表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1mmのズレと、君の住所  作者: ネギ玉(仮)
第1章:消しゴムの角と、放課後の闖入者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/4

第4節:放課後の検証

「深町、梓……」

 僕は掲示板に記された名前を脳内のログに刻み込み、再び紬を促して歩き出した。

 向かったのは、彼女が「変な噂がある」と漏らしていた、旧校舎の化学室だ。


放課前の化学室は、理科教師の許可を得た者以外は立ち入り禁止だが、鍵は開いていた。

 無人の教室内。

 僕は迷わず、壁際に並ぶ備品棚へと歩み寄った。

 そこには、授業で使用される精密天秤がいくつか並んでいる。


「これだよ、律くん。昼休みに化学部の友達が言ってたの」


 紬が指差した天秤。その、分銅を乗せるためのステンレス皿を手に取る。


「……やはりだ」


 皿の縁、本来なら滑らかな円を描いているはずのステンレスの端が、わずか数ミリだけ、何らかの工具によって切り取られていた。

 僕は白衣のポケットからメモ帳を取り出し、これまでの被害品を垂直・水平を維持しながら書き出していく。


僕の消しゴム:純白のエラストマー。

図書室の『幾何学の基礎』:硬質な布地の表紙。

精密天秤の皿:冷徹なステンレス。


「材質はバラバラだ。だが、削られたのはすべて『右上』の角に集中している」


「右上? ……あ、本当だ。全部そうなってる!」


紬が驚いたように声を上げた。

 消しゴムも、本も、天秤も。犯人はただ「角」を壊したいのではない。

 ある特定の方向、特定の角度に対して、執拗なまでのこだわりを持っている。


「そしてもう一つ。瀬戸口、窓の外を見てくれ」


 中庭に立つ百葉箱。

 その白い木製の扉の右上の角に、小さな紙片が挟まっているのが見えた。


僕は中庭へ降り、その紙を回収した。

 ノートの端を千切ったような、しかし断面はカッターで整えられたその紙には、青いインクで一言だけ記されていた。


『 +1 』


「プラス、ワン……。ねえ律くん、これってどういう意味?」


「足し算ではない。奪った角を、どこか一箇所に集めているという宣言だ。犯人は、この学校のあちこちに散らばる『正しい直角』を素材として回収し、自分だけの別の『形』を作ろうとしている」


僕は確信を持って、化学室の備品棚の陰を指差した。


「素材を回収しているのなら、その『作業場』もこの近くにあるはずだ」


棚の裏側に、小さな木製の箱が隠されていた。僕は手袋をはめ、その箱を慎重に引き出す。

 箱の中には、接着剤で繋ぎ合わされた、拳ほどの大きさの塊があった。


白い消しゴムの角。

 青い本の表紙の破片。

  金色の真鍮のネジ。


 それらが不揃いに、しかし異常なまでの密度で固められ、一つの「歪な球体」を成そうとしていた。


「これが『+1』の正体だ。奪われた秩序たちの墓場だよ」


その時、化学室の引き戸が、乾いた音を立てて開いた。

 逆光の中に、小柄な人影が立っていた。

 その手に、銀色のカッターナイフを握り締めたまま。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ