1. 「取り消して!」仲間を笑う奴らは私が絶対に許さない
1. 「取り消して!」仲間を笑う奴らは私が絶対に許さない
王都ローゼンシャリオのギルドの扉を開けると、一斉に無数の視線が私たちに突き刺さった。
いつもなら「また便利屋が追放されたのか」という嘲笑まじりの視線だけど、今日は違う。驚愕、疑念、そして畏怖。珍しくギルド内がざわついているのも無理はない。ギルドで底辺と呼ばれていた『便利屋』の私と『死神』の嫌われ者同士がパーティーを組んで、高難易度のグリムドラゴンを討伐したのだから。それも、2体も同時に。
「あれ?なんかざわつきすぎじゃない?すごく注目を浴びてるね、エルンとブレイド」
「そうだね。まぁ……いつも注目は浴びてたんだけどね。悪い意味で」
「騒がしくて仕方ねぇ。ほらエルン。とっととルナレットに報告してこい」
私は受付にいるルナレットさんの前に立ち、深呼吸をしてから、初めて『自分から』報告の声を上げた。いつもは誰かの後ろに隠れて頷くだけだったから不思議な気分だけど、それが少しだけ誇らしくもあった。
「ルナレットさん。グリムドラゴンの討伐依頼、完了しました!これが証明部位です!」
「ふふっ、お疲れ様エルンちゃん。素晴らしい戦果ね。それじゃあ、昇格の手続きをするからブロンズの冒険証を預かるわね?」
「……そのことなんですけど」
私が冒険証を出すのをためらうと、ルナレットさんが首をかしげる。私にはどうしても引っ掛かることがあった。このまま素直に、私とブレイドさんだけでシルバーランクへの昇格を受け入れることは出来なかった。
「どうかしたの、エルンちゃん?」
「すいません。今回の討伐ポイントを、彼女にも分けてあげてもらえませんか?」
「ん?私?」
ミーユがキョトンと目を丸くする。
あのグリムドラゴンを無傷で討伐できたのは、間違いなくミーユの援護があったからだ。だから、ミーユにだけ報酬や実績が何もないのは絶対に嫌だった。
「あのさ、エルン。私は別に構わないよ?最初に言ったでしょ、実戦の経験が積めただけで十分だって。せっかくシルバーランクに上がれるチャンスなんだよ?そうしないと、エルンはギルドをクビになっちゃうんだよね?」
「ミーユ。私が嫌なの。あの勝利は、間違いなくミーユもいたから掴めたものだよ。だから、私とブレイドさんだけで昇格を受けとるなんて絶対に出来ない!」
その様子を隣で見ているブレイドさんは何も言わない。せっかくの昇格のチャンスを保留にするなんて『バカなガキだ』と思っているかもしれない。
ルナレットさんは困ったように眉を下げた。
「ごめんね、エルンちゃん。気持ちは分かるけど、それはできないの。状況がどうあれ、ギルドの規定で『正式にパーティーを組んでいない者』には、いくら貢献してもポイントや報酬は分け与えられないルールなのよ」
分かっていたけど、どうしても嫌だった。シルバーに上がればクビの不安はなくなる。でも、仲間を蔑ろにしてまで得た身分なんて、今までの連中と同じじゃないか。
俯く私に、ルナレットさんがふふっと微笑んで、ある提案をしてくれた。
「でもね、エルンちゃん。それなら……その子を今、正式にパーティーに入れればいいんじゃない?あいにく私はまだ依頼の完了報告を『受理』していないもの」
「えっ……?ブレイドさん、あの……!」
「……オレを見るな。リーダーはお前だろ?」
ブレイドさんはぶっきらぼうな反応だけど、でも確かな肯定の言葉を聞いて、私は真っ直ぐミーユの目を見た。そして、勢いよく深く頭を下げる。
「ミーユ!私たちと、正式にパーティーを組んでくれないかな!?」
ギルド中の視線が集まるのも構わず、私はありったけの想いを言葉に乗せた。
「私とブレイドさんはギルドじゃ底辺扱いされてて、ミーユは嫌かもしれないけど……グリムドラゴンを討伐できたのはミーユのおかげだし、私、ミーユと一緒に上を目指したい!お願い!」
「えぇー……みんな見てるんだけどな……強引なんだからエルンは」
ミーユは照れくさそうに頬を掻くと、満面の笑みを浮かべた。
「私も別にパーティー組んでる訳じゃないし、エルンのお願いなら、答えはもちろんOKだよ!」
「ミーユ!ありがとう!!」
周りに沢山の冒険者がいるのもお構いなしに、私は嬉しさのあまりミーユに抱きついた。
初めてだった。
私が自分から、誰かを「仲間」に誘って、それを受け入れてもらえたのは。
「ちょっと苦しいなぁエルン……」
「だって、今まで私にこんな仲間いなかったから……っ」
「エルン……」
「それじゃ、グリムドラゴン討伐のポイントは3人で分割にするわね?昇格まであともう1回依頼頑張ってね、エルンちゃん」
私たちは無事に報告とパーティーの登録を済ませ、新たなブロンズ依頼を決めることにした。
「改めてよろしくね。……って言うかエルンはいいんだけど、ブレイドは良かったの?私みたいな新人がパーティーに入っちゃって」
「ああ?リーダーはエルンだ。あいつが決めたならオレが断る理由はない。それに、お前は神格スキル持ちだ。いてくれたほうが作戦の幅が広がる」
「それならいいんだけど。私のこと、しっかり守ってねおじさん☆」
「だから、おじさんじゃねぇ」
2人の軽口を聞きながら、私は心の底から嬉しくなった。
ミーユが仲間になってくれた。
ブレイドさんが私をリーダーと呼んでくれた。
そんな幸福感で顔が綻んでいた時――絶対に聞きたくない、耳障りな声が私を呼んだ。
「おやおや?依頼成功おめでとう、『便利屋』さん?」
「ふん。まぐれでも討伐依頼が成功して良かったな?クビが繋がって」
振り返ると、そこには私を29回目に追放した元・パーティーのメンバー、格闘家のリーナと戦士のグラッドが立っていた。
2人は、汚いゴミでも見るような目で私たちを鼻で笑ってくる。一瞬、かつての記憶が蘇り、私の身体がビクッと強張った。
「それにしてもグリムドラゴン2体討伐?冗談キツいぜ。どうせそこの『死神』が一人で倒したおこぼれで、お前は後ろで震えながら討伐証明の部位を拾ってきただけだろ?」
「ブロンズの万年底辺が、急にシルバーになれるわけないじゃない。ずいぶんと受付嬢のルナレットと仲が良いみたいだけど……まさか泣きついて、討伐記録の偽造でもしてもらったんじゃないの?」
「なっ……!?」
私を馬鹿にされるだけなら、今まで通り我慢できたかもしれない。でも、この2人は、私を認めてくれたブレイドさんやミーユ、そしてルナレットさんまで侮辱したのだ。
「はぁ?何あんたたち」
「ミーユ」
言い返そうと一歩前に出たミーユを、ブレイドさんが短い言葉で制止する。分かってる。これは私の問題だ。私が、自分でケリをつけなきゃいけない。
「……取り消して」
「はぁ!?あんた、誰に向かって口きいて――」
「取り消してって言ってるの!!」
ギルドの喧騒を切り裂くような、自分でも驚くほどの大声で、私はリーナを怒鳴りつけていた。
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