No.10 悪い癖
――なんて事を正直に話せる訳もなく、昔の悪い癖が出てしまう。
気づけば腕を組んでいて、椅子に座っているソルに目を向ける。
「私の必勝法で気づけそうに思えるけど『好感度操作』は今まで達した事ある好感度までしかあげられないから必然的に恋愛感情を持った事ない人にはいくら魔術を使ったとしてもケイルで操れないわ」
ため息を吐きながら足を組み、膝の上に頬杖を付く。
「だからレイの事はナンパばっかりしてるけど好きな子ができた事ない可哀想な奴くらいにしか思ってなかったけど……気づいたのは本当にたまたま」
チラリとソルを見ると何食わぬ顔でこちらを見ているので、ギシッとベットのしなる音と共に立ち上がりソルに近づいていく。
「私の話なんかよりアンタよ。まさか惚気話入れてくるとは思わなかったわ」
ソルの座っている椅子の背もたれの上に腕と胸を置き、背後から話しかける形になる。
少しだけ振り返ってこちらを見る目は先程となにも変わらず仮面の様。
もうちょっとなにか反応してくれてもいいんじゃかいかと思ったが、ベタ惚れしてる相手がいるんだからしょうがないか。
そうは言っても詐欺師をしてた身としてはこんなに反応されないのは少し癪だ。
「レイがちょっかいかけてた子がこれ以上思い出せなかったからしょうがなくキルを出しただけ。それに健診の日にち早めた上に普段はしないカウンセリングまでしたんだから文句言わないでよ」
再び前を向いたソルが姿勢を崩し、肘掛けに頬杖を付いてため息を吐く。
本当に一瞬たりともキキの身体に興味を示さない。
「せっかく頭いいのになんか残念ね」
「そんな事言うのキキだけだよ」
再びこちらを向いたソルは少しだけ、本当に少しだけ表情がほころんでいる気がした。
「……変な人」
「それはよく言われる。それでキキはこれからどうするの?」
予想外の事を聞かれて思わず小首を傾げる。
「別にどうもしないわよ? もしかしたら解決方法があるんじゃないかなと思ってアンタに頼んだだけだから。気にしなくてもいい事をあいつがネチネチと悩んでるから私がわざわざ根回ししないといけないんじゃない。まったく……変な気使わなくていいのに……」
最後の方は小声でほぼ独り言だったが、目の前にいるソルには聞こえているだろう。
レイが悩んでいるのも、それを見ているのが辛い事も本当、もちろん変な気を使って欲しくないというのも本当。
「そう、まあ僕も別にどうもしないけど。でも君も大変だね」
「なにがよ」
「だってレイの事――」
「関係ないわ」
その言葉の先を聞きたくなくて強い言葉で遮る。
ソルも無理に続ける事なく、ただキキの顔を見ている。
「この事を調べてるのはただ私がしたいからしてるだけ。レイは関係ないわ。好きでもない子と遊んで取っ替え引っ替えしてるから哀れだと思っただけよ」
椅子から離れてソルの前に仁王立ちし、睨むようにして見下ろす。
「それにレイは自分の事を本気で好きになる子を敬遠する時があるの。自分がわからないってバレるリスクがあるからだと私は思ってるんだけど……そんなの可哀想じゃない」
捨て台詞のように吐き捨てた言葉をソルが拾う前に踵を返して診療所の出口に向かって足を進める。
「まあそんな事私には関係ないから何年もつるんでるけど。それじゃあありがとう、レイの事診てくれて。あ、無理に探さなくていいけどもし解決策が見つかったら教えてちょうだい」
キキは振り返る事なく手を振って診療所を出て行く。
静まり返った診療所ではソルが仏頂面で息を吐く。
「レイの事好きなのバレバレなんだけど」
キキは診療所を出ると早歩きで階段を登って行き、自室のある階の廊下に素早く駆け込む。
そして突然頭を抱えて疼くまると小さい声で「あああ……」とぼやく様な声を捻り出す。
私って本当に最低な人間!
なにあの態度?!
今は詐欺してる訳でも縄張り争いしてる訳でもないのよ!
主導権は私にあるって態度で相手より優位に立とうとするのは悪い癖よ。
自分の事話すのが苦手だからって息する様に嘘ついてどうするの。
レイの事好きなのバレそうだったからって――ってもう絶対バレてるわ、相手はたった数十分でレイの事見抜いた人よ?!
尻尾をぶんぶん振り回して目を見開いてさっきまでの自分を思い出しては悔やむを繰り返す。
しかもレイのあの顔、またレイの迷惑になっちゃったかもしれないじゃない!
それに嘘もついたわ。
私が必勝法の条件に気づいたのはレイのおかげ!
レイに出会ってなかったらケイルを過信して危ない人たちに捕まって今頃何回も死んでたわよ!
……今回もレイにとってはいらないお節介よね?
でもずっと悩み続けてるの見てられないし……でもこれも迷惑よねぇえ!
どうしたらいいの?!
大声で叫びたいが、それだとソルにもレイにもバレてしまうので声を押し殺して暴れた。
――私なんか大っ嫌いよ! うわぁん……どうしよぅ……
勢いよく天井を見上げるとキキの心情とは裏腹にシミひとつない綺麗な天井だった。




