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相談No.2 魔物を倒せないパラディン


 ラルフは、とある噂を聞いて『南西通り水晶店』を訪れました。

 花に水を与えていた少女は、ラルフに気づくとにっこり微笑み、一本千切って差し出します。


「くれるの?」


 ラルフは、その愛らしい少女から花を受け取ろうと手を伸ばしますが、少女はすっと笑顔を消すと、自身の魔法で花に火をつけました。青い(スミレ)はあっという間に消し炭になり、辺りには焦げたニオイが漂います。少女は目を見開き、戸惑いながら店内に入るラルフを見つめ続けました。



「ほう。パーティをクビになってしまったと」


 魔術師のイリオは、来客の前に紅茶を置いて、ソファに腰を落としました。

 今日の依頼者は、傭兵ギルド「サンクチュアリ」で働く、パラディンのラルフ。といってもそれは昨日までの話で、パーティをクビになったという話を突き詰めていくと、どうやらギルドそのものからも追い出されたよう。


「それにしては、あなたは落ち着いていますね」


 それもそのはず、ラルフがギルドをクビになるのはこれで三回目。故郷の村では神童と崇められ、魔法学校を首席で卒業し、ギルドのために必死で働く毎日ですが、最後はいつもこうなってしまいます。

 本人にも、理由はまったく分かりません。


 ラルフは、自分の魔力が足りないせいだと嘆きました。イリオは別の原因があるのではと疑いますが、まあ、自分は彼の父親ではありませんから、踏み込む義理もありません。ひとまず、用意された金貨の分だけ魔力を分け与えることにしました。


「《四元よげん命脈めいみゃく》」


 力がみなぎったラルフは、「これでサンクチュアリに戻れる!」と大満足。

 そして、自分を不要だとなじった仲間を見返してやると、こぶしを強く握りました。



 それから三日後。

 店に現れたラルフは、晴れやかな顔でイリオにクッキーを差し出しました。


「この前のお礼です」

「いえ、報酬は受け取っていますから」

「いいからいいから。あの子にもぜひ」


 ラルフは無事に、サンクチュアリへの復帰を認められたのでした。イリオの魔力は偉大です。たとえ一時的なものでも、そんじょそこらのギルドを驚かせるのには十分な力だったことでしょう。クッキーの袋を置いたラルフは、上機嫌で帰っていきました。


 スウィルトは、クッキーを物珍しそうに見つめ、一口食べると「ゲェッ」と吐き出しました。唾液でしっとりとした欠片を、イリオはため息をつきながら拾い上げました。

 それにしても、実際に魔力を移したとき、イリオも確かに感じましたが、彼の魔力は決して弱くはないはずです。彼が本当の原因に気づかない限り、これは問題の先延ばしにしかなりえません。イリオの予想は当たりました。「またしても追い出された」と、憂鬱な表情のラルフがやってきたのは、それから一週間後のことでした。






 傭兵ギルド「サンクチュアリ」。

 魔物との戦いを専門にしているギルドで、クエストの依頼はもっぱら、戦力のない小さな村や、町から町を移動する商人たち。

 ラルフが使うのは、「魔物の生命力を半分奪う」という特殊な魔法でした。繰り返し魔法をかけ続ければ、半分の半分、さらに半分、そうやってじわじわと弱っていく魔物は、最後は力尽きたように見えたことでしょう。しかし、何度半分を繰り返しても、ゼロになることはありません。わずかに生命力の残った魔物は、ラルフが去った後に力を取り戻し、安心しきった村を襲い、商人のキャラバンを壊滅させました。

 それが、魔法の正しい効果。

 しかしラルフは知りませんでした。


 皆さんもご存じの通り、今でこそ、魔法式のほとんどは解明され、「原理や効果があいまいな魔法」というのは存在しなくなりました。しかし当時は違いました。「昔からそういうものだから」と感覚的に魔法を扱うのが、この時代は普通だったのです。


「ラルフさんの魔力は、一般的には強い部類だと思いますが」

「そうですよね。俺もそう思うんですよ。あいつら、魔物が生き返ったなんて適当な言いがかりで俺を追い出して……!」


 さらなる魔力を。

 ラルフが求めるのはそれだけです。

 しかし彼の要求する魔力と、金貨の枚数は釣り合いませんでした。イリオは今日も、「依頼者がこぞって訪れる不思議な家の場所」を教えます。

 通りの二つの目の角を右に曲がり、果物屋の脇の階段を上った先。依頼者はその日のうちに、イリオが言った通りの報酬を持って帰ってくるのです。




 それからラルフは、定期的に水晶屋に足を運び、高利貸し(レーベリヤ)への返済も遅れることなく、イリオたちにとっては「善良な客」であり続けました。レーベリヤも、こんなに手のかからない客は滅多にいないと大喜びです。

 一か月ほどたつと、ラルフは店に来なくなりました。

 自身の問題が魔力ではないことに、気づいたのかもしれません。風の噂では、故郷の村に戻り、魔法を一から学びなおすと言っていたとか。故郷に帰ったのはお金が尽きたからかもしれませんし、レーベリヤに手を出したことが明るみに出て、この街に居づらくなったからかもしれません。


 イリオは、来なくなった客のことは「卒業した」と言い、特に心配することもありませんでした。ただ、はっと思い出したようにクッキーの袋を開けたものの、すっかりカビが生えているのを見てがっかりし、そのままごみ箱へ放り込んだのでした。





 ***




 今回はたいした騒動もなく楽だったと、レーベリヤは煙草をふかしました。この前のように、大手ギルドに乗り込むような真似は、幾度となく死線をくぐり抜けてきた彼であっても、好んでやりたくはないものです。


 その横でイリオは、最近本屋で見つけてきた魔導書を開きました。

 感謝と同じくらい、恨みも(ねた)みも買う商売。身を守る術を身につけるため、日々魔法の研究にはげむのも、大事な仕事のひとつです。


「あのガキ、また食ってんのかよ」

「うん。一番美味しいんだって」


 レーベリヤは、夕日が差し込む店先で、花壇に両手を突っ込むスウィルトを眺めながら、「気色(わり)ぃ」と呟きました。


 『南西通り水晶店』。

 店先の花壇は、あまり綺麗ではないかもしれません。店主もその仕事仲間も、花には興味がないからです。店番の少女がたまに土をほじくり返しては、ミミズを食べるために置いているのだとしても、あまり驚かないであげてください。



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