第3節「レオン介入」
聖療院が本格的に動き始めてから。
中央教会内では、少しずつ別の声も増え始めていた。
「予算を使いすぎでは?」
「前例がありません」
「医療班を増やす必要が本当に?」
会議室。
重たい空気。
並ぶ神官たちの表情は硬い。
「……」
シャーロットは端の席で静かに座っていた。
こういう場はまだ慣れない。
というか。
出来れば来たくない。
「聖女様は現場だけ見ていれば良いのです」
年配神官が静かに言う。
「制度や運営は我々が――」
「だから今まで回っていなかった」
低い声が遮った。
空気が止まる。
レオンだった。
灰色の瞳が静かに会議室を見渡している。
「……第二王子殿下」
神官たちの表情が少し強張る。
レオンは机へ資料を置いた。
「患者数推移」
「死亡率」
「重症化率」
「待機時間」
数字が並ぶ。
「聖療院導入後、重症安定率は上昇」
「待機列混乱も減少」
「軽症患者処理速度も改善」
淡々とした声。
だが。
反論しづらい。
「しかし予算が――」
「人が死ぬより安い」
即答だった。
会議室が静まり返る。
「……」
シャーロットは少し目を見開く。
レオンは続けた。
「今までの中央教会は、高位回復術師へ依存しすぎていた」
「それは――」
「属人化は破綻する」
容赦なく切り捨てる。
「一人が倒れれば止まる仕組みなど脆弱だ」
静かな声だった。
でも。
現場を見てきたから分かる。
それは本当だった。
「聖療院は再現性を作る」
医療。
衛生。
分担。
教育。
誰か一人だけに依存しない形。
「……」
神官たちは黙り込む。
すると。
「ですが、聖女様の負担が増えているのも事実です」
別の神官が言った。
「現状でも限界では?」
その言葉に。
シャーロットが少し俯く。
確かに疲れている。
半覚醒後は特に。
情報量も多い。
身体負担も大きい。
その時。
「だから支援を増やす」
レオンが即答した。
「人員増加」
「医療班育成」
「補助回復術師教育」
そして。
「聖女を潰す気か?」
静かな声だった。
会議室の空気が凍る。
「……っ」
シャーロットが小さく息を呑む。
レオンは真っ直ぐ神官たちを見ていた。
「現場へ負担を押し付け続ければ破綻する」
「それはもう証明されている」
届かなかった命。
足りない人手。
回らない現場。
全部見てきた。
「支える仕組みを作れ」
静かな声。
でも。
強かった。
「……」
シャーロットはその横顔を見る。
最初は冷たい人だと思っていた。
合理だけを見る人だと。
でも違った。
この人は。
“続けるための現実”を見ている。
「……殿下」
ぽつり、とシャーロットが呟く。
「なんだ」
「ありがと」
一瞬、会議室が静まる。
レオンは少しだけ目を細めた。
「礼を言われることではない」
「でも」
「これは王国の問題だ」
静かな声だった。
「個人へ押し付けて良い話ではない」
その言葉に。
シャーロットは少しだけ笑った。
「……うん」
会議室の外では、聖療院の慌ただしい声が聞こえてくる。
まだ問題は山積み。
反発もある。
でも。
少しずつ。
確かに。
支える側”も動き始めていた。




