第4節「怖くない治療(上)」
地方教会には、毎日いろんな人がやってくる。
熱を出した子供。
畑仕事で腰を痛めた老人。
怪我人。
咳が止まらない人。
裕福な人間は少ない。
ほとんどが、医者へ通う余裕のない人々だった。
「次の方どうぞー」
シャーロットは診療室の扉を開ける。
最近では、すっかり手伝いが板についてきていた。
「あ、シャーロットちゃん」
「今日もいるのかい」
患者たちが少し安心したように笑う。
「うん!」
笑い返す。
すると、それだけで空気が少し柔らかくなる。
そんなことが増えていた。
「……やっぱり不思議ですね」
若い修道女が小声で呟く。
隣でレナも静かに頷いた。
最近、診療室で暴れる患者が減った。
特に子供だ。
回復魔法は怖がられることが多い。
光。
痛み。
無理やり傷を閉じる感覚。
大人でも苦手な人は多い。
けれど。
「やだぁっ!」
今日も小さな女の子が泣いていた。
転んで膝を切ったらしい。
「いたいぃ……!」
「大丈夫ですよ、すぐ終わりますから」
修道女が優しく宥める。
だが女の子は首を横に振った。
その時。
「こんにちはー」
ひょこっとシャーロットが顔を出す。
すると。
「……シャーロットお姉ちゃん」
女の子がぴたりと泣き止んだ。
「お膝痛い?」
こくり、と頷く。
シャーロットはその場へしゃがみ込んだ。
「頑張れそう?」
「……ぅ」
まだ怖そうだった。
シャーロットは少し考える。
それから。
「じゃあ、一緒にぎゅーってしよっか」
そう言って、小さな手を差し出した。
女の子はおずおずと握る。
暖かい。
それだけで、少しだけ呼吸が落ち着いた。
「えへへ、大丈夫」
シャーロットが笑う。
すると女の子も、少しだけ力を抜いた。
「じゃあ治療しますね」
修道女が回復魔法を使う。
淡い光。
傷が閉じていく。
普通ならここで泣き出す子供も多い。
だが。
「……ぅ」
女の子は涙目になりながらも耐えていた。
シャーロットの手をぎゅっと握りながら。
「終わりましたよ」
「……ほんと?」
「はい」
女の子が恐る恐る膝を見る。
傷はもうほとんど塞がっていた。
「なおってる……!」
「頑張ったねぇ」
シャーロットが嬉しそうに笑う。
女の子もつられて笑った。
「ありがとう!」
その様子を見ていた修道女たちは、また顔を見合わせる。
「怖がらない……」
「ええ」
レナは静かに考え込んでいた。
普通の回復魔法は、“治す”。
だがシャーロットは違う。
“安心させている”。
それが決定的に違った。
しかも本人は無自覚だ。
「シャーロット」
「なぁに?」
「少しこちらへ」
「?」
呼ばれて近づく。
レナはそっとシャーロットの手へ触れた。
暖かい。
柔らかい。
不思議と力が抜ける感覚。
「……」
やはりそうだ。
魔法を使っていなくても、微弱な影響が残っている。
「レナさん?」
「いえ」
レナはゆっくり手を離した。
「あなた、自分で疲れは感じていますか?」
「えっと……ちょっと眠いかも」
「それだけですか?」
「うん?」
本当に分かっていない顔だった。
レナは小さく息を吐く。
この力は異常だ。
だが本人に知識がなさすぎる。
制御もできていない。
それが危うかった。
その時。
診療室の外で騒ぎ声が上がった。
「先生!」
「来てください!」
慌てた声。
修道女たちが顔を上げる。
「どうしました!?」
「熱患者です! かなり酷い!」
空気が変わる。
レナの表情も引き締まった。
「診療室を空けてください」
「はい!」
修道女たちが慌ただしく動き出す。
だが。
シャーロットだけは、運ばれてきた患者を見た瞬間、顔を曇らせた。
「……苦しそう」




