表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/80

第65話 ギャビン、再び

 屋台からは食欲をそそるいい匂いがする。

 お腹減ってるんだよね。

 かき氷、今日はテメーはない。



「焼きソバが美味そうッスね」


 そうだよね。アタシも美味しそうだと思ってた。


「いっしょにお参りした記念に奢るッスよ」

 ギャビンが言った。


「ダメダメ。

 冒険者的にはアタシが奢らなきゃいけない立場だよ。

 この前の探索クエストは魔石が出たから」


 稼いだ時に奢るのは、冒険者社会の不文律ルールだ。


「そうなンすか?

 いやでも、ここは……」


 ギャビンはもごもご言ってる。



「はーい!おじさん!

 大盛り二つくださーい!

 払うのは『輝ける闇』偵察スカウトのトレイシーでーす」


 屋台のおじさんは、皿にどんと焼きそばを盛ってくれた。



「はいどうぞ。

 ダンジョンの神(ラブリュストル)様のお膝元だし、冒険者同士の不文律ルール優先で行くよ!」


 アタシはギャビンに焼きそばを渡す。


「じゃ、今日はごちそうになるッス」

 ギャビンは苦笑しながら受け取った。そして続ける。


「今度、お返しに奢らせて欲しいッスよ。

 俺は、けっこう情報通ッスよ。

 美味くて安い店もたくさん知ってるッス」


「じゃあ、今度は奢ってね」


 ま、いつになるか分からないけど、一度は奢ってもらおう。



 アタシとギャビンは、低い石垣の上に並んで座った。

 フゥフゥ言いながら、熱いソバを食べる。


 何で食べてるのかって?

 ソバなんだから、箸に決まってるじゃん。

 ロイメには、王国とは違う独自の文化がある。箸もその一つだ。



「ちょっと肉が足りないッスね」

 ギャビンが言った。


「同感。タレは美味しいけど」

 アタシは返す。美味いけど肉が足らない。


「焼きそばって元値が安い料理らしいんスよ。

 肉が少ないってことは、あの店主ちょっとケチっすよ」


「へー、詳しいね」



「俺は将来、冒険者相手の商売をやりたいんですよ」

 ソバを半分食べたギャビンが話はじめた。

 なんか真面目な口調だ。


「でもどんな商売にするかは決めてないんですよ。

 道具屋か、飯屋か、それ以外か。

 だからいろいろ情報を集めてるんス」


 そこまで言うと、またソバを食べ出す。



 アタシはちょっと驚いた。

 アタシは、冒険者を引退した後のこととかあまり考えてない。

 今が精一杯だってのもあるけど。


 ぼんやりと、どこかの冒険者クランで偵察スカウト技術を教えられたらな、ぐらいには考えてたけど。


 でも、ギャビンは冒険者をしながら、それを生かす将来のことも考えてるんだ。



「ちゃんと将来のこと考えてるなんてすごいね」


 ロイメの若い冒険者の多くは、アタシと同じで今日のことしか考えてない。

 


「今すぐってわけじゃないッスよ。まず、『雷の尾』の偵察スカウトとして一稼ぎしたいッス」


 ギャビンの所属する『雷の尾』は、最近ロイメに引っ越してきたパーティーだ。

 新参パーティーだけど強いって評判だ。



「それから、今の目標は投石紐スリングを流行らせることッスね」

 ギャビンが明るく言う。


「流行る?投石紐スリングが?」


 アタシは祖父ジジイの影響もあって使ってるけど、古臭い武器だ。


「確かにクロスボウに比べると威力は弱いけど、安さは魅力ッスよ。


 以前から、第一層やサブダンジョンの攻略には使えるんじゃないかと思ってたんス。

 そこに赤玉が登場したんスよ。

 これはもう、流れが来てるッスよ」


「へぇー、投石紐スリングがねぇ」


「まあ、大流行するかは分からないッスね。でも、今より使う冒険者は増えると思うっスよ」



 しゃべっているうちに焼きソバは冷たくなってしまった。

 アタシとギャビンは残りの焼きソバをかき込んだ。

 食べ終わったら、お皿とお箸は屋台の裏に返す。



「ねぇ、ギャビンさ。

 アタシのどこが気に入ったわけよ?」

 アタシは聞いてみた。


 話してみて分かったけど、ギャビンはいろんなことを考えてる。

 ギャビンは、足出し女のアタシのどこが良いと思ったわけ?



「そりゃまあ、容姿と」

 

 その時ギャビンが見ていたのは、アタシの顔じゃなくて胸だ。

 ほーほー。


「性格かな」


 ギャビンは顔を上げた。目が合った。

 ちょっとドキッとする。

 このタイミングはずるいよ。



「アタシは別に性格良くないよ」


「でも、自分の間違いは認めるし、仲間思いっしょ?

 性格は適度に良くて、適度に悪いぐらいが俺の好みなんで」


 アタシはちょっとだけドキドキする。

 なんかこれはマズイ。

 あー、マズイ。



 ギャビンはすっとアタシとの距離を開いた。

 ちょっと楽になる。



「トレイシーちゃん、夏のお祭りが復活する《《かも》》しれないって、知ってるッスか?」


「え、いや」


 アタシは聞いたことがない。

 夏の祭りの実行委員のヘンニからも、何も聞いてない。



「夏の祭り中止で、ともかくロイメ市民からの文句と苦情がすごいらしいッス」


「そりゃそうでしょ」


 魔術師クランのコウモリ野郎のせいで、みんな《《大迷惑》》だよ。


「それで、規模を小さくして今からやろうかって話が上がっるみたいッス」


「それホント? 

 秋の収穫祭の話じゃないの?」


「夏の祭りは愛の女神(アプスト)様がメインのお祭りっすよね。

 愛の女神(アプスト)様の神殿としても、祭り中止は痛いみたいなんッスよ。

 なんとか愛の女神(アプスト)様メインで、やれないか考えてるって聞いたッス」


 へー。

 愛の女神(アプスト)様メインなら、夏のお祭りだ。

 もし、復活すればスザナが喜ぶだろう。



「トレイシーちゃん、もし夏の祭りが復活したら一緒に行かないッスか?」


 来た。祭りの誘い。三回目。


 言っておくが、ロイメでは「祭りに一緒に行くイコール結婚」ではない。

 もちろん結婚するカップルもいるけどサ。


 夏の祭りの前にくっついて、祭りが終わると別れるカップルもいる。

 若い男女のお試し期間みたいな面もある。



「とりあえずお祭り、で良いなら」

 アタシは答えた。


 ギャビンは腕利きだと思うし、良いヤツだと思う。

 何よりギャビンの話をもうちょい聞いてみたい。


「いいっスよ。俺は今日からお祭り復活を祈るッスよ」

 ギャビンは言った。



 それにしても。

 お祭り、本当に復活するの? マジで?



 帰りアタシは、下宿の近くまでギャビンに送られた。

 アタシはいいって言ったんだけどね。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ