〈21〉オヤツ
Afternoon Tea
収穫した小豆を、荒井さんが一粒ずつより分けている。
彼のお眼鏡に叶ったものだけが、甘味所ヨネで赤飯やお汁粉、あんみつ等のメニューに提供されることになっているのだ。
素人にしては頑張って育てているものの、流石に莢の中の小豆が全部良質のものという訳にはいかなかった。
「作物作るって難しいや
花を育てていても途中で病気になったり虫にやられたり、天候不順で発育不良になったりするもんね」
今更のことだけど、僕は思わず呟いてしまう。
「何事も最終的にプラスになれば良いんだよ
小豆相場もそんなものだ、人間は焦って損をする
私たちに比べ存在期間が短いから仕方ないかな
短く儚いからこそ、惹きつけられる妖怪もいるのだが」
荒井さんがチラリと深緑を見ると
「お米はまだまだこれからだろう
先に消滅しないよう、せいぜい若くあろうとするんだな」
彼はニヤニヤ笑って言い返してきた。
「おっと、若作りの筆頭が来たぞ」
深緑の言葉通りミケ姉さんがやってきた。
相変わらず気合いの入ったゴスロリで決めている。
すぐ後からは三ツ子さんもやってきて
「こんにちは、今日はウォールナッツのクッキーを焼いてきたの
お菓子作りって楽しいわね、女の子の特権」
ミケ姉さんを見て勝ち誇ったようにそう言った。
「私はワイルドベリーで血のように真っ赤なジャムを作ってみたのよ
アフタヌーンティーにいかが?」
しかしミケ姉さんも負けてはいなかった。
「何だ、お前等おやつにするならヨネでお汁粉でも食べれば良いじゃないか
白玉アンミツもあるし、赤飯のオニギリにはけんちん汁が付いてお得だよ」
すかさず荒井さんがヨネの宣伝をする。
「「汁…」」
気が合わないはずの2人が見事にハモった後
「いえ、田舎っぽいのはちょっと…」
「アンコって重いし…」
言い訳のようなことを呟いて目を見合わせた。
「ジャム入りのセイロンティーでアフタヌーンティーする?」
「ステキ、そうしましょうか
クッキーだけじゃ物足りないからサンドイッチも作るわ
深緑殿、キューカンバーを少し頂いていきますね」
何だかわからないが、2人は仲良く去っていった。
「野いちごの茶を飲みながら、クルミの小麦粉煎餅とキュウリ挟んだパンを食べるだけだろうに
横文字使えば若いと思ってる婆どもめ」
憤慨する荒井さんを見て
『若さって何だろう…』
1番若いはずの僕は何だか途方に暮れてしまうのであった。