第44話 仕事と恋愛の両立は難しい
アタシ達は第三層の草原地帯を歩いている。
ここから先は、蛮地になる。
どういう意味って?
金より暴力がモノをいう場所ってことだよ。
ロイメ市は、さっさとレヴィを第四層へ連れて行け、さもなくばレヴィを拘留するぞと宣告した。
ドワーフ族も、ストーレイ家も、レヴィの味方とは言い難い。
シオドアが交渉したが、どうにもならなかった。
ロイメ議会も冒険者ギルドも、ゴブリン族のレヴィを持て余している。
でもね、レヴィが人身売買組織に攫われたままロイメ外に連れていかれたら、さらに大きな問題になったらしい。
『輝ける闇』は、頑張ったってことよ。
そしてシオドアは、なんとかロイメ市から装備の協力を取り付けてきた。
アタシ達は準備を整え、早めに出発することにした。
第三層は夕方だ。
ちょうど涼しくて歩きやすい。
「もうちょっと進むよ」
アタシは皆に声をかける。
日中は暑く、長めに休憩した。
ダンジョン深層へ向かう道は、第三層の草原を貫く。この道は、数多の冒険者によって踏み固められ、歩きやすくなっている。
気をつければ、暗い中でも大丈夫だ。
丘を越えると、おお!見えてきた。
今日のキャンプ予定地の井戸だ。
今回の探索で、美味い飯が食べられるのは、ここが最後だろう。
この井戸の側には、煉瓦で組んだ炉がある。
井戸を掘った冒険者と、炉を作った冒険者に心から感謝しよう。
そんなわけで、今日の夕食はバーベキューである!
燃料の炭はスケルトンの青助に運ばせた。
肉は大角鹿。
いつの間に狩ったんだって?
他の冒険者から買ったんだよ。
アタシは持ってきた野菜を一口大に切り、串に刺す。
アタシの仕事はここでおしまい。
肉を焼く係はシオドアだ。
シオドアは肉を焼くことにかけては、並々ならぬこだわりがある。
美味しそうないい匂いがしてきた。
「第一便が焼けたぞー」
シオドアの言葉に、アタシ達は歓声をあげる。
皿に乗せられた鹿のロースに、アタシ達は舌鼓を打つ。
柔らかくて、ジューシー。
昔アタシは、鹿肉を焼いたことがあるけど、真っ黒にしちゃった。
腕の差と、気合の差を感じる。
ヘンニなんて、声すらあげずにひたすら食べてるよ。
「美味しいナリ。ゴブリン族はこんなに上手く焼けないナリ」
レヴィも言った。
「第二便だぞー」
シオドアの言葉に、アタシ達は再び歓声をあげた。
アタシは、肉を食べて、野菜も食べて、お腹がいっぱいになってきた。
でも、ヘンニはまだ食べそうだ。シオドアもようやくマトモに食べ始めた。
今回、シオドア、ヘンニ、アタシ、ネリー、スザナ、レヴィと六人で第四層を目指すわけだけど。
「スザナが来てくれて良かったよ」
アタシは隣に座るスザナに言った。
「来るのは当たり前だろ?」
スザナが返す。
「今回の探索は、いつまでになるか分からないし。
最悪、夏の祭りまでに戻って来れないかもしれないしサ」
そう。今回の目的地はゴブリン族の集落での話し合いだ。
すぐに話し合いが終わるとは限らない。
長丁場も覚悟しなければならない。
「いっしょに行くのは当たり前だぞ。
もし、ここで抜けたら先生に怒られるよ」
スザナは言った。
「でも、レヴィも皆が来てくれてうれしいナリ」
スザナは肉の串を食べきると話しはじめた。
「まぁ、祭りは、秋の収穫祭も、冬の年越しの祭りもあるし」
ボソっと言う。
ほー、それは。
「コジロウにも相談したんだよ。
コジロウは、もし夏の祭りに間に合わなかったら、二人で出かけようって言ってくれたんだ……」
スザナはちょっとモジモジしながら、そりゃもー、嬉しそうに語る。
あー、はい。ごちそうさま。
アタシは手元の肉に齧り付く。
肉は、美味い。
えっ、アタシはどうだって?
そうなんだよねぇ。
アタシ、ギャビンに花束もらっちゃったんだよね。
「というわけでサ、第四層に行くんだけど、いつ戻れるか分からないんだよね」
アタシは『青き階段』に行った時に、ギャビンに伝えた。
「じゃま、俺はトレイシーちゃんの探索が早く終わるようにダンジョンの神様に祈っとくわ」
ギャビンはあっさり答えた。
「それ、止めて。トレイシーちゃんってヤツ」
アタシは釘を刺す。
なんかヤなんだよ。ちゃん付け。
ギャビン、あんたはアタシのことどう思ってるの?
アタシ、一人前の冒険者のつもりなんだけど。
「あ、ごめん。俺はトレイシーの探索が早めに終わるように祈ってるよ」
ギャビンは軽く言い直した。
「ねぇ、待つって言ってるけど、いつまで待つ気?」
たぶん今、アタシの眉間は思いっきりシワが寄ってる。
「とりあえず、一年ぐらいは」
「長っ、ウザッ」
「じゃあ、とりあえず、年末までかな。
その後は未定ってことで」
ギャビンは、ニカッと笑うと言った。
あーもー、アタシなんで花束受け取っちゃったんだろ。
スザナには悪いけど、このまま探索か長引いて、「夏の祭り行けなくてごめん」が一番楽な気がしてきた。
次の日の朝、ネリーはスケルトンの青助を頭蓋骨に戻し、地面に埋めた。
正確には、穴を掘ったのは主にスザナ。
土を被せたのがネリー。
「ごめんね、青助。すぐ戻って来るからね」
そう言いながら、ネリーは土の上に目印の石を置き、魔法陣をかく。
魔法陣は、青助が大人しくしているような効果があるのだそう。
「こういうの勝手に埋めていいモノなの?」
アタシはネリーに聞いてみる。
だめって言われても埋めるけどさサ。一応ね。
「魔術師クランの死霊術研究室には、報告入れたわ。
今年中には誰か読むんじゃない?」
ネリーが答えた。
最高の荷物運びともお別れだ。
荷物を減らし、なるべく身軽にする。
一部の荷物は青助といっしょに埋めた。
そして、いざ第四層へ。
草原の中に屹立する凸凹だらけの岩山がある。
それが第三層のゴール。
穴のいくつかは奥が深く、洞窟になっている。
でもね、当たりは一つだけ。
南東の岩壁、木の根っこがはみ出てる洞窟が当たり。
そこから第四層へ行ける。
第四層へ向かう洞窟は暗く、螺旋を描きながら下っていく。
岩の壁はいつの間にか木の壁へ変わり、最後にもう半回転すると、明るい光が見えてくる。
第四層の光だ。




