第70話 ジジイとギャビン
一人頭10万ゴールドは『冒険の唄』を介して、無事に貰えたよ。
ケレグント師に謝りたいと思ったけど、シオドアは別に大丈夫だと言った。
じゃあ、そういうことで。うん。
復活したお祭りを前に、アタシは久しぶりに、ベラおばさんの店に行った。
祖父に会うためだ。
祖父は、情報も教えてくれたし、手紙もくれた。
自慢したい話もあるし、いつまでも喧嘩しててもしょうがないよね。
相手は年寄りなんだからさ。
「夏のお祭りが復活したよね。
アタシ、冒険者で偵察のギャビンってヤツと一緒に行くことにしたから」
自慢話の途中でアタシは言った。
「なんだと!よりにもよって偵察だと!俺は反対だ!」
祖父は言いやがった。
その瞬間、アタシはお祭りに、《《絶対に》》ギャビンと一緒に行くことに決めた。
もはや、悩むこともないね!
「うるさいわね!
ギャビンはいい奴だし、話してて面白いし、腕も良いよ!
ともかく一緒に行くから。祖父が止めても無駄だから!
帰る!」
アタシは一人前だ。
付き合う相手について、いちいち祖父に了解を取る必要はないよ。
アタシが荷物をまとめて店を出ようとしたら、ベラおばさんに止められた。
アタシはベラおばさんには世話になったと思っているし、足を向けて寝られない立場なのだ。
その後、祖父と話し合ったけど。
あれ、話し合ったって言えるのだろうか?
アタシと祖父が、店の端と端に座り、ベラおばさんが何度も何度も往復して、話をしたんだ。
ごめんなさい、ベラおばさん。
でも、悪いのは祖父だから。
「女の子にとって花束を貰うことも、お祭りに行くことも大切なことなの。
止めるのはひどいわ、それに無駄よ」
ベラおばさんは祖父に言った。
「そりゃまあそうかもしれんが」
「トレイシー、お祭り当日はここにギャビンさんを連れてきてよ。
私達、どんな人だか気になるのよ」
ベラおばさんはアタシに言った。
「えー、まぁ」
なんかいちいち面倒くさい。
「トレイシー、当日は何を着ていくの?」
ベラおばさんは話題を変えた。
「えっ、あっ、どうしよう」
あまり何も考えてなかった。
「ね、私はロイメ風の晴れ着を持っているの。
いつかトレイシーに着てもらおうと思っていたのよ。
ちょっと古風だけど、それを着ていくのはどうかしら。
それともドレスを買うか借りるかする?」
「それでいいです!
あ、や、晴れ着がいいです」
アタシは答えた。
今回のお祭りにドレスを着ていくのは、なんか違う気がする。
お金以前に違う気がする。
でも、いつもの冒険者スタイルも違う。
晴れ着で良い。
いや、晴れ着がいい。
「じゃあ、試着してみましょ。寸法を少し直さないといけないかもしれないし。
それで、当日は、ギャビンさんにここまで迎えに来てもらうと良いわ」
ベラおばさんは笑顔で言った。
祖父は黙った。
ま、それでいいか。
晴れ着は白いブラウスに黒い刺繍入りの上着を着るスタイルだった。
刺繍が可愛い。
ブラウスの胸がきつかったけど、ベラおばさんは、当日までに直してくれると言った。
ベラおばさん、ありがとう。
そして、お祭り当日だ。
アタシはベラおばさんに晴れ着を着せてもらった。
サイズぴったり。
右のポケットに、ナイフが入ってるのは内緒だ。
髪の毛もきれいに梳かしてくれた。
「ベラおばさん、アタシの髪の長さでもこの髪飾りつけれる?」
アタシは髪飾りを渡す。
ほら、あれ。
コジロウにもらったヤツ。
「まぁ素敵、アキツシマ風ね」
ベラおばさんは言い、続ける。
「ギャビンさんにもらったの?」
「んー、別の男にもらったというか、押し付けられた」
アタシは答えた。
「トレイシーも隅に置けないわね」
「その男、別の女の子とお祭りに行くことになってるから。
アタシはもう関係ないし」
ベラおばさんは、髪飾りを付けてくれた。
合わせ鏡越しに見せてもらう。
やっぱり素敵。
「もしかして、これ付けて行くの?」
「まさか! 今付けて、見ておしまいだよ」
アタシはそこまで悪女じゃない。
この髪飾りはとっておいて、時々眺めるためのモノだ。
「なら、階下にいる人にも見てもらいましょ」
ベラおばさんは言った。
階下には祖父が待っていた。
「ほら、かわいいでしょ」
ベラおばさんは言った。
「馬子にも衣装だな」
祖父はお決まりのセリフを言う。
言うと思ったよ!
「ね、この髪飾り素敵でしょ」
ベラおばさんは言う。
「こりゃ良いモノだな。どうしたんだ?」
「なんと、ギャビンさんとは別の男にもらったんですって」
祖父は溜息をついた。
アタシは祖父とベラおばさんの前でくるくる周り、晴れ着と髪飾りを見せびらかした。
足元はブーツだ。
そして、髪飾りを取る。
「それは付けていかないのか?」
祖父が言う。
「いかない」
ちょっともったいないけど、これは時々眺めるためのモノ。
夕方、ギャビンが迎えに来てくれた。
ギャビンはいつもの冒険者スタイルだけど、上着は新しい物を着ていた。
どうもギャビンはベラおばさんの店を知ってたみたい。
ギャビン本人は青き階段のクランマスターに聞いたって言ってたけど。
あんたねぇ。
「はじめまして、ギャビンです。『青き階段』の『雷の尾』で偵察をやっています」
ギャビンは如才なく挨拶をした。
アタシはちょっと見直した。
「ギャビン、日付が変わるまでにトレイシーをここまで送ってくるように」
祖父は偉そうに命令している。
「分かりました、モーガンさん。
あのお酒はダメですか?」
「飲むに決まってるじゃん」
アタシは脇から主張する。
祖父も、ギャビンも、アタシがいくつだと思ってるの?
「ビールだけ。少しにしてね」
ベラおばさんが、さらに脇から言う。
「あまり、飲ませるな。万が一酔いつぶれたら、早めにここに送り届けてくれ」
祖父が言う。
「トレイシー、夜まで遊びたかったら、無駄に飲むな」
最後にようやく祖父はアタシの方を見た。
あー、はいはい。
祖父とベラおばさんの最終チェック(ハンンカチ持ったかみたいなの)を終えて、アタシはギャビンと祭りに出発した。
街中からは音楽が聞こえている。
「トレイシーちゃん、今日の服むっちゃかわいいっすよ。
スカート良いッス」
ギャビンはアタシの胸元を見ながら言った。
「ちゃんとスカート見てる?」
「いやもう、見てるッスよ。
そういや、お祭りで何をしたいッスか」
ギャビンは話題を変えた。
「たくさん踊りたいかな」
アタシは答えた。
アタシ、踊るのが好きなんだよね。
でも、パートナーがいないとやっぱり遠慮しちゃう。
今日は、心ゆくまで踊れるよね!
「おっ、いいっスね。俺も踊りたいっス」
「ギャビンは何がしたいとか希望ある?」
アタシは聞いてみた。こいつは何が好きなんだ?
「今日は暑いから、かき氷やアイスクリームとかいいっスね」
「あー、いーね。この前食べなかったから」
「後は、射的屋を荒らして出禁食らうとかどうッスか?」
「サイッコー!」
ギャビンはアタシに手を差し出した。
アタシはギャビンの手を握る。
ギャビンの手は大きく硬い。
働く男の手だ。
「じゃ、行こうよ!」
「オイッス」
アタシとギャビンは、音楽の鳴る街へ繰り出した。




