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ノブヒデ 令和・笑いの乱  作者: ハッシャン
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第39話:なにわの夢へ続く道

 大坂夏の陣の夕刻、本丸の至る所で火の手が上がりはじめていた。 


 秀頼と真田信繁、毛利勝永などの一行は、かつて秀吉が造らせたといわれている横穴、通称、太閤殿下の抜け穴を進んでいく。

 松明を持つ勝永を先頭に信繁、秀頼が続き、そして勝永の手下の侍がしんがりを務め、後方からの敵を警戒している。地上では徳川の砲撃が続いているが、抜け穴の中は予想上に静かである。

 抜け穴とは言え、背を屈めて通らなければならない狭く低い穴ではない。しっかとした柱が、天井の分厚い板をささえている地中の回廊とでも言うべき規模のものである。まさに天下一の抜け穴と言うにふさわしい様相を呈している。

 地上で砲弾が炸裂する音が、遠くでかすかに聞こえてくる抜け穴の世界。一行の先頭を務める勝永は、秀頼を安心させようと強気な発言を始める。


「太閤殿下は、あらゆる事態を想定してこの抜け穴をお作りになられたと聞いております。しかしご覧のように、もはやこの道には抜け穴という名前は相応しくありませぬ。この広さといい、柱と分厚き板で支えられた天井といい、堂々たるもの。天下に続く夢の道でございます。よもや、崩れることは万が一にもございません」


 勝永の言葉に、笑顔で答える秀頼。


「やはり私は、守られているのだな。このような事態になろうとも、太閤殿下はあの世でしっかりと私を見守っておられる。なにわの夢はまだまだ終わらんぞ!」


 秀頼の後ろを歩いている信繁も、秀頼の意見に賛同する。


「上様。その意気でございます。あの秀忠ごときに、天下を渡してはなりません!島津や毛利とともに、必ずや天下を取り戻しましょう。今、しばらくの辛抱でございます」

「おう! よう言うた信繁! のう勝永!」


 と秀頼が前を歩く勝永に声をかけ、勝永が秀頼の方に振り向いた丁度その時であった。それまで遠くで聞こえていた大砲の着弾音が、突然、抜け穴の中に響き渡り、天井を支えていた分厚い板が割れ、それほど大量ではない土砂が抜け穴に降り注いだ。

 運悪く勝永の頭に、その割れた板が当たり、勝永は抜け穴の床面に血まみれになり、意識なく倒れている。


「上様は、後ろにひいてくだされ!危のうございます!」


 信繁は秀頼を後ろに下がらせ、勝永の元に近づきひざまづく。


「勝永殿。しっかりなされい!勝永殿!!」


 信繁は、激しく倒れている勝永を揺さぶるが反応がない。割れた板や多少の土砂が覆う床面の先には、先ほどまで勝永が持っていた、いまだ燃えている松明が虚しく転がっている。信繁は、その松明を拾って立ち上がり、秀頼に進言する。


「勝永の死を無駄にはできません。上様、この先を抜け案が崩れぬうちに、駆け抜けましょう」

「わかった」


 秀頼は、勝永の遺体に一瞬、手を合わせてから、信繁の後を追い、一気に走りだす。


 一行が数刻、抜け穴を駆け抜けると、遠くに夕陽が差し込む出口らしきものが見えてくる。


「上様。あれに、海辺へ通じる虎口が見えまする!島津の船に乗れますぞ!」

「おう! 太閤殿下、何卒、我らにご慈悲を!」


 しかし、無情にも大きな着弾音と共に、行手の柱や天井が崩れ、土砂が抜け穴に大量にふりそそぎ進路を拒ぐ。


「上様、少し戻りましょう」


 信繁は、しんがりの侍に松明を渡し、来た穴を戻る指示を出す。一行は少し、後退を始めるが、今度は広い範囲で頭上の天井で木が軋む鈍い音がし始める。

 続いて大きな着弾音とともに、天井の板が割れ、土砂が堰を切ったように一行に襲いかかる。

 信繁は、上様を守るべく、咄嗟に秀頼の上に覆い被さる。


「上様ーーー!!」

「信繁ーーーー!!」


 信繁と秀頼の絶叫は、土砂が崩れ落ちる音で徐々にかき消されていくと同時に、二人の意識も遠のいていく。

 秀頼の心には、完全に意識を失う前にある言葉が虚しく響き渡った。太閤殿下の最後の言葉、『なにわの夢も夢のまた夢‥』である。

 秀頼は、自分も父のように、天下のいく末を気にかけながら死んでいくのかと、薄れる意識の中でそう思った。

 やがて、秀頼も信繁も、完全に意識を失い、暗闇の奈落の底へと落ちていく。


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