053:うるさ型
美江の告白を聞いた三つの店の店主は激怒した。
「なんて奴ら! よくもそんな卑劣な真似を!」
「そうよ。そんな奴らのせいで、なんであなたが辛い目に合わなくちゃいけないのよ!」
「無理に学校に行く必要ある?」
それに対し、美江は「でも」と言い返す。
これまた憧れて入学した私学の女子高校だった。娘の希望に、親は高い学費を工面して通わせてくれた。
「そこでみんなから嫌われているなんて、知られたくない!
自分の娘が不細工でどうしようもない駄目な人間なんだって……」
どう言っても「でも」と「だって」を繰り返す美江に、野乃花が口を開いた。
「あなたはとてもいい子だと思うわ」
「――そんなこと、ないです!」
力いっぱい拒絶されたが、野乃花はどこか心あらずの様子でもう一度、言った。
「あなたはとてもいい子だわ。私は好きよ」
相変わらず共感性に乏しい表情と声だが、光はそこに説得の転換点を見出した。
「そうよ。野乃花さんの言う通り。
あなたは人に誹られるような子じゃないの。
お父さんが働いたお金の価値を知っている。
お店のお手伝いもしていたんでしょう?
そんじょそこらの高校生よりずっと立派よ」
「それに自分が辛いはずなのに、野乃花ちゃんのことを心配してくれた。
あなたは優しい子だわ」
「私もそう思う。私も好きよ。あなたのこと」
美江の口がもう一度、「でも」という形に開きかけて、閉じた。
そこに玄関から騒々しい音を立てて、数人が入って来た。その先頭の人物を見て、野乃花がようやく現に帰ってきたように目を見開いた。
「まぁ……あなたは」
「あら! この間のミツバチのお嬢さん! あなたもここに?」
我妻町子だった。今日も派手な化粧に服装だったが、顔には汗をいっぱいかき、美江の姿を見ると、大きく手を広げた。
「ああ、美江ちゃん! 良かった! お父さんとお母さんが心配しているわよ! 勿論、おばさんもよ!」
美江はそれを聞くと、わっと泣いた。
「ねぇ、下で会ったんだけど、知り合い?」
後ろから駆け付けた川内美波が聞くと、さらに後ろから返事があった。
「この間、会った人ですよ。いい人でした。ね、小野寺課長?」
「はい――」
広瀬太郎と小野寺真人、それから川渡遥の男三人が遠慮がちに玄関先に立っていた。
町子の胸の中で存分に泣くと、美江は落ち着いたようだ。
「おばさんどうして?」
「今朝、元気が無かったから心配でね。
お節介だと思ったんだけど、お家の人に相談したの。そうしたら――学校に電話したら、来てないって言うし」
家からお金が持ちだされたことは口にせず、とにかく、町子の持つあらゆる人脈を使って、美江の足取りを辿ってきたのだ。
「あの……でもおばさんがどうして」
美江にとって町子は単なる同じ町内のおばさんだった。登下校時に会えば挨拶する程度……正直に言えば、面倒なおばさんだった。
「ごめんなさいねぇ。おばさん、お節介なの。でも何かあったら大変でしょう。気のせいだったら、それは良いことだと思って」
良くはないだろう。町子は町内を監視しては騒ぎ立てる煩わしい厄介者と見られる。それでも彼女は躊躇せず、“騒ぎ立てた”のだ。
「いい人ですね」
いい人代表のような小野寺真人が、誰ともなく言った。




