後日談 北の国の王太子
後書きに家系図入れました。小さいけど。
北の国に冬が巡ってきた。
騒動から4年、国の内外で信望の厚かった大神官と血の正当性を持った公爵令嬢を欠いた王都は、かつてない厳しい冬を迎えていた。
冬でも贅沢に薪を燃やし春のごとき暖かさを誇っていた王太子の居室は、窓を閉め帳をすべて閉ざしてもまだ冷気に侵食されている。王太子の失策と、王家と貴族家との対立が王城の薪にすら及んでいたのだ。
寒さの厳しい北の国では真冬になると複数の街道が雪に閉ざされる。王都や王城ではいくつもの倉庫に入りきらないほどの薪や保存食を備蓄し長い冬を乗り越えてきた。だが、例年なら冬が来る前に満杯となり一冬を優に賄えるはずの王城の倉庫群は、今はまだ冬の半ばだと言うのに中身を半量以下まで減らしていた。冬を前にして通商が滞り、倉を満たせなかったためである。
政治と商業の集積する王都には豊かな森も広大な畑もない。辺境の安価な薪や作物が王都との中継地で消費され、中継地の薪や作物が王都で消費されることで国が成り立っていた。その差額を主な収入としていた中継地が、辺境からの物資不足により領地内の生産物を自家消費し始めたのだ。王都は外部からの物資搬入が滞れば冬を越すことすら難しい。王都の民は、王都の土台を支えていたのが遠い辺境の民であったことを、これ以上ないほど思い知らされていた。
西の国との通商条約交渉や領有権争いに敗北した影響は大きかった。
まず不平等な通商条約で国内の産業が打撃を受けた。さらに西部国境沿いの豊かな森林地帯の支配権を大幅に失い、西部からの薪の搬入が滞った。王命で搬出を命じても、領地の維持に必要な薪までは送れないと西部領地が一体となって拒否を通告してきた。領有権争いに決定的な敗北を喫した理由が王太子であったために、彼らの返答は義強だった。
ひとつやふたつの領地なら見せしめに罰を与えることも出来たが、西部連合を作っての一括回答だったためにその手は使えない。西部連合が完全に流通を止めてしまえば、西部連合が干上がる前に王都が凍えるのは誰の目にも明らかだった。
年々悪化していく王都の流通に貴族たちの王都滞在期間は年を追うごとに短くなり、逆に領地で過ごす時間は増えた。領地での社交が増えれば地域内の結束が強まり、精神的にも経済的にも王都との繋がりが薄れていく。
その乖離を何よりも止めるべき王家は、備蓄の集まらなさに危機感を募らせ、今秋ついに貴族や商人に王都屋敷に備蓄している物資の供出を命じた。当然のことながら、屋敷の備蓄を供出すれば王都屋敷では冬を越せなくなる。貴族たちは社交期間が始まっても凍える王都屋敷に戻らなかった。王都外にも拠点を持つ裕福な商会も王都を離れ始め、今冬、王都の社交界は事実上の休止状態となっている。
王都から逃れることのできない一般市民は、価格の高騰に喘ぎつつも神殿による物資頒布により飢え凍えない最低限度の生活を送っていた。周辺各地の神殿から秋までに薄く広く集積した物資を最低限の経費だけで頒布する神殿は、治癒術師の流出で失った王都での信仰を急速に回復している。いつか来る王制の行き詰まりを見据え、大神官の在籍時から強化していた制度がかろうじて機能していた。それは王都からの急激な人口流出で必要物資量が減少したゆえの薄氷の均衡だった。
国王は神殿にも王城への物資提供を要請したが、神殿は一切応じていない。そもそも神殿は独立した機関であり、王家は神殿に命令できる立場ではない。それどころか、王太子らによる子爵家の神殿籍改竄、神官長らへの贈賄や脅迫による不正な大神官罷免と聖女認定という、ありえざる重犯罪を重ねて絶縁宣言を受けていた。今も絶縁を翻していない神殿によくも物資提供を要請できたと大衆誌に嘲られる有様である。
もし神殿が薪や食料を王城へ供出すれば王都民が飢え凍える。神殿には王都民の支持があり、王家にはなかった。都民による暴動の気配を察した王家は供出要請を引っ込めざるを得ず、凍える王城で息をひそめている。王家の責任を追及する報道機関を取り締まることもできずに。
「世の不正を告発する正義の新聞 月刊キタグニ」
総力特集! 連載 迷走し続ける王家の過去と現在 王都民は王家と心中? 起死回生の策は?
卒業祝賀会での公開婚約破棄から4年! 王家と神殿の数々の不正を暴いてきた月刊キタグニが、尻に火のついた王家の現在と暗躍する貴族家や各国の思惑、大神官なき神殿機構を模索する神官長らの挑戦、……などの政治的に硬い話は専門紙に譲り、諸悪の根源たる王太子の迷走ぶりについて詳報する。
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この国で知らぬ者はいない王太子の婚約破棄劇場、そしてそれに端を発する王位継承問題、王家による子爵家の乗っ取り未遂、神殿への賄賂脅迫不正介入による神殿と王家の断絶、西の国との領有権争い惨敗と王太子が引き起こした大事件は数多い。とはいえ、時系列で並べろと言われると意外とわからないものである。なんせ、あまりにも多くの火種がありすぎた。よくもまあ、たった一人の人間がこれだけの騒動を引き起こしたものだ。あの事件はこの婚約破棄より先かな、後かな? あの婚約破棄と、この婚約破棄の間は何年あいてたっけ? そんな読者諸氏のために王太子の人生をざっとおさらいしておこう。起点は運命の婚約破棄の年とする。
◆39年前/前王妃薨去、前国王が側室と再婚、私生児だった現国王が王子に昇格
先々代王弟の長子として「傍系王族出身の前国王」よりも血の正当性を持っていた前王妃が子を残さず薨去。前王妃の妹君である前公爵夫人が残した日記によると、前王妃は片頭痛持ちの現国王や現王太子と違い、まったくの健康体だったそう。なぜ健康体の前王妃に子ができず、わずか24歳にして病没したのか。祖母である前公爵夫人はその死をずっと疑っていたと、公爵令嬢の従妹(北東の国在住)が「貴族新聞北の国」に証言している。本誌としても、婚姻から病気を発症するまでの5年間、前王妃に子どもが出来なかったのは何故か、本当に病没だったのか、疑問を感じずにはいられない。なんせ前国王の側室(現王の母)の祖母は薬事大国、とくに避妊薬で有名な南東の国の王女だったのだ。ちなみに現国王の王妃も南東の国の王女である。現王家は南東の国と近すぎないだろうか? 非常にうさんくさい。
疑惑の前王妃薨去後、前国王が側室と神聖契約をもって正式に婚姻した。神殿では婚姻前の私生児もさかのぼって実子として登録できるため、側室との間に生まれていた現国王が神殿籍を得て王家の家系図に書き加えられた。つまり誕生当時の国王は王子でもなんでもなく、傍系出身の前国王の私生児に過ぎなかったのである。前王妃に御子が生まれていれば、王家の家系図に乗ることすらなかっただろう。そういう立場なのに現国王には生まれてからの2年間、移民登録の神殿籍が作られていなかった。仮にも国王の私生児が無籍である。まるで前王妃が早世することで国王の嫡子として登録できると知っていたかのようだ。非常にうさんくさい。
ともかく、これこそが国内外で数々の問題を引き起こした国王および王太子の血統コンプレックスの大元に違いない。
◆21年前/現国王が南東の国の姫と恋愛結婚
その血統を補完するために王家の血を少しでも濃くひく国内の貴族令嬢と婚姻しなければならない現国王(当時は王子)が、貴族らの反対を押し切って、たまたま留学先で出会っただけの南東の国の姫との婚姻を強行した。王位継承の意志がなかったならともかく、婚姻後も我が国の王宮に居座って王位を継ぐ気満々だったくせに意味がわからない。最も血が濃いのは公爵家の兄弟(前王妃の妹である前公爵夫人の子)で、国王との婚姻は不可能だったとはいえ、国内に王家の血をひく傍系の令嬢は他にもいた。血統が傍系だったのは本人の責任ではないが、現国王は自ら進んで貴族の命であるはずの血の正当性を毀損したわけである。片頭痛持ちの現国王が姫の治癒術に惚れて口説き落としたとは、本人の口から出た美談だから呆れる。治癒術に多少の相性があるのは事実らしいが、王位を継ぐ気ならそんな理由で婚姻相手を決められては困る。治癒術士として招請するか側室にしろ。前王もなぜ止めなかったのか。繋ぎの傍系である自覚がなかったのだろうか。何より側室祖母に続いてまた薬事(避妊薬)大国の南東の国の傍系王女である。非常にうさんくさい。
現王太子は誕生前から火種の塊だったのだ。
◆18年前/現王太子誕生
現国王とは違い、最初から王家の家系図に乗る嫡出子として王子(現王太子)誕生。現国王夫妻は「王子は国境を超えた大恋愛の末に生まれた愛の結晶」というが、生まれた子はたった一人である。数少ない支持基盤の貴族家の反対を押し切って結婚しておいて、3年も子が出来なかったうえに側室も拒否したため、なおのこと王家と貴族家の距離が離れた。この時点では立太子もされず、ろくに支持基盤も持たなかった現国王が、側室入内で味方にできたはずの貴族家をあえて遠ざけた理由は凡人には想像もつかない。ちなみに不妊の間も現国王夫妻は王宮に居座っていたので王位を望んでいなかった説はあり得ない。まさか前国王のたった一人の王子だから、自分が王になって当然だと思っていたのだろうか? むしろ現王派は現国王の実母である元側室の実家一門と王妃の実家である南東の国くらいで、貴族連合は公爵を継いでいた先々代王弟の嫡孫を推していた。公爵家の兄弟が相次いで事故死しなければ王位が巡ってくるはずもなかったのに、王位を望みながら側室拒否とはおかしな話である。非常にうさんくさい。
◆13年前/公爵と公爵弟が相次いで事故死して現国王が立太子。
当時、血の正当性を持った先々代王妃の薨去もあり、王統を傍系から正統の先々代王弟の孫(前公爵夫人の子息)兄弟に戻すべきという意見が多かった。繋ぎのはずだった前国王はなぜか、公爵家の兄弟が娘たちだけを残して早世するまで王太子を決めなかったために、兄弟の死後に生きていただけの現国王が王太子となった。その翌年には現国王として戴冠したが、あまりにも傍系の現国王らに都合がよすぎると兄弟の死に疑問を持つ貴族は今でも多い。非常にうさんくさい。
◆9年前/現王太子、血の正当性を持つ公爵令嬢と神聖契約で婚約
公爵夫妻や弟の伯爵夫妻がなぜか相次いで亡くなり、その後の実権を握っていた前公爵夫人(先々代王弟の次女)が身罷るや否や、王家と王が認めた公爵代理が9歳の王子(現王太子。13年前からは王子は一人だけなのでここからは王子で)と9歳の公爵令嬢に神聖契約による婚約を結ばせた。理由は言わずもがな、王家と王子に血の正当性を補うためであろう。
公爵夫妻に弟伯爵夫妻、両方が相次いで事故死し残されたのは女児が一人ずつ。それだけでも王家に都合がよすぎであるが、事実はもっと酷い。実は公爵夫人は令嬢の前に男児を出産したが死産であった。だが、出生時には確かに産声をあげていたという証言もあるのだ。それで死産とはどういうことなのか。もちろん赤子はか弱いもので、謎の突然死も珍しくはない。だが、公爵家が継嗣の出産に万全の体制を整えなかったなどありうるだろうか? 非常にうさんくさい。
そして考えずにはいられない。もし令嬢が令息なら夫妻と共に事故死していたのかもしれないと。
ちなみに政変後の神殿は、王家と公爵代理の圧力に負け、9歳の子の同意による神聖契約を結んだことを間違いだったと公式に認めている。当然だ。9歳児なんて何もわからずとも大人に言われたら「はい」と従うしかない。同意もへったくれもないだろう。
この事件を受けて、神殿は神聖契約を15歳以上に限ると歴史的大転換を果たした。これにより親の意向による幼少時の神聖契約は不可能となったのである。婚約は書面での拘束しかなくなり、王家はここでも貴族家の反感を買った。もう王家を潰させるためにわざとやっているのかと疑いたくなる。
ところで、子ども同士が婚約の契約をせずとも、当主が契約者となって婚約させる誓いをすれば同じではないかと思った貴方。それは庶民の感覚である。契約不履行の神罰は契約者にくだる。子どもを契約者にしておけば神罰は子どもにくだるが、当主がうかつに契約者になると当主に神罰がくだってしまうのだ。当主以外の代理人を立てることもできない。初めから契約を破るつもりなのかと相手に疑われるからである。責任者なんだから当主が神罰を受けろよとは思うが、夜討ち朝駆け騙し討ちは通過儀礼の貴族家当主がいちいち罰を受けていたら家が回らない。だから子どもを生贄にするのである。親子の情もへったくれもない。血みどろの争いになるのも、むべなるかな。
◆2年前/現王太子、子爵家の少女(偽聖女)と出会う
貴族学校で、ただ子爵家で養育されているだけの子爵の弟の遺児と出会った王子は、その治癒術に惚れた。どこかで聞いた話だが、治癒術に惚れるのは傍系王族の血筋なのだろうか? 親子鑑定もいらない精度である。
惚れただけならまだいいが、なぜか王子と側近らは少女を聖女と詐称し、相互不可侵のはずの神殿に聖女推薦書を市民名で大量に出させる工作を開始した。この時にはすでに、子爵家の少女を聖女にして結婚すれば神殿も内政も外交も思いの儘と勘違いしていたのだろうか。王子と側近のくせに神殿法を知らんのか? 頭の中どうなってんの?
当たり前のことながら神殿と王家貴族家は互いに不可侵が原則。聖女推薦にも王家貴族家が関わることは許されない。推薦書を市民名で出したあたり、王子にも介入は悪との自覚があったということだ。小細工が犯意を証明する。小悪党あるあるである。
◆運命の年の春/現王太子、子爵家の神殿籍改竄
初代聖女は私生児なのに、聖女推薦が通らないのは偽聖女が私生児だからとなぜか誤解した王子たち。
ただ子爵家で養育されているだけの子爵の弟の娘を子爵令嬢と捏造するために、なんとびっくり、神官を脅して神殿籍を改竄した。子爵夫妻の婚姻を遡って取り消させ、爵位継承間際だった嫡子らの継承権を失わせ、子爵の死んだ弟の恋人(偽聖女の母)を勝手に子爵の嫁とした。そして弟の娘である偽聖女を子爵の子と偽って登録させた。これで偽子爵令嬢となった偽聖女が王子に嫁げば、子爵領を実質王家のものと出来る。翌年になって子爵家、夫人の実家の辺境伯家、神殿が連名で告発した後は、貴族家の乗っ取りだと大騒動になった。さもありなん。
神聖契約を改竄した手口は悪用を防ぐために公開されていないが、騙したのは神ではなく契約を結んだ人間だそうだ。神は騙せないが人は騙せる。王子らは子どもの命を盾に担当神官を脅した。その神官は必死で方策を考え、子爵らを騙して神聖契約をやり遂げたものの心を病んだ。良心が耐えられなかったのだろう。病気を理由に仕事を辞めて妻子を連れて辺境に逃げた。その逃げた先が騙した子爵夫人の実家の辺境伯領だったのは神の思し召しだったのかもしれない。調査した神官たちがたどり着いた先で、やせ細った元神官が狂わんばかりに土下座し、妻子の助命を嘆願したという。情状酌量の余地は大いにあるとはいえ、神聖契約の詐称は重罪である。何の罰もくださないわけにはいかない。神殿は罰としてその神官に子爵領での生涯の無償労働を命じた。無事に継承権を取り戻して代替わりした新子爵は、件の元神官をほかの治癒術士と同じ待遇で妻子ごと迎え入れた。懐の広い仁君だと新子爵の評判は高い。
評判をあげた子爵家と違って、王家には本気で青い血が流れているのだろう。イカやタコみたいに。人の心がないのも納得だ。
この運命の年は王子の策謀も盛りだくさんで言いたいことは山ほどあるが、紙面には限りがあるので婚約破棄以降の詳細は「月刊キタグニ 総力特集! 連載 噂の聖女の正体 王家の不正介入によって誕生? 聖女と王子の裏の顔」シリーズ単行本(書店にて絶賛販売中!)を参照してほしい。
よって以下は簡易年表である。
◆運命の年の冬
・貴族学園の卒業祝賀会で王子が公爵令嬢の犯罪を捏造し婚約破棄宣言、公爵令嬢追放宣言、偽聖女と婚約宣言
↓翌日
・神殿で神聖証言採取。公爵令嬢の犯罪を目撃したと証言した18名全員の偽証が発覚。王子の側近3名は10回嘘をついて破門。10回より前に偽証を認め撤回した者は神殿では虚偽証言の認定と証言公開のみで放免
↓翌々日
・大神官と王子が王城会談。公爵令嬢からの婚約破棄申請により、両者合意による婚約破棄成立
・公爵代理が公爵令嬢の罪を捏造した証言者18名と保護者を提訴
↓1週間後
・買収された、もしくは脅迫された神官長らの賛成により大神官罷免、偽聖女を聖女認定、大神官による3名破門は神官長会議の権限では取り消せずそのままに
・王子と偽聖女の神聖契約による婚約
・買収神官らが大神官を冤罪で収監しようとしたが、大神官、公爵令嬢ともに行方不明
↓3週間後
・国王夫妻、外遊(と言う名の王妃の帰省)から帰国
・国王が公爵令嬢への王子の越権私刑を正式に取り消し
↓3か月後
・国王が貴族の反対を押し切って、冤罪事件で悪評塗れの王子を王太子に任命
・直後に王太子らによる偽聖女の親戚子爵家の神殿籍改竄告発、神殿法により起訴。子爵家、子爵夫人実家の辺境伯家、神殿が連名で貴族裁判に刑事告訴
↓4か月後
・国王が貴族家の反対を押し切り、王太子を西の国との交渉使節団代表に任命
・西の国との通商交渉、領有権争いともに惨敗
◆1年後
・公爵領からの生地出荷停止処置終了。公爵令嬢が無事見つかるまではと婚約破棄直後から継続していたが、このまま冬になると王都民が凍死しかねないと秋を前に公爵代理が発表
・王都の神官の辺境などへの転籍・退職が増加
・国内や王都の流通が滞り始める
・血統至上主義廃止を主張する改革派が台頭
・王太子らの神官長ら脅迫または買収による不正選挙を神殿が神殿法により起訴(王太子は出頭せず)
・王太子と偽聖女の神聖契約による婚約を両者合意で破棄
・大神官罷免取り消し、聖女認定取り消し
・王太子が偽聖女を王宮治癒術士として招聘。断られて神殿に乱入、たたき出される
・神殿が北の国王家に絶縁宣言
◆2年後
・王家が北東の国商家に嫁いで子どももいる公爵令嬢の従妹を強制召喚して王太子と結婚させようと画策。北東の国神殿経由で公開拒否される。
・公爵令嬢従妹が前公爵夫人の残した王家の暗殺疑惑を暴露
・新たな王妃候補を探すも王太子に嫁を出す家はなく現王派が実質瓦解
◆3年後
・王太子、王妃、国王が王妃の実家の南東の国に亡命を打診して断られる
◆4年後/現在
・王太子が先々代王妹の曽孫である西の国の公爵令嬢10歳(王太子を領有権争いで惨敗させた西の国公爵令息の妹)と三度目の婚約
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いやひどい。この簡易年表だけでも失敗だらけである。現王家は先王が即位した最初の一手からすべてを間違った。起死回生の策はない。終わり。いやいや、ここで終わってはいけない。次号で運命の年以降の詳細を述べていこう。お楽しみに!
苛立ちに顔を真っ赤に染めた王太子が大衆紙をくしゃくしゃに丸めて暖炉に投げ込んだ。少ない薪を細々と燃やしていた暖炉の火がしばし燃え上がりまた静まる。
王太子が凍える手を豪奢な卓に叩きつけた。指先まで凍えているからこそ打ち付けた拳の痛みは強く、かじかんで鈍くなった痛覚は後から痛みを強めた。鬱憤を晴らすための行動でさらに鬱憤をため込んだ王太子が汚い言葉を吐き捨てる。
「くそっ!」
彼に治癒術を施す聖女はもういない。聖女の治癒術は王家のお抱え治癒術士たちとはまるで違っていた。痛みを芯から消してしまうのだ。それは患者と治癒術士との相性を越えたまさに奇跡の業だった。幼い頃から苦しめられた片頭痛すら、彼女にかかれば一瞬で消え失せる。あれを聖女と言わずしてなんと言おう。
私の聖女推薦は間違ってなどいなかった! 現に今は神殿で最も素晴らしい治癒術士として崇められているではないか! なのに推薦した私の治療を断るなどと! 何様のつもりなのか!
頭を沸騰させる怒りも王太子の冷え切った体を温めてはくれなかった。




