1. 【追放29回目】また捨てられた私、やけくそで『死神』と組む
1. 【追放29回目】また捨てられた私、やけくそで『死神』と組む
「エルン。悪いが、これ以上お前とは一緒にいることが出来ない。今日限りでパーティーを抜けてもらう」
「……はい?」
朝早くから大事な話があるとギルドに呼び出された時点で、ある程度は予想していた。しかし、周囲に他の冒険者たちがいるにもかかわらず、リーダーのクロスは堂々と私にそう言い放った。
何度も同じ経験をしていると、人間は驚きという感情すら麻痺してしまうらしい。
「エルン。お前は今までオレたちのパーティーで何か功績をあげたか?」
「功績……」
「あげていないのは認めるな?実は先日、お前の代わりに優秀な人材を見つけたんだ。だからお前には、パーティーを脱退してもらう」
クロスからエルンと呼ばれている私はふと、クロスの後ろに立つ仲間……いや、もう『元』仲間と呼ぶべき彼らに視線を向けた。
大剣を背負った大柄な戦士、グラッド。
私を嘲笑う赤髪の格闘家、リーナ。
壁にもたれかかり、退屈そうに欠伸を噛み殺す魔法使い、ロード。
そして彼らの更に後ろには、最近パーティーの中で話題になっていた聖女のような女性が立っていた。なるほど、優秀な替えが見つかったから私を切り捨てるというわけか。
クロスがリーダーを務めているこのパーティーは、先日の少し高難易度の魔物討伐依頼を無事に達成し、冒険者ランクがブロンズからシルバーに昇格したばかりだった。この昇格のタイミングで、しかも替えの人員。前もって計画していたんだよね、これ?
やはりこうなってしまう。分かっていた。でもこのパーティーなら……と、何度も何度も『追放』という裏切りを受けているのにまた期待をしてしまっていた。だが案の定、いつもの展開になる。
まぁ何を言われるかは大体分かってはいるけど、一応聞くことにする。形式的なものだから。
「あのさ。何もしてないってことはないよね?前衛のカバーも魔法の補助も一応やってたし。それは酷くないかな?」
私のその言葉を聞いて、今までクロスの後ろに居て黙っていた元仲間たちが、ダムが決壊したかのように次々と私に嘲笑を浴びせてくる。
「笑わせるな。お前は何もしていない。オレが最前線で魔物を斬り伏せてる後ろで、ちまちま小賢しく動き回ってただけだろうが。だいたい、お前のその中途半端な剣術も魔法も、全部オレたちの足を引っ張ってたんだよ。正直、オレの剣の軌道に入るから一番邪魔だったぜ」
大剣を背負った戦士のグラッドが、見下すような目で鼻で笑いながら吐き捨てるように言う。
「悪いんだけど。あんたこのギルド内で何て言われてるか知ってる?シルバーランクまでの『便利屋』よ?武器も体術も魔法も全て中途半端。器用貧乏なんて良いもんじゃない、ただの足手まとい。この先あんたみたいな劣化版がいると、ギルドの依頼達成が出来なくなるのよ。おわかり?」
格闘家のリーナが勝ち誇ったように笑う。
「まぁ、ボクは適当にやれたからどうでもいいけど……正直、キミのショボい魔法バリアとか見てて痛々しかったよ。これからボクたちがもっと上を目指すのに、キミみたいなどっちつかずの雑魚がいなくても誰も困らないしね」
壁にもたれかかったまま、魔法使いのロードが心底面倒くさそうに息を吐いた。
『便利屋』。
それは決して褒め言葉ではない。私に対する純粋な蔑称だ。確かにこのパーティーで特段目立つようなことをした覚えはない。それに劣化版と言うリーナの言葉もあながち間違いではない。
私には得意なことが1つもない。無難になんでも出来るというのはあくまでポジティブな考えで、彼らからすれば単に「能力が低くて何一つ極めていない奴」でしかないのだ。
だから私はシルバーランクに昇格したパーティーから、いつも追放されてしまう。これで何度目だろうか。もう数えきれないほど追放されている。そしていつも言われる言葉は同じだ。
『何もしていない』
『パーティーの頭数合わせ』
『その程度じゃこれから足手まとい』
もうウンザリだ。
「はぁ……分かったよ。丁度ギルドにいることだし脱退手続きをすませようか」
「それでいい。エルン。お前にはギルド冒険者は向いてない。おとなしく故郷に帰ることをおすすめするよ」
パーティーの脱退手続きをすませた私は、冷たい金属音と共にシルバーランクの輝かしい冒険証を没収され、代わりにくすんだ銅色のブロンズランクの冒険証をカウンターに置かれた。
またこの色の冒険証か……。指先で触れると、ざらついた冷たさが今の私の惨めな心を代弁しているようだった。
クロスたちは新たな仲間と共に、少しランクの高い任務を受けギルドを出ていく。振り返る者は誰もいない。彼らの背中がギルドの重厚な木の扉の向こうへ消えていくのを、私はただ呆然と見送ることしか出来なかった。
周囲の冒険者たちからの「またあいつ追放されたのか」「便利屋の末路だな」というヒソヒソ話が耳に痛い。好奇と嘲笑が入り混じった無数の視線が、私の背中に突き刺さる。
そして私は、このだだっ広いギルドの中でまた独りぼっちになった。
私の名前はエルン=アクセルロッド。10年前に世界の危機、魔物の脅威から世界を救った伝説の最強ギルド冒険者パーティーの『閃光』に憧れて、2年前に田舎の村から単身で、この王都ローゼンシャリオにやってきた。
無事にギルド試験にも受かって冒険証は持っているんだけど、さっき起きたようにいつもこうなる。シルバーランクに昇格すればすぐ追放され、ブロンズランクにまた降格する。正直、溜め息しかでない。
「はぁ……」
私が大きな溜め息をついていると、ギルド受付嬢のルナレットさんが声をかけてくれる。
「大きな溜め息ね。エルンちゃん大丈夫?」
「ルナレットさん……えへへ。またブロンズランクになっちゃいました」
私は作り笑いで誤魔化そうとした。しかし、いつもなら優しく励ましてくれるはずのルナレットさんは、今日に限ってひどく真剣な顔のままだった。
「あのね、エルンちゃん。ギルドの決まりごとは覚えている?」
「え?」
「エルンちゃんは今回で、29回もパーティーの『解散』じゃなくて『追放』を受けているの。……次、30回目の追放、または任務失敗になった場合は冒険証の永久剥奪。無能力者としての烙印を押されて、もう二度とギルドに在籍はできなくなるんだよ」
もう29回も追放されているのか……笑っちゃうな。いや笑える状況じゃないけど。
「もう私は依頼を失敗出来ないってことですよね……」
「シルバーランクに昇格するまではね。そして……」
ルナレットさんは俯きながら追い討ちをかけるように、私に衝撃的な事実を告げる。
「おそらくこのギルドにはエルンちゃんとパーティーを組む人はいないと思うよ。もしパーティーを組んで依頼を失敗すれば、エルンちゃんと同じくギルド冒険証が剥奪になるから」
「……ですよね。私って冒険者に向いてないかも知れないですね」
「エルンちゃん……」
悩んでも仕方ない。潔く依頼を受けることにしようと思う。ここで失敗しても仕方ないし、おとなしく故郷に帰るだけだしね。
そんな時、奥のほうから大きな声が聞こえてくる。
「おーいルナレット!酒を持ってこい!もう空になっちまった」
「飲み過ぎですよブレイドさん。この前のお金も払ってないじゃないですか?」
「金は払う。オレはオレの好きなようにやる。OK?」
あの呑んだくれの男は確か……『死神』と呼ばれている人物だよね。名前だけは聞いたことがある。
パーティーを組めば仲間全員が危険な目に合うという曰く付きの人物。噂では伝説の最強ギルド冒険者パーティーの『閃光』に並ぶほどの実力者だと聞いたことあるけど、このギルドでは私と同じくらい嫌われている存在……。
一緒にされるのが癪に障るけど、ああいうのには絶対関わらないほうがいい。
しかし、そんな私の期待を裏切るかのように、バッチリと目が合ってしまう。
「ああ?お前また追放されたのかよ。懲りないな?『便利屋』さんよ?もう諦めて故郷で平凡な暮らしでもしたほうがいいぞ」
そんな煽りを受けて、私だって黙ってはいられない。真っ直ぐその男に向かって歩きだし、目の前に立って言い放ってやる。
「そういうあなただって『死神』と呼ばれていて仲間なんていませんよね?人のこと言えるんですか!?」
「生意気なガキだな……オレに啖呵を切るか」
「私は18です。ガキじゃありません!」
拳に力が入る。でも怯むわけにはいかない。あれだけバカにされて黙っていられるか。私は思いっきり睨みつける。
すると相手も、面倒くさそうに片目を細め、私を睨み返してきた。
その瞬間――ビリッ、と。
その体から、周囲の空気が歪むほどの重い威圧感が放たれた。ギルド内の空気が一瞬で凍りつき、遠巻きに見ていた他の冒険者たちが息を呑んで後ずさりする。
(うっ……!)
喉元に冷たい刃を突きつけられたようなプレッシャーに、思わず足がすくみそうになる。でも、ここで引いたら今までと同じだ。
私はギリッと奥歯を噛み締め、絶対に負けないと強く念じた。
――その瞬間。私にのしかかっていた重く冷たい威圧感が、まるで身体の表面で見えない壁にぶつかってフッと霧散したかのような、不思議な感覚がした。
ピキッ……!
私のすぐ隣にあった木製のジョッキが、見えない圧力に耐えきれずに亀裂を走らせる。しかし、私自身はそのプレッシャーをあっさりと跳ね除け、目を逸らさずに真っ直ぐに射抜いた。
「なんですか!人をバカにするなら、お酒のお金くらいちゃんと払ってからにしてください!」
「……っ?」
嫌われ者の死神が、わずかに目を見開く。
放った威圧感に私が押し潰されず、それどころか真っ向から文句を言い返してきたことに、ほんの一瞬だけ明確な驚きの色が浮かんでいた。
「……ほう」
「はいはい。2人とも落ち着いて。……それなら2人でパーティーを組めばいいんじゃない?」
「……はい?正気ですかルナレットさん?」
「お前、オレにガキのお守りをしろっていうのか?」
とてつもなく突拍子ない提案がルナレットさんから出たんだけど……。
「私は本気ですよ?ブレイドさんは酒代の滞納がありますから、拒否権はないですよね?」
「お前な……」
「エルンちゃんももしかして怖いの?『死神』とパーティーを組むの?」
「怖くないですよ!こんなふざけた酒呑みのおじさんなんて!」
「なら決まり!ここにあなたたちのパーティーを認めます!あ、書類持ってくるわね?」
こうして、崖っぷちの追放29回の私と、ギルドで『死神』と呼ばれている酒呑みのおじさんの、嫌われ者同士のパーティーが結成されたのだった。
【作者より】
ここまでお読みいただきありがとうございます!
本作は序盤こそ「追放ざまぁ」の形をとっていますが、ただの復讐劇ではありません。
傷を抱えた不器用な二人が最高の相棒となり、すべての伏線が最後にカチッとハマる王道ファンタジーへと加速していきます。
絶対に後悔させないアツい展開が待っていますので、ぜひこのままエルンたちの冒険を追いかけてもらえると嬉しいです!
(少しでも続きが気になった方は、ブックマークと応援の★をお願いいたします(^-^)v)




