫ですよ」


「いや、いいって」


 半分ほど受け取る。


 マイは少し驚いた顔をしたあと、柔らかく笑った。


「ありがとうございます」


【マイの好感度が少し上がりました】


 レナードは薬草を抱えたままタケルを見る。


「荷物で?!」


「声大きいよ」


「恋愛チョロ――」


 タケルが慌てて口元へ指を当てる。


「最後まで言わない方がいい」


「分かってるって!」


     ◇


 次はアヤコだった。


 ギルドの外で、いつも連れている獣型の魔物がいなくなったらしく、一人で辺りを見回している。


「この子、どこか行った」


「逃げた?」


「散歩」


「自由だな」


 タケルが小声でレナードへ言う。


「一緒に探して」


「それデート?」


「イベント」


「全部イベントって言っときゃいいと思ってない?」


「いいから」


 二人で裏通りを探し回ると、しばらくして魔物は露店の前で肉を見つめていた。


「いたじゃん」


 アヤコが駆け寄り、その頭を撫でる。


「勝手に行かないで」


「腹減ってたんじゃない?」


「たぶん」


 レナードは露店で小さな肉を買い、魔物へ渡した。


「ほら」


 魔物は嬉しそうに食べ始める。


 アヤコが少しだけ笑った。


「ありがと」


【アヤコの好感度が少し上がりました】


 レナードはタケルを見る。


「……これも?」


「うん」


「ほんとタイミングゲーだな」


     ◇


 最後はイオリだった。


 ギルド裏の訓練場では、朝から一人で剣を振っている。


 タケルは近くの水筒をレナードへ渡した。


「これ、訓練終わったら渡して」


 レナードが水筒を見る。


 イオリを見る。


 もう一度、水筒を見る。


「……水?」


「うん」


「それだけ?」


「それだけ」


「俺はマネージャーか?!」


「でも効くから」


「恋愛どこいったんだよ!」


「イオリルートではこれでいいんだって」


「また部活じゃん!」


 文句を言いながらも、レナードは訓練が終わるまで待った。


 しばらくしてイオリが剣を鞘へ戻し、額の汗を拭う。


「イオリ」


「何?」


「ほら」


 水筒を差し出す。


 イオリは少し意外そうにそれを見た。


「……私に?」


「うん。飲みなよ」


「ありがとう」


 水を飲むイオリの横で、表示が浮かぶ。


【イオリの好感度が少し上がりました】


「水で?!」


 レナードが思わず叫ぶ。


「何よ」


「なんでもない!」


 すぐにタケルのところへ戻る。


「タケル! 水で上がった!」


「訓練後だから」


「タイミングゲーじゃん!」


「そういうものだから……」


「俺ほんとにマネージャーじゃん!!」


 それでもレナードは満足していた。


 今日は全員の好感度が上がっている。


 タケルの言うことさえ聞いていれば、自分だってちゃんと攻略できる。


「今日めっちゃ順調じゃん」


「ちゃんと言うこと聞いてるからね」


「攻略王、マジ使えるわー」


「人を道具みたいに言わないで」


     ◇


 その日の午後。


 突然、空が暗くなった。


 ギルドを出た直後に大粒の雨が降り始め、冒険者たちが一斉に軒下へ逃げ込む。


「うわ、最悪」


 レナードは屋根の下へ走り込んだ。


 少し離れたところでは、サキも同じように雨宿りをしている。


 その時。


「タケル!」


 サキが手を振った。


「え?」


 タケルが振り向く。


「そっち入れて!」


「あ、うん……」


 二人が同じ軒下へ入る。


 レナードは少し離れたところから眺めていた。


 雨はなかなか止まない。


「困ったね」


「う、うん」


「タケル、傘ある?」


「一本だけなら……」


 その瞬間。


【サキとの相合傘イベントが発生しました】


「……」


 レナードの顔が止まった。


「待て待て待て」


「何?」


「お前、なんで自然発生してんの?」


「え?」


「俺、朝からお前の指示通り全部やってんだけど!」


「僕にも分からないよ……」


 やがて雨が少し弱まり、タケルとサキが一本の傘で歩き出す。


 レナードは後ろから二人を見る。


「近っ」


「何が?」


「距離!」


「傘一本だから仕方ないでしょ!」


 その直後。


 サキの足がぬかるみに滑った。


「きゃっ!」


「危ない!」


 タケルが反射的に腕を掴み、その身体を支える。


 二人の顔が一瞬近づいた。


【接触イベント成功】


「おい!!」


 レナードが叫んだ。


「何?!」


「俺は一個一個お前に聞いてからやってんのに、お前だけイベント向こうから来てんじゃん!!」


「知らないよ!」


「ゲーム側に愛されすぎだろ!」


     ◇


 それで終わりではなかった。


 ギルドへ戻ると、今度はマイがタケルを呼び止めた。


「タケルさん」


「はい?」


「これ、昨日のお料理のお礼です」


 小さな包みを差し出す。


 中には焼き菓子が入っていた。


【マイとのプレゼントイベントが発生しました】


「また?!」


 レナードが遠くから叫ぶ。


「僕何もしてないよ!」


「料理しただろ!」


「昨日だよ!」


「時間差フラグまであんの?!」


 さらにアヤコの魔物がタケルを見つけるなり駆け寄り、その足元へ座った。


 タケルが頭を撫でる。


「今日も元気だね」


 アヤコがそれを見て、少し楽しそうに笑う。


【アヤコとの特殊イベントが発生しました】


「もういいって!!」


 レナードは頭を抱えた。


 極めつけはイオリだった。


 訓練を終えたイオリが、タケルの前で足を止める。


「タケル」


「え?」


「今度、レナードと訓練する時、あなたも来て」


「僕?」


「あなたがいる方が、あいつ余計なこと言わないから」


「……分かった」


【イオリとのイベントフラグが立ちました】


「なんでお前まで誘われてんの?!」


 レナードがついに耐えきれず割って入る。


「だって……」


「俺とイオリの訓練だよな?!」


「そうだけど……」


「第三者入ってんじゃん!」


「監督役よ」


 イオリが当然のように言う。


「また俺部活してんじゃん!!」


     ◇


 夕方。


 レナードとタケルは、ギルドのテーブルで今日の結果を確認していた。


【イオリ】

レナード:39

タケル:57


【サキ】

レナード:42

タケル:79


【アヤコ】

レナード:41

タケル:66


【マイ】

レナード:44

タケル:72


「……」


 レナードはしばらく画面を見つめていた。


「タケル」


「何?」


「俺、今日めちゃくちゃ頑張ったよな?」


「うん」


「お前の指示、全部聞いたよな?」


「うん」


「サキと歩いた」


「うん」


「マイの荷物持った」


「うん」


「アヤコの魔物探した」


「うん」


「イオリに水まで渡した」


「うん」


「マネージャーまでやったよな?!」


「そこは別に……」


「やったんだよ!」


 レナードは好感度表を指差す。


「で、なんでお前の方が倍近く上がってんだよ!!」


「イベントが……」


「勝手に起きてんじゃねぇええええ!!」


 タケルは困ったように好感度表を見る。


 すると、その下に見慣れない表示が追加されていた。


【サキ:特殊イベント条件を一部達成しました】


「……これ何だろ」


 タケルが首を傾げる。


 レナードはそれを見て、完全に遠い目をした。


「お前だけ別ゲームやってんじゃん……」


「そんなことないと思うけど……」


 タケルは少し考えてから、ふと以前の会話を思い出したように言った。


「でも前にも言ったけど、やっぱりレナードって乙女ゲームの攻略対象っぽいよね」


 レナードの眉が動く。


「またそれ?」


「顔いいし、強いし、勇者だし」


「……」


「女の子に攻略される側なら、たぶんかなり人気出ると思う」


 レナードは数秒黙った。


 そして。


 天井を仰ぐ。


「乙女ゲームだったら俺が一番人気だったのにーーー!!!」


 ギルド中に絶叫が響いた。


 タケルは慌てて周囲へ頭を下げる。


「だから声大きいって……」

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