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【ハッピーエンド】普通の女の子のアタシ、冒険者やってます。  作者: ミンミンこおろぎ
第八部 愛とお祭り
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第63話 神殿巡り

 アタシは橋の上から、運河の流れを見ていた。


 当たり前たけど、身投げとかじゃないよ。

 さっきまで涙と鼻水がズルズル出てさ。他人に顔を見られたくなかったんだよ。


 運河の風は、爽やかでちょっと生臭い。

 吹かれていたら、なんだかんだで落ち着いてきた。ふう。


 さて、これからどうしようか。

 家に帰る?

 酒でも飲む?



「トレイシーちゃん、いやトレイシー!」


 いきなり声をかけられた。

 想像はついてる。

 お騒がせ男のギャビンだ。


 毎度毎度うるさいよ。

 というか、なぜギャビンはこのタイミングで現れたのよ?



「アタシがここにいるって誰から聞いたの?」


 あとちょっとでストーカーだってば。


「イヤまぁ。

 でもトレイシーちゃん、いやトレイシーはかなり長く運河を見てたよ。

 俺が見つけるぐらいに」

 ギャビンはのうのうと言った。


 けっこう長くか。まあそうかもしれないけど。



「で、えーと」

 ギャビンは口ごもる。


「トレイシーでも、トレイシーちゃんでも好きに呼んだらいいわよ」

 アタシは言った。


 なんかどうでもよくなってきた。


「じゃ、トレイシーちゃんで。

 トレイシーちゃんはこれからの予定は?

 食事でもどう?」


 お腹は空いてる。だが断る。


「行かない。

 アタシはね……、これから神殿にお参りするのよ!」


 そう、それだ。神様との約束があった。

 今日ここで済ましておこう。



「これから医療の神(ヒュギポス)様と、ダンジョンの神(ラブリュストル)様と、オマケで愛の女神(アプスト)様にお参りするの」


「そりゃ大変だよ、トレイシーちゃん!

 医療の神(ヒュギポス)様の神殿はもうじき閉まっちゃうッス」


 え、そうなの?


 神殿の営業はいろいろだ。

 朝から晩まで年中無休の神殿もあれば、夜は閉めるも神殿もある。

 医療の神(ヒュギポス)様は、マイナー気味な神様だ。

 確かに夜は閉まりそう。もう夕方だし急がないと。


 えーと医療の神(ヒュギポス)様の神殿ってどこにあるんだっけ?

 アタシは周囲を見回しながら考える。



「トレイシーちゃん、神殿の場所は俺が知ってるッスよ。

 案内するッスよ!」

 ギャビンが言った。


 アタシは一瞬迷った。 

 でも、善は急げだし、思い立ったら神殿って言う。

 今日中にお参りに行きたいし。


「お願い、ギャビン。案内して!」


「お安い御用。こっちッスよ!」



 医療の神(ヒュギポス)様の神殿は思ったより大きかった。

 敷地には治癒院が併設されている。


 お参りしてるヒトには、明らかに病気っぽいヒトもいる。

 彼らはとても真剣に祈っていた。



 アタシは神官の前に立つ。


「友人の病気が治ったのでお礼に参りました」


 神官は頷いた。


 アタシは、腹の前で手を組み祈る。

 ネリーを治してくれて、薬を良く効かせてくれて、ありがとうございました。



 さて、問題はお賽銭だ。

 いくら払うべきか。


 一万ゴールドってことはないだろう。

 アタシはシオドアみたいな金持ちじゃない。

 でも、あの時お賽銭弾むって言っちゃったからなぁ。



「無理しなくていいんじゃないスか」


 財布を覗きながら真剣に悩んでいるアタシにギャビンが言った。


「でも、お賽銭弾むって神様に言っちゃったのよ」


「あちゃー。それは、……それなりにしないとっスね」


「そうよね、それなりによね」



 ギャビンとアタシは神様に対して似たような距離感だった。

 神頼みは時として高く付く。


 アタシは悩んだ末、千ゴールド銀貨をお賽銭箱に入れた。

 ネリーは回復したし、アタシもシオドアもスザナも病気に伝染らなかったし。


 神官は頷いた。

 さらば、アタシの千ゴールド銀貨。


「お願い追加で!

 良い治癒術師が『輝ける闇』に来ますように!」


 アタシはもう一度祈った。

 レヴィがいなくなるなら、新しい治癒術師を探さなきゃいけない。

 医療の神(ヒュギポス)様に祈ってギリOKだよね?



 医療の神(ヒュギポス)の神殿の側に、愛の女神(アプスト)の神殿があった。


「次はここによ」

 アタシは言った。


「俺といっしょに愛の女神(アプスト)様にお参りで、いいんスか?」

 ギャビンが言う。


「どうせ、ついて来るんでしょ?

 なら同じよ。

 でも、勘違いしないでね。

 アタシは最近愛の女神(アプスト)様に借りがあるから、借りを返せって言っときたいのよ。

 それだけよ」



 ここの所アタシは、シオドアとレヴィとか、スザナとコジロウとか、他人の恋愛に手を貸してばかりだ。


 そろそろ自分の恋がしたい。


 スザナとコジロウが二人でいる所を見て、羨ましくなったとかじゃないよ。



 こじんまりとした神殿だった。

 お参りしてるヒトは若い男女が多い。


 アタシはスタスタと速足で歩く。

 ギャビンはアタシの後ろをついてきた。



「愛の女神は私達をいつも見守ってくれます。

 ご自分の中の『愛』を大切にしてくださいね」

 元美人の老女の神官に声をかけられた。

 ま、愛の女神(アプスト)の神官の定型文句だね。



 アタシは腹の前に手を組み、愛の女神(アプスト)様に祈る。


(普通の恋愛がしたいです)


 ここでふと思った。

 じゃあ後ろにいるギャビンね、とか言われるとサァ。

 そもそも、愛の女神(アプスト)様に祈る必要ないよね?


 えーと。もっと強欲に。


(モテたいです。

 シオドアよりハイスペで、コジロウより強くて、金持ちの男が良いです。

 ロイメの男でお願いします。

 金持ちでも既婚者は問題外です。

 独身でもシオドアみたいに女にだらしないのはイヤなので、誠実な男がいいです)


 ……。


 流石に欲張り過ぎたかなー。

 アタシはちょっと恥ずかしくなった。

 ま、いっか。たまには。


 アタシは1ゴールド粒鉄貨をお賽銭箱に放り込んだ。



「何をお祈りしたんスか?」


「別に、なんとなくって範囲で」

 流石にヒトには言えないよ。恥ずかしい。


「ギャビンは何をお祈りしたのよ?」


「俺はどっちかというとお礼ッスね」


 ふーん。



「後はダンジョンの神(ラブリュストル)様ッスね。

 ダンジョンの神(ラブリュストル)様の神殿はたくさんあるけど、どうせなら、大神殿に行かないッスか?」


 大神殿か。

 ちょっと歩くな。

 でも、今は歩きたいんだよな。


「そうだね、大神殿に行こう」

 アタシは答えた。


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