ミア・デ・ベルグという少女
メインの話ではあるのですがどちらかというと閑話に近いです。
少し焦点を変えてみました。メインに登場する人物たちをこの章の最後に一気紹介するという横暴に出てみようと考えています。
この歪んだ世界の始まりは、ここに過ぎなかった。
とりあえずそのデカブツを整備室に送り込んで帰ってきたユリアがまた不思議なものを持ってきた。
「隊長、こんなの持ってきたよ!」
「ん、なんだそれは」
見た目はほぼ9mmパラベラム弾と変わらないが弾頭が違う。具体的にどう違うのか説明するとパラベラム弾は弾頭が丸いのに対してこの銃弾は八つの爪のような形をしたものが付いている。
「これはね、R.I.P弾っていうものなんだ」
「なんだその不謹慎な名前は……本当にその意味か?」
「ううん、違うよ。確かねぇ……えっと、Radically Invasive Projectileだったと思うよ」
実際のところ『Requiescat In Pace』の方も掛けているのだろう。この奇妙な弾を撃ってみろというのだ。
「撃つのはいいんだが、銃は?」
「あ、忘れてた!整備終わってるから、ちょっと待ってて」
何というか、少し抜けたところとか見て欲しいものを全力で表現したりする所とかが彼女らしい幼さを見せている気がする。そういう彼女の無邪気さは彼らの心の癒しになるのだろう。
何ともまあ気の抜けた空気感が漂うこの場所で銃を撃ってみるなんてことをするのも場違いな感じがして――実際、ここは射撃試験場なので逆なのだろうがどうしてもその気は起きてこなかった――全員これまたのんびりとお喋りを始めた。
この時以外彼らに相談する機会が無いと考えた鳥海は彼らの元に向かおうとするがその手を従者が握った。
「マスター、どうかななさったんですか?何かお困りのようですが。私で良ければ相談に乗りますよ」
甘い声で囁いた彼女は相手の心を読める。そう、もう知っているのにあえて聞こうとするのだ。彼女らしいと言えばそうなのだが毎度こんな感じではやってられない。
すると、彼女は頬を可愛らしく膨らませて、
「私だって、普通の女の子として扱って欲しいんですよ?」
そう言われるとなんだかこちらが申し訳なくなってくる。
元々能力者は戦争の道具として扱われた。いや、扱われていることには今でさえも変わりはない。
周りが似たようなもので埋め尽くされているだけで、ほんの少し肩身が広くなった程度で大した変化はない。
鳥海が最も嫌う彼らはそれを正義として、当たり前として処理し、その裏で彼らを飼い殺し続けてきた。
自らもまたその一端を握っている事が、なによりも恐ろしくて、誰よりも憎たらしく感じるほどに。
「マスター?」
彼女の握る手が少し強くなった感じと共に引き戻された。助けられた。
彼は落ち着く為に彼女に話をした――
「ヒデ、タカ。ちょっといいか?」
恋人と仲睦まじく話しているところに申し訳ないのだがそれよりも大切な用事があるのだ。
彼が何かの用事で参謀以外の誰かを呼び出すことは少ないので何事かと思い二つ返事で彼らは少し離れて、誰かに聞かれないような位置に移動した。ちなみに誰かが近付いても隠し事が絶対に出来ないミアによって防がれる形になっている。
「で、どうしたんだ?」
声を潜めて相棒が聞く。重要なことを忘れてたと言われているので心なしか緊張した面持ちが含まれる。
「ああ、すっかり忘れててな。どうしようか悩んだんだが、皆でまた……ショッピングモールに行こうと思ってたんだ」
二人が盛大に噴き出した。方や陛下は大真面目に話をしているのだ。そのギャップが面白すぎて笑いが止まらないのだが流石に大声で笑うわけにもいかず、くっくっくといった笑いをかみ殺したような声を出している。
当然仕切りも何もないので笑い声は聞こえているわけで、気になった時雨がメイドに聞きに来た。
「何のお話をされているんでしょうか?」
「さあ?ふふっ、マスターは可愛いですね」
そういう少女は少し面白そうに微笑んだ。話を聞かなくともどんなことを話しているのか分かる彼女はとても楽しそうだ。
「陛下が、可愛い、ですか」
一言一言を噛み締めるように彼女は言った。
「貴方だって私と同じでしょう、副隊長」
一瞬、ぎくりとしたがすぐに取り直した。
「何が貴方と同じなの?」
言い終わってからしまった、つい反射してしまったと思ったがもう遅かった。隠せないのだから何も言わなければよかったのに、自分を抑えきれていない。
仕方ないじゃない。まだ十七の私が、どうやってこれを抑えろっていうのよ。
「抑える必要があるのですか」
「それは、私みたいな大したこともできない小娘が、叶わない夢を見ているのよ。私は元々は孤児だったのよ。偶々リー隊長に拾っていただいたからっ」
「貴方の出身は誰かに関係ありますか?そうしたら、私や隊長はどうなるのです」
言葉に詰まる。そもそも目の前の彼女も自分の上司も彼と同じ国の出身ではない。そんな彼女達でも平等に彼に愛されて彼を愛しているのだ。
「でも、どうしたらいいのかも分からないし」
「ええ、貴方の本質はそれでしょう。どうしたらいいかなんて誰も知りませんよ……ですが一つ言えることがあります。まず、マスターの敬称を陛下から変更なされてはいかがですか」
首を横には振れない。納得するしかない意見に耳を傾けなくてはならない。
「どうして?」
「閣下も陛下も猊下も、その人自体は指していないでしょう?どれもその人の役割に対する敬称であって。殿方を愛しているなら永続的に呼べるものにしませんと」
「じゃあ、そうすればいいの?」
「それは自分で彼に気づいてもらえるような独自の呼び方を考えてくださいまし。例えば、隊長がよく使われる『殿』なんてのも彼だけに向けたものですよね」
少し考えてから、少女は決断を下す。
「隊長が殿と仰るなら私は『殿様』なんてどうかしら?」
多少安直ではあるが統一感があるので分かりやすい。
そんな事をやっていたら、彼らの話し合いも終わりに差し掛かっていた。
今回書いてある『安らかに眠れ』はラテン語で表記しています。英語圏でRest in peaceの語源に当たるそうです。
R.I.P弾はG2 Research社が作成する弾丸です。彼らが挙げている動画によると大分恐ろしい代物だと思います。
注※ルビがおかしいのは仕様です




