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『最後の辺境伯』  作者: 佐藤なつ


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4/4

最後の辺境伯

次期辺境伯の田舎娘。

彼女がいなくなったことで、喝采をあげる一団がいた。

「逃げたな。」

「腑抜けだった。」


彼らにとってはそれでお終い。

ちょっとした暇つぶし。

なんなら、ちょっと良いことをした。

身の程を教えてやった。

そんなくらいの認識だった。


それでも彼らは、教師に知られるのを避けたかったのだろう。

彼女の不在を隠した。

まず、門番の報告をもみ消した。

次に、教師には体調不良と報告した。


だが、役職に忠実な門番はきちんと報告した。

自治を担う生徒会だけでなく、教師にも。

「令嬢が一人、馬を駆って出て行った。」

と。

だが、生徒会から上がってくる書類上、不在の生徒はいない。

少女は体調不良で寮内に居ることになっているのだから。


結果、門番の勘違いと処理された。

数日後、彼女の父が死亡したという知らせが学園に届いた。

教師は知らせを手に彼女を部屋に訪ねた。

何と声をかけるべきか心配しながら。

部屋の前で呼びかける。

返答は無い。

もう一度呼びかけ、ドアを開けた。

体調不良と聞いていたから中で倒れているのではと思ったのだ。

だが、室内は誰もいなかった。

鍵もかけずに不在にするだろうかと不思議に思った教師の目に机の上の開いたままの教科書が入った。

だが、違和感があった。

室内の空気は、どことなくよどんでいる。

どことなくホコリっぽさも感じる。

少なくとも数日は、この部屋は使われていないだろう。

教師は部屋の中を探った。

教科書も。

制服も。

鞄も。

学園生活で必要な物、全てがそのままに残っている。

だが、引き出しの一部分だけが綺麗に無くなっている。

恐らく荷物を出したのだろう。


教師はすぐさま学園に報告。

学校はここでようやく出て行った生徒が次期辺境伯だったことを把握した。

学園はすぐに、生徒会に確認し、王家にも報告した。

すぐさま早馬が出された。

しかし、既に遅かった。


++++

辺境へ向かう道のりは険しい。

荒れている。

魔獣も出、盗賊が出ることもある。

それでも使者は馬を走らせた。

こんな道を少女が一人で帰ったのかと怪しみながら。

その疑問が増しに増した時、使者は見た。

辺境伯領から煙が上がるのを。

近づくにつれ煙は濃くなっていく。


嫌な予感を胸に、馬を急がせた。

小高い丘を越え、ようやく辺境領に。


そして、見たのだ。

巨大な壁。

城壁が。

それが、燃えている。

辺境伯の屋敷だったと理解した頃には、広大な屋敷は、燃え盛る大きな赤い壁となっていった。

「これは・・・。」

熱風が使者の頬を撫でる。

呆然とする、使者。

火の粉が飛んでくる。


見張り台が崩れ落ち広場へと倒れてきた。

100年ほど前の戦争時、建てられて物見台。

恐れた馬がいななき後ずさった。

使者は馬から降りた。


そこで気づいた。

今、立っている場所は、かつては、武術大会が開かれた。

英雄達が武器を携え、馬をかけさせ、技を競った。

出征前、武器を携え隊が整列した。

建国期に記され、謳われ、絵画に記され、古参兵が伝説を語ってたその広場だと。


今、そこを覆うのは熱風。

焦げた臭い。

建物が崩れる音。

風は吹き上がり、煽られた火は次の場所へ燃え移る。

人気のない兵舎に。

倉庫に。


消火活動する人もいない。

「誰か!誰かいないのか!」


ごぉと火が吹き、炎の合間から一人の少女が歩いてきた。

煤だろうか頬が汚れている。

服も乱れている。

だが、その表情は妙に落ち着いていた。


「・・・・・あなたは。」

使者は息を呑んだ。

「風が強いですね。」

天気を語るように穏やかな声。

「ここで・・何を?」

「王家からの使者の方?」

質問に質問が返ってきた。

使者が辛うじて頷くと、彼女は一礼する。

正式な手順だ。

「全て片がついてからご報告に上がろうかと思っておりましたが、ご足労頂きありがとうございます。」

冷静な口調。



いや、最後の辺境伯だと使者は悟った。

使者は何か言おうとして声が出なかった。

少女の表情。

醸し出される空気に、喉に言葉が張り付いて出てこない。

「失礼ながらこの場で報告させて頂きます。爵位返上を。」

「そ・・んな、勝手・・なこと。」

「ご存じかと思いますが、父は、亡くなりましたので、代理の身ながら私の権限で領を終わらせました。」

そんな報告をする。

「前・・辺境伯・は。」


「祖父母は領民の保護に。兵は解散し、王都に向かわせました。」

「では、この火を放ったのは。」

答えが分かっているが聞かずにいられない。

「私です。」

少女はあっさり認めた。

「・・・あぁ、思ったより早く砦にまで行きましたね。老朽化して動かないかもと思ってたけど、案外ちゃんと作動する。本当に火の壁ができるんだ・・。」

少女は感嘆したような声を上げた。

「何故、このような。」

「学園で教えて頂きましたの。我が領は王国の負債なのだと。守っていたつもりが王国の足を引っ張っていたと。ですから終わらせました。本来、ご報告してから成すべき所ですが、迅速に対応すべきと判断致しまして。事後報告となっております。」

少女の視線は壁を見ていた。

見たまま淡々と応える。

後続隊が到着し慌てて、消火活動につくが火の勢いは止まず。

少女は告げた。

「消えない仕組みですから無理ですよ。敵が攻めてきた時の時間稼ぎをする為ですからね。私達に出来るのは見守るだけ。」

「しかし!燃え移ったら。」

後続隊長がいう。

少女は落ち着いている。

「大丈夫ですよ。燃えるのは、屋敷・・・だけのはずです。この広場が緩衝帯となってこれ以上は広がらないようになっていますから。」

少女の言葉通り、数日、屋敷は燃えたが他には燃え広がらなかった。

一行は辺境の技術力の高さに感嘆した。

そして、それが失われた事を惜しんだ。


使者の言葉に少女はほんの少しだけ笑顔を浮かべた。

誇らしげな、寂しげな。

そして悔いてもいるような複雑な表情だった。

少女に使者は告げた。

「では・・。ご一緒に王都にお越し願えますか?」

現、そして最後の辺境伯として、礼儀を尽くして彼女に対応した。

まだ煙が上がり、焦げた臭いがする領内を後にし、彼女は王都へ護送された。

馬では無く、後続で続いた馬車で。

そこで、使者は彼女の供述を聞いた。

淡々と話す彼女の口調は物語を語るかのようだった。


ただ、告白ごっこを仕掛けた当事者達と面会させた時だけ感情を表した。


当事者達は謝罪した。

それこそ。

必死に。


彼女は、

「何の為に謝っているの?」

と、聞いた。

心底不思議そうに。

言葉に詰まる彼らに彼女は告げる。

「何か悪いことしたの?」

「・・・・悪戯に巻き込んでしまって。」


ふふふふふふ。

少女は笑った。

「そう?そうなの。悪戯だったの?」


「はい。申し訳ありませんでした。あれは本心では無かったのです。」


「そうなの?貧乏だって、王国の負債だって。言ったのも?」

「はい。私達が不勉強で申し訳ありませんでした。」

「あら、でも、本当に負債なのよ?軍だって、設備だって維持が大変だもの。我が家は無理ですわ。元々、我が家だけが負担するのは無理だったのです。これからは、各家で少しずつ負担なさって・・・そう、皆様、順に、ご自身であの場所で見張りなどしてみたらいかがです?」

少女の言葉に、彼らは泣いた。

泣いて縋った。


「無理です。」

「あんな所まで行けません。」

「そんな危険な事無理です。」


謝りつつ失礼な本音を漏らす彼ら。

その姿に少女は薄く微笑みを浮かべて

「そうね。」

「田舎だものね。」

相槌を打つ。

「でも、私、もう終わらせてしまったの。砦も焼いてしまったし、だから。私は、我が家は、もう無理なの。」

彼らは泣き叫ぶ。

泣いて許しを請う。


彼女は、頷く。

彼らの言い訳に。

同調はする。

だが、結論は変わらない。

『無理。』

何度も、そう告げられ、途方に暮れる彼らを見て、


「申し訳なかった!」

とうとう、彼らの親である当主達まで、謝り始めた。


「事の重大性をわかってなかったのです。」

「子供だったのです。」

「申し訳ありません。」

自分達の子が責任を取らされ、辺境に配属されるのでは。

もしくは自分達自身が辺境を治めさせられるのか。

その恐怖がありありと見えた。

少女は不思議そうな表情を崩さない。


「わからないなら、何言っても許されるの?」

「何しても良いの?」

「貴族たるもの、情報収集が大事だって言うでしょ?だったら我が家の事ももう少しは情報収集すべきだったんじゃない?」


彼女の言葉に彼らは何も返せなかった。

子供も、大人も。

沈黙の後、彼女は深く頷いた。

「あぁ、なるほど。」

納得いったという表情。

「そんな労力を割くような価値も我が家には無かったのかしら。」

返答は無い。

だが、それが返答だった。

「無かったんでしょうね。」

少女は吐息を漏らすように呟いた。

「いずれ没落して消えるのだから。

いっそ消してやったら良いとか言ってたもの。他にも何だったかしら・・そう。自分達で不良債権を整理してやろう・・・とか。」

ふふふふ。

彼女の軽やかな笑み。


「お望み通り、整理しておきました。この後、どうするかはご自身達でお考え下さいませね。」


彼らは絶望した。

安易な学生の悪戯。

若い正義感。


首謀者達は項垂れるしかなかった。


顛末を聞いた王であったが、彼女の話を聞くことにした。

彼女は堂々と、

「辺境伯は負債でしたので終わらせました。

父は亡くなったので、

祖父母は領民の保護にあたり移動しました。」

淡々と報告をした。


傷ついた彼女。

傷つけられた心。

矜持。

誇り。

全てを彼女は葬りさったのだ。


王はそれ以上の罪を問うことはできなかった。



さて、その後、どうなったか・・・。



国境の守りを無くした国がどうなるかなんて。

そんなこと。

問うまでもない。

ほどなくして、一つの国は消え去った。


愚かな上位貴族も、下級貴族達も、ただの平民として。

高貴な遊びも、何も、できないただの労働者として。


ただ、最後の辺境伯がどうなったのか。

それだけは史実に残っていない。


後書きにおまけを載せます。


最初の原案です。

これをこのままChatGPTに見てもらって講評もらって修正また講評もらって修正を繰り返して半月から1ヵ月位かけて今の形になりました。

以下そのままです。



小説家になろうに載せようとしている短編。

ざっと書いたので、講評お願いします。


昔、ウチはお金持ちだったらしい。

そんな事、私は知らないけど。


産まれた時から貧乏だった。

家は、建国以来の名がある・・・なんとかとか親は言う。

祖母も言う。


確かに家は大きい。

辺境伯だという話で。

昔は、多くの軍隊が詰めていたんだって。

だから、いっぱい部屋がある。

控え室とか、応接室とか。

王族も来たことがあったらしい。

王族専用の部屋なんて言うのもある。

既に手が入れられなくて、カビて、崩れかけていている。



そんな我が家は没落寸前。

だけど、何とか生き延びている。

生き延びさせられている。


だって、辺境伯だから。

辺境を守る者がいなくなったら困るでしょ。

国として。


そういうことで、最低限の暮らしをなんとか繋いで、繋いで、婚姻なんかに困ったら貧乏とか訳あり令嬢とか令息とか送り込まれてそれでなんとかなんとか家を繋いで。


でも、もうお終いかも。

そう思う。


だって、こんなにもバカにされているんだもの。

国を守る為に。

必要な一族だから。


そんなの、ただの名目じゃない。


本当にそう思う。


++++++


気づいた時には、更に深みに嵌められた。


困った所、弱った所に親切な言葉をかけて、近寄ってきて、慰められて、気持ちを絆されて・・・・。

それで、最後の最後に種明かし。

全部全部、皆で陥れたんだって。

凄いね。

人の気持ちも尊厳も。

何も無いんだよね。


ねぇ、知ってる?

貧乏だって言って、ウチのこと笑ったよね。

でも、その貧乏な我が家がこの国の防衛戦に立っていたんだよ。

そっちにお金を使ったから無いの。


ねぇ、これも知ってる?

田舎者だって、都会の事を知らない愚か者だって笑ったよね。

でも、その田舎者がずっと田舎に詰めて、国境を守ってきたんだよ。


知っていて、そんな事をしたの?

知らない。

知らないなら何言っても許されるの?


貴方達、貴族たるものは情報収集が大事だって言うでしょ?


だったら我が家の事も少しは情報収集すべきなんじゃない?


それともそんな労力を割くような価値も我が家には無かったのかしら。

無かったんでしょうね。

いずれ没落して消えるのだから。

そういう考えなんでしょうか?


でもね。

良く良く、考えて、我が家が没落したらどうなるの?

我が家がいなくなったらどうなるのか。


あぁ、でも、考える気も無いし、つもりもないのでしょうね。


だから、我が家はお望み通り消えて差し上げます。

貧乏なのに、田舎者なのに、態々王都の学園に来た身の程知らず。

でしたら、そのように。

視界からはもちろん、存在もろとも消えて差し上げますとも。



そうして、彼女は後ろ指さされ笑われながら学園を去った。


その話を王家が聞いたのは数刻後。

慌てて彼女を追うが。

時既に遅し。


王家の使者は辺境伯家の本家がある方向から上がる煙を見た。


曲がりなりにも辺境伯の娘。


彼女は単騎で家に戻った。

魔物や夜盗がいる森も、一人で掻い潜って。

そうして、彼女は跡取りとして、家を終わらせた。




国境の守りを無くした国がどうなるかなんて。

そんなこと。

問うまでもない。


そうして、一つの国は消え去った。


消え去ってしまった。

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