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【ハッピーエンド】普通の女の子のアタシ、冒険者やってます。  作者: ミンミンこおろぎ
第八部 愛とお祭り
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第62話 シオドア

レヴィは東へ行く。


 その決断にアタシの心は波立っている。

 《《涙って》》じゃないよ?

 波立っているの。


「これからだと思ったのに」という気持ち。

「レヴィに甘いシオドアを見ることもないしスッキリする」という気持ち。


「後輩の扱い」はちゃんとやったと思うんだよなぁ。

 やったよね?ね?


 あーもー、苛々する!



 でも、アタシよりもっと心を波立たせている男がいる。

 シオドアだ。


 最近、シオドアはぼんやりしていることが多い。

 レヴィの家にもあまり来ない。

 アタシを、いやアタシ達と《《レヴィを》》避けている。


 話しかけても反応が鈍い。



 その日、アタシはシオドアが『冒険の唄』に来ることを突き止めた。

 要は、女将さんに教えてもらったんだけど。


 小用でシオドアが廊下に出てきた所を足でブロックする。


「トレイシー、どいてくれ」

 シオドアが言った。


「話があるのよ」

 アタシは足でブロックしたまま言う。


「今は忙しい。後で聞くよ」


 ほらね、こういう状況なのよ。

 普段のシオドアなら、こういう反応はしない。

 このままじゃ最悪、『輝ける闇』解散だよ。



 でもね、奥の手は用意してあるんだよ。


「シオドア」

 廊下の角から、のそっと『冒険の唄』の旦那さんが現れた。


「パーティーメンバーとの話はちゃんとした方が良いぞ」

 旦那さんは言った。


 二段構えってやつ。


『冒険の唄』としても、今『輝ける闇』に解散されちゃ困るからね。




 アタシとシオドアは運河の側の道を歩いている。


 シオドアが先を歩く。アタシが少し後ろ。

 お互いの声は聞こえる位置だ。

 日は傾きかけてる。

 長い影法師が二つ石畳に落ちた。



「シオドア、レヴィがいなくなる前に、皆でパーティーやらない?」

 アタシは言った。


 お別れパーティーは基本でしょ。

 以前メンバーの一人が結婚退職した時は、盛大に送り出したよ。



「そうだな、トレイシーが企画してくれるか?」


「いいよ。

 パーティーの場所はレヴィの家として、要望とかある?

『輝ける闇』以外に、誰か招くとか?」


「特にないな。トレイシーに任せるよ」

 シオドアは答えた。



 駄目だ。重症だ。

 うちのシオドア(リーダー)は、本来ならこういうことには意見を言う。

 というか、自分で仕切りたがる。


 シオドアはぼんやりと歩いている。


 そもそもレヴィを連れて来たのはシオドアでしょーが。

 そのレヴィがいなくなるっていうのに。



 これは、アタシが好きだった『輝ける闇』リーダーのシオドアじゃない。

 ……タラシだなぁと思いながら惹かれていた、男としてのシオでもない。


 駄目駄目ダメダメ。



「シオドア、レヴィとちゃんと話した?」

 アタシは聞いた。


「レヴィはもうじきいなくなる」

 シオドアは答えた。


「いなくなるからって話をしなくて良い訳じゃないでしょ。

 というか、いなくなるからこそ《《今》》、話をしなきゃ」


「何を話せって言うんだ?」



 あー、もう!

 


「もし、レヴィが東で虐められたら、いつでも戻ってきていいんだよ、とか」


「それはそうだな。話しておくべきかもしれない」

 シオドアに少し生気が戻った。


 ふーん。


「ま、レヴィのことだし。少々虐められたぐらいじゃへこたれないと思うけどね」


「……」

 シオドアに戻った生気がまた消えた。



 クソックソッ、この馬鹿の尻を後ろから蹴り上げてやりたい。

 しないけど。あー、しないけど!



「ねぇ、アタシずっと知りたかったんだけど。

 シオはレヴィのことどう思ってるの?」

 

シオは立ち止まり、振り返った。


「なぜ、それを聞く?」


「知りたいからよ。

 シオってばレヴィに甘いんだもの」


 シオはまた歩き出した。

 今度は速足で。


「ちょっとシオ、ちゃんとアタシの話を聞きなさいよ!

 旦那さんにチクるわよ!」


 アタシは小走りでシオを追いかける。

 怒った。アタシ怒った。もー怒った!



「ねぇ、シオ、あなたレヴィのこと好きなんじゃないの?」

 アタシは言った。

 言っちゃった。言っちゃったよ!



 シオは突然止まった。

 アタシはシオの背中にぶつかりそうになった。


 シオはまた振り返る。

 アタシと目が合う。


 シオドアは怒ってる。


「トレイシー、それは俺の問題だ」

 シオドアは冷え冷えとした声で言った。


 アタシは唾を飲み込む。


「そんなことないよ。レヴィは『輝ける闇』のメンバーだし、シオドアは『輝ける闇』のリーダーだ。

 アタシも関係あるよ!」


「トレイシーは、俺がレヴィに依怙贔屓をしてる。

 依怙贔屓はやめろって言いたいのか?」

 シオドアの声が低くなる。


 シオドアの眉間には深い皺が刻まれた。


 こりゃマジで怒ってるな。

 空気から怒りが伝わってくるよ。

 男が本気で怒ると、ホント傍迷惑だよね!



「そういうことを言ってるんじゃないわよ!

 アタシはね、シオドアが自分のプライドばかり気にして、レヴィの気持ちを考えてないって言ってるの!」


 言っておくが、アタシだって怒ってる。


「トレイシーは俺に何を求めているんだ?」


「レヴィとちゃんと話すこと。

 もし好きならちゃんと気持ちを伝えることだよ!」



「俺が気持ちを伝えてどうなるんだ。……レヴィはまだ小さい」


「体は小さいけどちゃんと大人だよ。

 ゴブリン族は12歳で成人する。

 レヴィは14歳で、結婚できる年齢だよ。

 レヴィは一人前の女の子だよ」


「トレイシー、レヴィはまだ小さいんだよ」



 何ががアタシの中で切れた。



「うるさい!

 レヴィを一人前としてダンジョンに連れて行ったのはシオでしょーが。

 シオが一人前として扱ったんだから、最後まで一人前として扱いなさいよ!」


「トレイシー、俺にどうしろっていうんだ!」


あーもう!


「ちゃんと言え!気持ちを言え!

 若い娘にとっては花束は多けりゃ多いほどいいって愛の女神(アプスト)過激派も言ってるだろーが!

 シオドアなんて、レヴィにとっちゃ若い頃にもらう花束の一つなんだよ!

 自覚しろや!」



 シオドアはアタシの荒い言葉遣いにびっくりしたようだった。

 アタシもびっくりした。

 ローティーンの頃は、時々こんな風にしゃべってたけど。


 アタシとシオドアの目が合った。

 しばらくお互い黙っていた。



「女の子にとって、花束は多ければ多いほど良いのか」

 シオドアは、ポツリと言った。


「そうだよ。多分」

 多分ね。まあタブン。


愛の女神(アプスト)過激派がそう言ってるのか」


「そうよ」


 シオドアは憮然とした顔だった。



「シオドア、アタシ、レヴィに伝言してるんだ」


「何を?」


「今晩、レヴィの家の庭でシオドアが話をしたいって言ってたって」


「……」


「シオドアが行かなかったら。

 レヴィ、待ちぼうけ食らっちゃう。

 かわいそーだよね」

 アタシは運河を見ながら言った。



「早く言え、そういうことは!」


 そう言うと、シオドアは駆け出した。


 レヴィの家に向かって。




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