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『最後の辺境伯』  作者: 佐藤なつ


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1/4

辺境伯の娘

昔、ウチはお金持ちだったらしい。

そんな事、私は知らないけど。


私が物心ついた時には貧乏だった。

多分、そのもっと前から貧乏だったのだと思う。


父も祖父母も言う。


我が家は建国以来の名家なんだって。

我が家はこの国を守っているんだって。


確かに、辺境伯だから。

建国以来の名家だし、国境を守っているのは間違いないのだろう。


親の言葉が嘘じゃない片鱗もあちこちにある。

家が大きい。

とても、とても、無駄に大きい。

国境に沿って壁みたいに建っている。

その前には、大きな大きな広場。

かつては、ここで武術会が開かれ、更には多くの軍隊が整列して出撃前の演説を聞いたらしい。


建国記にも、我が家の歴史書にも記されている。

壮観な光景だったらしい。


そんな屋敷だから、過去の遺物だけはいっぱいある。


控え室。

応接室。

会議室。

兵士達の宿舎として使っていた別棟。

救護室だって。

いっぱいいっぱいある。

屋敷の真ん中には、王族専用の部屋まで用意されている。

豪華な意匠の室内に繋がった、立派なバルコニーまである。

「何の為についてるの?」

って、父に聞いたら、

「出撃前に、演説する為だよ。ここに陛下が立ち、軍を鼓舞したんだ。国史の三巻、2章に載っているだろう・・・。」

って、誇らしげに延々と語ってくれた。

その父の背中越しに見えるのはたなびく洗濯物。

演説するバルコニーは今や、物干し場だ。

父は事ある毎に、国史に記されている我が家の武勇を語る。

どれほど我が家が王国に尽くして、王族からの信頼も厚いのか・・・。

けど、もう何十年以上、王族の訪れはないし、予定もない。

むしろ、来てもらっては困る状況だ。

老朽化が激しいし、手が入らない所は、雨漏りして、カビて、壁が崩れてる。


撤去がてら朽ちた家屋を薪に使うこともある。

大変、良く燃える。


我が領は、薪だけは困らないだろう。

だって、廃墟だらけなんだもの。

直す余裕もないから、薪として売り出したらどうかしら?

そんな気持ちになるくらい我が家は貧乏。

没落寸前だと思う。

それでも、何とか生き延びている。

いや。

生き延びさせられている。


だって、辺境伯だから。

辺境を守る者がいなくなったら困ると言うわけで、国は最低限の支援を下さる。

支援と言ってもお金をくれる訳じゃない。

貸してくれたり、税金の支払いを待ってくれるだけ。

当然、それらは借金として計上されている。

つまり私達は、国に借金をして、その借金があるから国の命令には絶対服従だ。

言ってしまえば、国の奴隷状態だ。


国からの無茶ぶりに応えて、時々、他領地の治安維持に駆り出されたり、魔獣の討伐に出させられたり。

酷い時なんて、土木工事に駆り出されたことがある。

自領の警護だって大変なのに、他領まで行けば遠征費、他諸経費がかかる。

一応、国が出してくれる。

けど、全然割に合わない。

でも、借金があるから、何にも言えない。

父は、以前

「仕事を請け負ったお陰で、利息を免除してもらえた。」

なんて喜んでいた。

いやいや、もともと借金させられただけなのに。

何をありがたがっているんだか。

呆れてしまう。

なんなら、

「我が領の土木技術が国を支えているんだ。」

なんて誇らしく言っている。

続く言葉は過去の自慢。

「建国史に載っているだろう。大きな壁だって、先祖が試行錯誤して・・・。」

「はいはい。最後には、国を守る火の壁になるんでしょ。何回も聞いたわ。」

そう言って私が話を終わらせる。

そうじゃないと長くなるから。

私も良く読まされたから知っている。


史実に載っているくらいだから、そういう技術はあるんだろうけど。

そういう問題じゃないと思うの。


父のこと、家の事が嫌になってしまう。

この家を継ぐと思ったら溜息しか出ない。

それに、私は、辺境伯の一人娘なのに婚約者もいない。

それも仕方が無いと思う。

未来が見えない。

こんな状態の家と縁づきたい貴族なんていない。

私の代の前。

とっくの昔に断絶しててもおかしくない。

なのに、続いちゃっている。

理由は簡単。

借金同様、国が何とかしてしまうから。


婚姻相手として令嬢や令息を斡旋して下さる。

但し、訳ありの。

こちらの希望はほとんど通らない。

訳ありさんが複数の時はもあれば、単独犯……いえ、お一人の時もある。

血筋も、年齢も、罪状・・いえ、やらかした事も様々。


こちらの事情は考慮されない。

ちなみに、先々代は第三夫人までいたらしい。

訳あり妻が三人。

そこから更に貧乏になったらしい。

いや、そうじゃなくても少しずつ貧しくはなっていったと思う。

領主教育で、各年代の収支書なんて勉強させられてビックリしたもの。

だって、嫁いでくる人は持参金無しの人ばっかり。

嫁入り道具も無かったのか、下着代とか計上されてたから、それはお金かかるわよねって納得するしかなかった。。


ちなみに、当の歴代の訳ありさん達の反応はそれぞれだった。

窮状に卒倒したり、引きこもったり、逃亡しようとしたり、暴れたり・・・。

まぁ、色々あったらしい。

直近の訳ありさんは私の母。

某子爵家のお嬢様だったらしい。

彼女の伝説については、また別の話になるけれど。

私を産んだら逃亡してしまったらしい。

父は

「せめて男を産んでくれるまでいてくれたら。」

なんて言っている。


男を産むまで、この土地に縛り付けられるって思ったから逃げたんじゃないかしら?


そういうことを口にしてしまう父のデリカシーの無さに呆れるしかない。

明け透けな父は、後妻を娶りたいと堂々という。

王家にも後妻の斡旋を依頼しているという。

年頃の私の前でそんな話・・・と、思うけど、来てくれて、息子でも産まれたら私は自由になれるのだ。

是非、来て頂きたい。


だけど、来る気配はない。

仕方ないと思う。

だって、来たい人、いないんじゃないかな。


このまま、私に何かがあったら、今度こそ断絶間違いなし。

一応、建国以来の辺境を守ってきた一族なので、代々、国防にまつわる秘密を伝承している。

私が10歳になった時に、もうどうしようも無いって跡継ぎ認定された。

その秘密も私に告げられた。


と、言っても砦の破壊の仕掛けとか、そんな程度。


いや、その仕掛け、老朽化で動く?

心配しかない。


そもそも、こんな綱渡り状態で、本当に必要とされているのかしら?

父に聞くと、いつだって

「必要とされている!」

力強い返事。

「王家の信頼も厚い。お前には格別の取り計らいがあるだろう。」

なんて言われる。

確かに、王家からは、私の誕生日に辺境伯家では着る機会のないようなドレスとか、つけても作業の邪魔にしかならないアクセサリーが届く。

後は、定期的に医師が派遣されて、健康管理をされる。

確かに、微妙に気遣われている感じはする。

だけど、我が家が欲しい物とは、ちょっとずれている。

王家からもらった物なんて売りに出せないし、御礼という名の新しい土木工事とか請け負わされるし。

そういう意味では王国を支えているのかな・・。

何とも言えない気持ちになる。


冷めた私に反して父も祖父母もとにかく必死だ。

この国を、国民を守るのは我が家しかいない。

ご先祖様がそうしてきたから。

それが彼らの口癖、そして誇りらしい。

残ってくれている領民達・・・ほぼ兵士達や、その家族も

「有事の際は、命をかけて。」

なんて言ってる。

そういうのが建国以来の我が領の誉れなんですって。


かくいう私も、小さい頃からそういうの聞かされて育ってきたんだけど。


王家の依頼で派遣されるお医者様ご一行は、

「今は、そういう時代じゃ無くなってきていますよ。」

と、教えてくれる。

国の中央では、そこまで辺境の重要性を感じていないみたいだって。

そこまで気負わなくても良いと思うって。

その言葉に、私は驚いて、言われた事を伝えた。

父に、祖父母に、領民に。

だけど、皆、わかってくれない。

私も、年に一回くらいしか来ないお医者様ご一行のいう事を、真に受けるのどうかなって思っていた。

思うけど、お医者様達が嘘つく理由も無い。

そこで私は、それ以上考えるのを止めてしまった。

時間も無かったし、正解を知る方法も思いつかなかった。

怪しい事を放置する。

そのツケが回ってきたのかな。


だって。


現実は、もっと厳しかった。

お医者様は、やんわりと伝えてくれていたんだと思う。


だって、こんなにも馬鹿にされているんだもの。

国防を担う我が辺境伯。

それを誇りに生きている父と祖父母。

同じく領民達。

でもね。

外に出ると。

そんな事、思っている人、誰もいない。

いなかった。

現実って残酷なもの。

心底、そう思う。

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― 新着の感想 ―
設定が面白いです。落ちぶれた貴族に好感が持てます。主人公の女性は優しい人だなと思います。気遣いのできる人なんだなと感じます。でも不満を感じるのは時代の流れから誰も主人公の家の人に本当のことを言いにくい…
2026/10/09 17:01 タブラと言います。面白いと思いました。佐藤さんの空気感は楽しいですね。
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