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糸束  作者: ぬじゃわきし
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朝。小鳥が静かに鳴き、窓から木漏れ日が差し、その光に気づいて龍子は目が覚めた。布団は体の上に柔らかく、多少の重量感を伴いながら覆い被さっている。今日、学校あるかな…と目を擦りながらカレンダーを見た。今日は…日曜日。休日である。そうか良かった、もう少し寝れる…と龍子はごろりと寝返りを打った。

だが奇妙な感触。右手の甲がざわざわと感じた。虫でも歩いてるのだろうか、と龍子は右手を見たが、虫はいない。やや白い右手がそこにあるだけである。なんだろう、さっきのは。龍子を右手をじっと見つめていた。だが変化はない。龍子はさっきのざわざわ感を思い返した。骨が触られるような、冷たい痛みに似た感触。

ふと思い返す事に連動して、無意識に何かを右手に指示した。右手はたちまち、赤い細い管状に分裂してうごめき出した。龍子は目を見張った。管はうごめき続け、やがて収束し、右手を形成した。

龍子は軽くため息をついた。嗚呼、なぜであろう。何がきっかけなのだろう。朝目覚めたら“回路人間”になってしまっていた。右手を赤い糸束に分裂させては戻し、分裂させては戻しを繰り返した。糸束の奥に骨が垣間見えた。見つめながら龍子は再びため息をついた。


これからどうしよう、と龍子は思った。明日は学校だ。休日を隔てて、突然“回路”になってしまったと友達が知ったらどんな反応が来るだろうと恐れた。なぜなら、“回路”は皆に避けられる運命だからだ。その不気味でグロテスクな姿を見て食欲を失う者が多くいるのが常々である。そのため、学校によっては「特別教室」とやらに隔離する場所すらあったが、幸い、龍子の学校にはない。

“回路”をコントロールして隠せばいい。だが、うっかり見せてしまう者もいる。自分は果たして隠せるのか、と龍子は思った。


その上、ばれたとして“回路”に親しくする人間は、大抵は“回路”か、キワモノが好きな異常者であった。中には博愛な方もいるのだが、それも少数である。どうしよう。


とりあえず龍子は悩むのをやめて、起きる事にした。布団を翻して、足をベッドの外に出した。足とて、糸束になったり戻ったりと不安定であった。おそらく全身がそうに違いない。母にどう打ち明けようか。

「お母さーん、私、“回路”になっちゃったー。」

と言ってグロテスクな姿を母の前に晒したら、たちまち母は気を失うに違いない。だめだ。


ベッドから出て、パジャマ姿の龍子はそのまま部屋にあるやや大きな化粧鏡へと向かい、自分の上半身を鏡を通して見た。身体は、不安や恐怖などの心情に反応して糸束に変化するらしい。顔も所々変わっていた。やや長い垂れた髪の毛すら、メデューサのように糸束として蠢いていた。

落ち着こう、と思った。龍子は鏡の自分に向かって、落ち着け、落ち着け、と自己暗示を送った。幸い暗示は効いて、徐徐に収束していった。元の身体に戻った時、彼女は三たび、安堵のため息をついた。しかし不安になるたびに“回路”では、よほど超越した精神構造でもない限り隠すのは無理だな、と彼女は思った。


こん、こん。


ノックの音に彼女は驚いた。一瞬身体は崩れた。彼女は言った。

「何?」

「ご飯できたわよ。」

龍子の母が答えた。龍子は返事をし、鏡で姿を確認しながら家を出た。


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