初飛行
格納庫からゼロ戦を出すのに約1時間がかかった。飛行機を動かすのなんて初めてであったし、タグと呼ばれる牽引車の使い方も知らなかったからだ。
「準備出来た?」
アクビをしながら近寄ってきたsyuyaがPちゃんやbearの苦労を知らないで生意気な事を言い出した。
「まだだよ!」
Pちゃんはかなりイライラした様子で答えた。
「パイロット様はいいご身分ですね!」
「悪かったよ。そんなに怒らないでくれ。」
syuyaはシュンとする。
無視して機体の準備をする。
準備が出来たのでsyuyaを呼びに行くと「ほんとか?!」と喜んでゼロ戦に駆け寄った。尻尾がとても振られている。
「お前、犬だけどこれに乗り込めるのか?」
「いけるさ!」
syuyaはピョンピョンと翼にジャンプして飛び移り、その肉球からは想像出来ない器用さでキャノピーを開いた。
コックピットに飛び込むとまるで姿が見えなくなり飛び込むというより落ちたという表現の方がしっくりくる。
「おい犬!大丈夫か!」
下から声を上げる。
「大丈夫!早くエンジン回そうぜ!」
「いや、下からお前見えないんだけど!お前も見えてないだろ!」
「おれは見えてるよ!普通に座ってる感じ!」
「(アバターの身長に補正かかってるのかな。)解った!じゃぁ手順通り始めていくからな!」
「よろしく!」
Pちゃんがゼロ戦のタイヤの外側に立ち、bearは機体の横に置いてある消火器の位置についた。
手振りでエンジンスタートの合図を送ると少しの間電子音が聞こえ、プロペラも回り始めた。バタバタと五月蠅い音がする。
syuyaからエンジンが安定した合図、手しか見えなかったが、を貰うと機体の点検を始める。
bearとOKサインを交わしてsyuyaに知らせ、チョークアウト。
syuyaからの行ってくるよの手振りで機体が動き始めた。
ゼロ戦はランウェイの端へ進んで行く。その中でsyuyaは管制官への許可を取っていた。
エプロンから進んで行くゼロ戦をPちゃんとbearは難しい顔で眺めている。
「なんか・・・なんだろうね、緊張する。」
[わかる]
[落ちたらどうしようって思う]
「あー!言わないでおいたのに!フラグだよフラグ!」
[ごめん]
[ヤバい]
「あーあー。うーん・・・多分チャットだしセーフだろ、うん。」
滑走路の端に着いたゼロ戦は少しの間を開けてからプロペラの回転数を上げる。
エプロンから見ている二人にも今から行くぞという機体のオーラが感じ取れた。
ゼロ戦は徐々に加速する。滑走路を走る飛行機。
どんどん勢いを付けていく途中でフワッとタイヤが地面から離れた。
少しずつ高度を上げながらタイヤが翼の中に格納された。
タイヤが格納されると尾翼がバッと上がりゼロ戦は美しい弧を描いて上空に向かって飛び上がっていく。
コントロールスティックを力いっぱい握りながらsyuyaはテンションが上がりきって叫び声をあげる。
「うひょー!!」
地上で見ている二人も同様で身体の下から上へ鳥肌が駆け上がるのを感じていた。
そのまま機体を捻らせて向きを変えようとするがクルクルと回ってしまい、やっと安定したかと思うと左右にフラフラとしている。
「あやや、そんな簡単じゃないか。風が邪魔だな。」
基地の上空でいろいろと操作方法を試していたのだが10分くらいするとゼロ戦は戻ってきた。
フラフラとしたままタイヤを地面に降ろし着陸するとそのままエプロンの元にいた場所まで戻ってきた。
二人でタイヤにチョークをかけてエンジンカットの指示を出す。
エンジンが止まるとsyuyaがゲッソリした顔でコックピットから這いずり出るように降りてきた。
「どうした?意外に早いお帰りじゃんか?」
「ダメだ、体力ゲージがみるみる減っていくんだ。多分レベル上げたら変わるんだろうけど、今日はもう限界だ。」
syuyaはフラフラとした足取りで格納庫へ帰って行った。
Pちゃんはそれを見届けるとbearに「じゃぁ飛行後点検して仕舞うか。」と言い、作業を開始した。