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第69話 アプストの矢 (汝、己の知恵に驕るなかれ)

 移動の魔法陣に乗り、レヴィはロイメを去って行った。


 東方エルフの国の本国から、黒い髪で眼鏡をかけた痩せたハイエルフがレヴィを迎えにやってきた。

 陰キャっぽい。こいつにレヴィを任せて大丈夫だろうか。


 シオドアとネリーは、眼鏡ハイエルフ相手になんやかんや言っていた。

 うるさいと思われても、言っておいた方が良い。

 新天地で軽く見られると、ろくなことがないよ。



 レヴィは「レヴィは大丈夫ですナリ」って言っていた。

 レヴィのことだ。大丈夫な気もするけど。



 最後にレヴィを順番に抱きしめた。

 アタシはレヴィの真っ赤な髪に顔を埋めた。


 あーもー、何アタシ泣いてるのよ。

 お別れは笑顔で、でしょ。

 レヴィもシオドアも泣いてないじゃない。


 アタシしか泣いてないと思って、辺りを見回せばスザナも泣いていた。仲間だね。



 そして、真っ赤な髪と尻尾を持つレヴィは、東方ハイエルフに手を引かれ、東へ去った。

 レヴィの望みどうりに。




 レヴィとのお別れが終わったアタシ達は、冒険者ギルドの別室に集められた。

 ケレグント師に呼ばれたのだ。


「『輝ける闇』の皆さん、東方エルフの国から僅かですが礼金が出ます。

 絶滅寸前のゴブリン族の保護に協力いだいたお礼です」

 ケレグント師は言った。


 アタシ達は虚脱状態だった。

 だって、レヴィがいなくなったばかりなんだよ。

 魔法陣で、パァッと消えてしまったのだ。



 多分一番ダメージの大きいシオドア(リーダー)は沈黙したままだ。

 アタシも口を開く気になれない。



「ま、貰えるモンはもらっておくよ」

 サブリーダーのヘンニが言った。


 うん、そうだね。貰えるモンはもらう。

 祖父ジジイならそういうだろう。


 礼金は一人頭10万ゴールドだそうだ。

 ロイメ市や冒険者ギルドよりは気前が良いと言えるのか?

 もしかして口止め料も入ってる? なら安く見られたもんだ。



 部屋の中は重苦しい沈黙だった。

 そんな中で部屋の外が騒がしい。

 軽く口論してるみたい。

 この声、どこかで聞いたことない?


 ケレグント師は外の連中と何か話をしていたけど、どうも負けたらしい。ザマァ。


 扉が開き、部屋に新しい客が入ってきた。



「こんにちは、みなさん。

『緑の仲間』のセリアでス!」


 元気な声と共に現れたのは、毎度お騒がせの【ズケズケキャラ】のエルフの魔術師セリアだった。


 そして、後ろからもう一人。


「『輝やける闇』よ、はじめましてだ。

 私はリザードマン族のソーソーと言う」

 ハスキーな声が名乗った。



 リザードマン族。別名トカゲ人間。

 近くで見るのははじめてだ。

 見かけは全身鱗で覆われた直立するトカゲだ。

 長い尻尾は背中からそのままつながる。

 要は、まんまトカゲ人間。

 

 身長は2メートルぐらいだろうか。

 頭から尻尾までなら、もっと長いだろう。

 単純な構造(シンプル)な貫頭衣を着て、帯剣している。


 リザードマンの国は、ロイメよりかなり南にある。

 それでも異種族共存のロイメには、リザードマンが何人か入って来ている。

 遠目に見たことがある。


 正直に言うけど、リザードマンは鱗だらけの外見も含めて、アタシの中では変な奴等のカテゴリーに入る。



「ソーソー、久しぶりじゃないか。

 みんな、こちらは『緑の仲間』所属のソーソーだよ。あたしの同僚なんだ」

 スザナが言った。


 ソーソーは『緑の仲間』、そして『緑の仲間』が所属する『錬金術ギルド』の関係者らしい。


 しかし、なんで突然リザードマンがあらわれたんだ?



「今のタイミングで来たのは申し訳なかった。

 故郷から物事が落ち着くまではしゃべるなと言われていたんだ」

 ソーソーは言った。


 だから、何のこと?


「リザードマンのソーソーさん、私も知らない耳寄り情報とは何ですか?」

 ケレグント師は単刀直入に聞いた。



「もちろん、ゴブリン族についてだ」

 ソーソーは答えた。


「ゴブリン族がどうしたんですか?」


「私の故郷、リザードマン族の国にはゴブリン族が住んでいる。関係は良好だ」

 リザードマン族のソーソーは言った。



 しばらくの沈黙があった。

 さっきの重苦しい沈黙とは違う。

 みんな、新しい情報ネタをどう受け止めて良いか分からないのみたい。


 アタシも良く分からない。

 でももし、ゴブリン族がいろいろな場所でまだ生き延びていて、その土地で仲良く楽しくやってるなら良いなと思うけど。



「なぜ、今になって」


「私の故郷、リザードマン族の国にいるゴブリン族は、人数も多くないし、あまり目立ちたくないそうだ。

 そして、外部のゴブリン族を受け入れたくないらしい。

 ゴブリン族の件、全て決着がついてからなら話をしても良い。

 そういう指示だったのだ」




「ゴブリン族と他種族の共存は、感染症の問題で長期的には難しいはずです。

 いや、あなた方リザードマン族は、免疫の仕組みが根本から異なるのか……」

 ケレグント師は何やら口を動かしている。

 独り言に近い。



「その通りだ。

 我々リザードマン族は、ヒト族に感染する病気には、ほぼ罹らないようだ。

 だからゴブリン族の隣で暮らしても特に問題はないのだよ。

 いや、ゴブリン族は治癒術師が多いから、正直助かっている。

 ゴブリン族は我々の良き隣人だ」



 えーと、ゴブリン族は病気の運び屋(キャリアー)

 でも、リザードマン族はゴブリン族が運ぶ病気には罹らない。

 だから、問題は起きない。


 それどころかゴブリン族の治癒術はめっちゃ役に立つ。

 つまり、仲良く暮らしてる。


 そういうことだよね。

 アタシは頭の中でなんとか整理する。


 良いことじゃん!

 すごく良いことじゃん!



 アタシもびっくりしているけど、シオドアやネリーも驚いているようだ。

 何より巨デブハイエルフのケレグント師は、豆鉄砲食らった鳩みたいな顔だった。



「私の預かり知らぬところで、そんなことが……」

 ケレグント師は呆然と呟いた。

 心底驚いているのだ。


 本当に知らなかったのだ。

 


 不意に。


 ぷっ、ハハハ、アハハハハ!

 

 アタシに笑いの発作が訪れた。

 おかしい。どうしょうもなくおかしい。


 ケレグント師や東方エルフ族の知らない所で、ゴブリン族は生き延びていた。

 何でも知ってそうな賢者の種族、東方エルフ族の見てない場所で。



 アタシとケレグント師の目があった。


 アハハハハ、ハハハ……。

 笑いの発作、二発目。マジでおかしい。


 あー、駄目だ。こんな風に笑っちゃ駄目だ。

 アタシは祖父ジジイに「若い娘として傲慢に振舞うな。腕が上がらないぞ」と散々言われてきた。

「長い間、仕事を積み重ねてきた年長の男には敬意を払え」とも。


 ケレグント師は、アタシより数百年、あるいはもっと年上だ。

 ネリーのために薬も作ってくれた。

 多分、黒死病の時代には、たくさんのヒトを助けたりもしたんだろう。

 そんな偉い先生を笑ってはいけない。


 今、ここに祖父ジジイがいたら、アタシはぶん殴られてる。



 だが、おかしい。果てしなくおかしい。


 ウハハハハハ……。

 笑いの発作がスザナに感染った。

 さらにヘンニに。


 クックック。

 ネリーも笑い出した。


 シオドアは必死に笑いを堪えている。


 リザードマンのソーソーと、エルフのセリアはきょとんとしている。

 ごめんね。二人のせいじゃないんだ、いや二人のせいか?



「一体何がそんなに、……くっ」

 ケレグント師は、しばらく苛々した後、巨デブな体を翻し、部屋を出て行った。



 あー、アタシの10万ゴールドが。

 いや、自業自得だけどサ。









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