1. Ihr Kampf (4/4)
0.
少女の髪は、とても、とても美しい金色をしていました。
その金色は、まるで風に揺れる葦原の葦のよう。
もしもあの美しい少女が葦原の中に立っていたなら、
どれが葦で、どれが彼女なのか、きっと誰にも分からなくなってしまうでしょう。
そんな彼女の美しさに心を奪われたのでしょうか。
五人か六人ほどの人たちが、重たい写真機を抱えて、彼女を写そうとしていました。
けれど少女は、それが少し嫌だったのか、
そっと顔を反対側へ向けてしまいます。
――そのときでした。
「パン」
写真機の弾丸に、像が焼きつく音が響きます。
あまりにも大きなその音に、少女はびっくりして、その場に倒れこんでしまいました。
けれど、運の悪いことに。
そのすぐ先には、葦原の命を支える深い水路《穴》があったのです。
少女は、その水路の中へ――
やわらかな土の上を、ころり、ころりと転がっていきます。
そして、今でもまだ暗い土の底で、
ころり、ころりと、転がり続けているのです。
――――――――
Fünfte.
歩みつつ垣間見た恐怖の時の数々。
タイプライターの音が聞こえてくる。ピアノの音も聞こえてくる。
軍靴の音が響き、恐怖の気配もまた広がっていく。
エーデルワイスの香りと音が、静かに流れ込んでくる。
火薬の匂いと音も、同じように押し寄せてくる。
忘れ去りたかった桜の香りと気配までもが、いまさら蘇ってきた。
子どもたちの笑い声が響き、誰かの悲鳴も混じる。
両手から汗が噴き出し、まるで火山のように止まらない。
その引き金となったのは、あの男の言葉――部署官のあの一言だった。
今日も業務が始まる。
どのような状態であっても関係ない。今日の割当をこなしてこそ、それに見合う対価が得られる。
タイプライターのキーが、今日はやけに湿っているように感じられた。
回される書類も、受け取る書類も、すべて汗でじっとりと濡れている。
壁に掛けられた時計の針が動く音が、やけに鮮明に耳へと突き刺さる。
秒針が進み、分針が進み、時針が進んでいく。
「チク、タク、チク、タク」
その音が鳴るたびに瞳が揺れ、呼吸もしだいに苦しくなっていく。
ときおり窓の外へ視線を向け、あるいは何も見えない扉の向こうを見ようとした。
少女は、「不安」という不快な感情に囚われていた。
このままでは業務にならない――そう判断した私は、タイピングしていた手を止め、席を立った。
整った姿勢で部署官のもとへ歩み寄り、敬礼して告げる。
「部署官、補佐セリーネ、離席の許可を願います!」
重要な書類でも見ていたのか、部署官は疲れのにじむ表情で私を一瞥し、短く言った。
「行け」
その言葉を受けた瞬間、私は素早く体を反転させ、規律正しい歩調で部屋を出た。
細い脚をせわしなく動かしながら、周囲を見ることなく洗面所へと向かっていく。
目に映る色は、灰色、灰色、灰色、そしてまた灰色。
この建物は、灰色のコンクリートに異様な執着を持つ建築家が建てたのではないかと思えてならない。
洗面所の前にたどり着き、ひと呼吸おいてから扉を開ける。
蛇口をひねって水を流し、それを両手ですくって顔へと叩きつけた。
「しっかりしろ……まだ昼休みにもなっていない……」
独り言で自分をなだめながら、鏡を見つめる。
照明を反射して輝く銀色の髪、血を思わせる赤い瞳、白い肌。
ああ――なんと美しいのだろうか。
そこに映っていたのは、無理にでも笑みを作ろうとしている少女の姿だけだった。
五分か、十分か。
いずれにしても、もう職場へ戻らなければならない。
顔に水をかけ続けていた私は、残された意識を振り絞り、重くなった両脚を無理やり動かした。
扉を開け、周囲を見ないように目を半ば閉じたまま、足早に進んでいく。
職場の木の扉が見えたところで、一度足を止める。
大きく二秒、息を吸い――二秒かけて吐き出す。
もう一度、同じように繰り返す。
そうして心を落ち着けてから部屋へ入り、仕事へと戻った。
――だが、「落ち着いた」と言うには無理があったかもしれない。結局、何一つ変わってはいなかったのだから。
その後、席に戻った彼女は、やがて奇妙な違和感を覚えた。
目を閉じて、次に開いたときには、時間が大きく飛んでいる。
一時間、二時間、三時間――あっという間に過ぎ去っていった。
待ち望んでいたはずの昼休みさえ、気づけばすでに終わっていた。
まるで時間というフィルムが、この世界というカートリッジの中で一気に巻き取られていくかのようだった。
やがて、退勤を告げる音が耳に響く。
今日の仕事を終えていないにもかかわらず、その音は容赦なく、あまりにも早く訪れた。
ああ――君死にたまふことなかれ。
宿舎へ戻っても、本も新聞も手に取る気にはなれなかった。
興味が湧かない。体も動こうとしない。
動きたくなかった。
一歩も、一寸たりとも。
そのまま彼女は目を閉じた。
なぜか、それだけで少し楽になったような気がした。
十分か、二十分か、三十分か。
ただ目を閉じたまま、微動もしないその姿は、
まるでヒマラヤの奥地で独り枯れ果てた木のようだった。
そうして、ただ一日が過ぎていく。
クソみたいな一日が、
また始まろうとしていた。
「幸運が微笑むことは稀であり、たとえ訪れても花のようにすぐ散ってしまう。
だがそれは、人間が傲慢になり、自らを不滅の存在だと錯覚しないよう、神が自制を促すために定めた運命なのだ。」
――七百年前の、ある言葉より。




