第42話 男はたまには見下ろされた方が良い
ケレグント師は、レヴィをなるべく早く東へ連れて行くつもりだったらしい。
でもさ、物事が予定通りに進むことってあんまりないよね。
ゲートの管理人の偉いハイエルフでも、それは同じってこと。
ざまぁ。
「クソ石頭ドワーフ族ども、こちらの説得に応じる気配すらない。
それに、水辺のエルフども。
同じエルフ族の私の言葉より、ドワーフ族の言葉に耳を傾けるとは、裏切り行為ですよ!」
レヴィの家にやって来たケレグント師は、愚痴を垂れ流した。
「で、結論はなんだい?
トロール族のあたしでも分かるように説明しな」
ヘンニがケレグント師を《《見下ろしながら》》言った。
祖父曰く「男はたまには見下ろされた方が良い」ってヤツだね。
「ロイメ議会は、特定種族ことゴブリン族追放の責任を負いたくないようです。
異種族共存の理念に反すると言っています」
ケレグント師は早口に説明をはじめた。
「レヴィの扱いは保留、しばらく今のままと言うことですか?」
シオドアが確認する。
「まさか。
残念ながら、レヴィさんの道は二つです」
「一つ目は、レヴィさんの故郷、ダンジョン第四層のゴブリン族の元へ戻る」
これレヴィ次第だけど、問題なく戻れるのかね?
ただいま〜で、大丈夫なの?
「二つ目は、レヴィさんのいたゴブリン族から、正式に『追放』を勝ち取る」
なんじゃそりゃ?
「レヴィさんはろくに挨拶もせずに故郷を捨てて出てきたわけです。
『ちゃんと元の部族から縁切りされてこい』と言うのがドワーフ族の言い分です。
こうすれば、レヴィさん『追放』の責任は、第四層のゴブリン族が負うことになります。
要はロイメ議会は責任を負いたくないんですよ」
スジ通せってのは一応分かるよ。でも、無駄な手順じゃない?
「せんせー、質問でーす」
アタシは手を挙げた。
「はい、なんですか?発言を許します」
ケレグント師は言った。
「レヴィが第四層に行くのは絶対ヤだって言ったら、どうなるんですかー?」
「その場合は、ロイメ市の留置施設行きですね」
「「ブーブーブー!」」
アタシは不満を表明する。
スザナも同調した。
「正式に縁切りされたとして、レヴィはどうなりますか?」
シオドアが質問する。
「その後のロイメ議会次第ですが、改めて選択肢は二つでしょう。
東のゴブリン族に合流するか。
ロイメ市の隔離施設で暮らすか。
隔離施設はロイメの城壁の外、ヒトの少ない、少し辺鄙な場所に作ることなるでしょうね。
留置場とは違うので、責任持って、庭付きの気分の良い家を提供しますよ」
「ひどい結論だな」
シオドアが言った。
「ゴブリン族とその他のヒト族の共存は困難。
これは私が長年歴史を見た上での結論です。
仮に客分として、ロイメに滞在したとして、レヴィさんが出ていかざるを得なくなるのは時間の問題です。
我々ヒト族の社会は【病気の元】とは切っても切り離せないのです」
シオドアは押し黙った。
ネリーも何も言わない。
「レヴィ。とりあえず第四層に行って、レヴィの生まれた部族と話す必要があると思うよ」
ヘンニが言った。
「そうナリカ?ヘンニさん」
レヴィが大きな目を見開いて尋ねる。
「ドワーフ族は、レヴィにゴブリン族の部族と話し合いをしてこいと言ってる。
ちゃんと話し合いをすれば、ドワーフ族に味方をしてもらえるかもしれない」
「……」
「ロイメ議会には、あたしも知り合いがいる。
トロール族は盟約の三種族じゃないから、あまり力はないけれどね。
議会にも付け入る隙はあるさ」
ケレグント師はヘンニを睨みつけたが、ヘンニはどこ吹く風だった。
「言っておきますが、ストーレイ家が議会工作に協力しないのが悪いのですよ」
ケレグント師は、シオドアの実家に責任を押し付けて愚痴りはじめた。
「初代ギルマスが、ゴブリン族の扱いは細心の注意を払ようにとの言葉を残しています」
シオドアが答えた。
シオドアの実家、ストーレイ家は、初代ギルマスに繋がる家だ。
「私とストーレイ家は、一応血縁のはずなんですがね。
延々とロイメのダンジョンゲートの管理だけさせて。
不当な扱いです。だいたい……」
ケレグント師の愚痴は長くなりそう。
エルフ族は寿命が長い分、話も長いって言うよね。
「ねぇ、シオドア。あなたがこのハイエルフと血縁があるってのは本当?」
ネリーがシオドアに質問した。
「初代ギルマスは、間違いなく東方ハイエルフの血を引くハーフエルフだったよ」
シオドアが答えた。
「初代ギルマスは、亡き私の姉の血を引いていますね。
つまり親戚です」
ケレグント師が話に割り込んできた。
「初代以来、何回代替わりしたと思っていますか?ケレグント師?」
「二十親等はいってないんじゃないですか。
ストーレイ家には、まだ、初代ギルマスを思わせる人材が時々出ますよ。
シオドア、あなたもその一人です」
ケレグント師はニコニコ語る。
シオドアの頭を撫でそうな空気だ。
シオドアはなんか、すっごく嫌そうに溜息をついた。
今、アタシ、シオドアの気持ち分かるわ。
でもね!
「シオドア、そのおかげで料理を教えてもらえたんでしょ。良かったじゃん」
気持ちは分かるよ、シオドア。
アタシも祖父がうざいってよくよく思うし。
でも、祖父の孫だから教えてもらったこともたくさんあるんだよ。
「まあ、そうだよな」
シオドアは言った。
そう。料理大事、超大事。
「レヴィ、第四層のゴブリン族に会いに行く気持ちはあるか?
いや、問題なく会いに行けるのか?
無理なら正直に言ってくれ」
シオドアがレヴィに聞いた。
「……大丈夫ですナリ。
ちゃんと話をして縁切りしますナリ」
レヴィは答える。
リーダーの決断だよね?
探索開始。
「第四層のゴブリン族とレヴィを話し合いさせよ」




