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たださみしかっただけ  作者: 朝月
六章 悪魔事変
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No.9  愛されない

 このまま帰ってもよかった。

 本当は帰りたかった。

 しかし通報されて捕まってしまっては元も子もなくて、うめき声をあげるレイが立ち直るのを距離を取って待っていた。

 なにかあったらすぐに逃げられるように扉の近くの壁にもたれかかって腕を組む。

 ふと目の前を見るとトイレがあり、行きたい気持ちを我慢する。

 その間に逃げられちゃ仕方がない。


「……ひどい」


 そうこうしている内に弱々しいレイの声がする。

 ベッドの方を見ると横目で恨めしそうにこちらを見ていた。

 その目は少し涙目な気がする。


「いい気味よ。大体アンタの方が酷いんじゃない?」


 プイッとそっぽを向いて横目でレイを見るとゆっくりと起き上がろうとしている。


「オレ詐欺られそうになってたのにそんなの逆ギレ……君この詐欺向いてないんじゃない……通報なんてしないからもうこれで最後にした方がいいよ……魔界の男にとっても」


 起き上がって話すのが恨みつらみじゃなくて他人の心配とは、流石金持ちは違う。

 立ち尽くして小さくうめき声を上げている姿を見て、そういえばなんでケイルが効かなかったのかがわからないままだということに気づく。


「……アンタ荷物は? 何か特別な物身につけてたりしないわよね」


「追い剥ぎまでしてたの? 財布しか持ってないよ、服まで取らないで――」


「アンタの服なんていらないわよ。もういいわ、通報したら許さないからね。その変わりこの仕事はもう辞めてあげる。よかったわねお手柄で」


――必勝法に不備があるとわかったから続ける訳にはいかなくなっただけだけど、いいわ、アンタの手柄って事にしてあげる。


 部屋を後にしようと扉に手をかけると後ろから「待って」と呼び止められて急いで尻尾を抱える。

 まさかまだ私の事襲うつもりじゃ――


「君、名前なんていうの?」


 もう会うつもりのない男からの拍子抜けな質問に咄嗟に「はぁ?」と声が出る。






「あ、キキちゃんいたいた」


「アンタバカなの?」


「ねぇレイくーん、その女誰なの?」


 昨日の今日で鉢合わせるか普通。

 そしてここは路地裏で、レイは女連れだった。

 偶然な訳がない、というか「いたいた」って事はわざわざ探してるという事だろう。

――結局名前教えた私も同じバカか……


「ルーちゃんと同じで昨日知り合った子――」


「それで私に何の用? もしかしてまた昨日みたいな事したいの?」


 訪ねてきておいて放置されるのも癪なので、隣の女の人に見せつける様にわざと擦り寄ってみせる。

 困れ困れ、と心の中で念じて得意げな顔でレイを見れば予想と違い嬉しそうな顔をしている。


「流石キキちゃん! ちゃんと払うもの払うから今からルーちゃんと三人でホテ――いだぁッ?!」


 ヒールの踵で思いっきり踏んでやった。

 人の事なんだと思ってるんだこの人は。

 静止する声と女の人の罵声が聞こえるが知った事ではない。

 そしてケイルは俯いている時に気づかれない様に浮かび上がらせたのにまた効いていなかった。

 これは徹底的に原因解明しなくては今後の生活に関わるかもしれない。






「あ、キキちゃん」


 これで会うのは十回目、よくも懲りずに会いにくるもんだ。

 まあどちらにしろケイルが効かない原因がわかるまでは会いたくなくても会って解明していくしかない。

 自分から会いに行ってるなんて悟られたくないのでもちろん偶然を装うけど。

 それにしてもこの息子様はいつも違う女の人を連れて歩いている。

 なになにちゃん、なになにちゃんと五月蝿いったら無い。


「ねぇキキちゃんどうしたの?」


 顔を覗き込まれてギョッとする。

――ほら横見てみなさい、睨まれるのはいつだって私なのよ。


「レイ、アンタは私の事呼び捨てにしなさい」


「えぇ……なんで――」


「また蹴るわよ」


――わかりなさいよ! アンタがそう呼ぶと私もアンタのそういう人だと思われるの!


「わかったわかった、本当にやめて……」


 顔だけはいいのに残念な人、ずっとそんな印象しかなかったが素直にいう事を聞いてくれるのは意外だった。

 その日もレイにケイルが効く事はなかった。






「最近よく会うね、しかもオレが一人の時に。もしかしてまた詐欺ろうとしてる?!」


「たまたまよ、それにもうあの詐欺はやめるって言ったじゃない」


「あ、本当にやめたんだ」


 呆気に取られた顔をするレイを翼で小突く、そして顔を背けてケイルを浮かび上がらせてみせるが、やはり効かなかった。


「一体何が原因なの……いつまでこんな女たらしを追いかけていないと……」


 腕を組んでブツブツと独り言をボヤいていると、レイが隣から消えている事に気づく。


「あれ、どこに――ッうぁん?!」


 あのビリビリするような感覚が身体を襲う。

 驚いて転けそうになるのを後ろからお腹に片手を回されて止められる。


「ごめん、尻尾でそんなになる子に会ったこと無かったからあの時のアレは演技だったのかなーって思って……つい!」


 テヘッと舌を出してふざけたような顔をするレイは本当に最低だと思う。

 睨みつけてそれを伝えようとするが、伝わらない。


「でも尻尾そんなに弱いなら隠しておいた方がいいと思うよ。ほら路地裏って治安悪いでしょ?」


「なら治安良くしなさいよ息子様」


「……うん」


 一拍置いた淡白な返事、表情こそ変わらないがいつもと雰囲気が違う。

 もしかして流石のレイも魔神の息子というのは重荷なんだろうか。

 女たらしは重荷から逃げる為の逃げ道だったりするのだろうか。


「レイッごめ――待ってなにしてるの」


 背後から片手で支えられていた筈だったが、いつの間にか両手がお腹というか腰をつかんでいる。

 つまり側から見たらどう見えているかというと、レイの真正面にくの字で曲がっている。


「えーなにって言われても。超イイ眺め! キキが全然起き上がらないからそういう事かと思って」


「今すぐ離さないと許さないから。アンタいい加減にしなさいよ。私はアンタのおもちゃじゃないのよ」


 この人は本当にやりかねない。

 そうこう言っている内にもどうやって逃れるか思考を巡らせていると、腰にあった感触が一瞬にして離れる。


「……レイ?」


「キキの事おもちゃだなんて思ってる訳ないじゃん! そんな風に思われるならもうこういう事しない! ……ごめんね」


 笑顔で謝るレイだが、いつもなら謝りながらも肩か腰を抱いていただろう。

 今の軽口がそんなに効いたのだろうか、血筋関係はまだわかるがレイの地雷がよくわらなくなった。

 これもケイルが効かない事に関係あるのだろうか。






 町外れのちょっとした林、キキの目の前には頭を下げた男が一人。


「ごめんなさいタイプじゃないの」


 そう言ってその場を後にするキキは追ってくる男を横目にケイルを浮かばせる。

 すると人が変わった様に進行方向を街に変えて早歩きで進み出す。

 すぐに告白するくらいまで上げた好感度、街に戻ったくらいの時間に元に戻そう。

 ため息をつきながらたまたまあった切り株に腰掛ける。

――やっぱりケイルが効かない原因がわからないわ。今のところ効かなかったのは、レイと赤ちゃん、子供はピンキリだったしどういう事なの?

 レイと出会ってもう少しで一年が経とうとしていた。

 もうレイは赤ちゃんだったって結論でいいんじゃないかとさえ思い始めてきた。

 というのも約一ヶ月前にレイの地雷を踏んでから身体に触れる機会がめっきり減って必然的にケイルを試せる回数が減った。

 思い返せば会う度に痴漢行為を行っていたレイがピタリとそれを止め、不思議に思ったキキがわざと仕掛けてみても全然ダメだった。

 あの時言った事がそんなに気に障ったのだろうか。

 本気で嫌がれば止めてくれることももうわかっていたのに。


「――いやいや私はずっと本気で嫌がってんのよ……はぁー」


 自分の様子がおかしい事は自覚している。

 失ってから気づくとはよく言った物だ。

 レイが変えたのはキキへの態度だけで他の子に対する痴漢行為は続いている。

 そしてそれを見るとイライラする。

 今まで隙あれば手を出そうとしてきたのはなんだったんだ。

 『好感度操作』なんて魔術持っていながら嫌われるなんて事ないと思いたいがケイルも効かないしモヤモヤする。


「触って……なんて言ったらそのまま最後までされそうだし、でもそうなったらそうなったで――ああ! バカバカバカ! 何考えてんのよ! どうしよー手段と目的が逆になってるわよー。もう気づいてんのよー私のバーカ。あんな最低な女たらし好きになったら人生終わるわよーそっちに気づきなさいよー」


 切り株の上に横になってひっくり返っていると見慣れた姿が歩いてくるのが見えた。

 瞬時に起き上がって大きめな木の影に隠れる。


「はぁ……もう諦めよ」


 珍しく元気のない声、息子様と呼んでしまった時の反応に少し似てる。

 それにしても諦めるってなにをだろうか?

 珍しく失恋に傷心でもしたのか。

 そういえばレイが恋愛関係で傷心してるのなんてみた事ない。

 レイが立ち去ったのを確認するとその場所に向かう。


――そういえばなんで飛ばないの? こんな辺鄙な場所歩いてたら往復にどれだけ時間かかると思って……もしかして人目を裂けてた?


 レイがいた場所に向かっていると何かが山積みにされているのが見えてきた。


「私には詐欺をやめさせておいて自分は不法投棄なんていい度胸じゃない。わざわざこんな所に捨てるなんてどうせ人に見られたくないような特殊なエロ本とかに決まって……これって」


 心理学者監修、好き、嫌いとは

 脳科学から見る他人を好きになる原理

 恋人の好きな所を見つけよう!


 恋愛指南者、というより心理学に近い様な物が多いが、どれも感情や恋愛について書かれていた。

 いつものレイからは想像もできない様な難しそうな本も混じっている。

 しかしこれはどういう――


「もしかしてケイルが効かないのって」


 赤ちゃんは恋愛感情を知らない。

 子供も恋愛感情を知らない子がいてもおかしくない。

 魔界の住人は恋多き人が多い、だってそうしないと人口の少ない悪魔型は滅んでしまうから。

 だったらレイは――全て辻褄が合う。


――諦めるってそういう事? だったらレイの今の生活って自分で自分の首を絞めてる様なものじゃないの? だからいつも恋人を取っ替え引っ替えしてるの?


 誰にも相談せずずっと独りで――


 誰からも愛されない私が愛したのは誰も愛せない彼だった。

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