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たださみしかっただけ  作者: 朝月
六章 悪魔事変
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No.7  密談

 閉院間際の誰もいない時間、周りの目を気にしながらコソコソと診療所に入って行くと、ソルがハクと共に後片付けをしている所だった。

 ソルはこちらを一瞬だけ見てすぐに作業に戻る。

 他に誰もいない事をキョロキョロと確認して、診療所の扉の鍵を内側からかける。

 これで誰も入ってこない筈。


「どうしたの」


 他人に興味のなさそうなソルも流石に無視し続ける訳にはいかなかったようで、手を止めてこちらを向いているので、こちらから近づく。


「……アンタ腕のいい医者なんでしょ? ちょっと頼みたい事があるんだけど」


「……なに」


 訝しげな顔をするソルはキキが何か企んでいるのではないかと勘繰っているのだろうか。

 ソルの事は人から聞いた話でしか知らないが、センの契約者だしレイの態度が魔界の時とは違うから大丈夫、と自分に言い聞かせて話を続ける。


「レイの診断をお願いしたいの。診断よりカウンセリングって言った方がいいわね」


「なんで、嫌だよ。それにあの元気の塊みたいなレイにカウンセリングなんて――」


「アンタにしか頼めないの」


 いつもの癖でグイグイ詰め寄る。

 今はそういう時じゃないし多分ソルにこういう事は逆効果だろう。

 マズい、と思ってすぐに元の位置に戻るが、やっぱりソルの機嫌が悪くなってしまった。

 しかしそんな事を言ってもしょうがない、少し離れて口を開く。


「……ああ見えてレイは他人と本心で話さないの。友達も沢山いるのに上辺だけ、私はレイの近くにいるつもりだけどあいつは多分そう思ってない。センさん達もレイの本心はわからないって……でもここでは――久しぶりに会ったレイは本当に楽しそうだったから」


 ソルの方をチラリと見れば、思い当たる節があるのか少し考えるような素振りをしている。

 いつの間にかキキの足ともに来ていたハクに気づき、かがみ込んでその白い頭を撫でながら眉を下げて微笑む。


「レイは『変身能力』なんて魔術を使いこなせるだけあって、自分を隠すのが上手いのよ。でもアンタ相手ならきっと……もし精神的な事も診れるならお願いよ。レイは――」






「キキの言ってた通り、愛好と嫌悪――好きと嫌いの区別が付いていない、それか二つとも認識できてないね」


「……嫌いもなの?」


 カルテを書き終わったソルは本棚の方に歩いていき、なにやら調べてくれている。

 一緒に調べたいのは山々だが、キキ自身気疲れしてしまって近くにあったベッドに腰を下ろす。


「……うん。誰に対しても同じようにしか感じない上に、何が好きで何が嫌いなのかがわからないから理由を聞かれると皆に当てはまるような事ばかり言うんだよ。下手なこと言って間違えたらいけないから」


 数冊の本を取り出し再び椅子に座るので、調べるのに時間がかかるかと思ったがペラペラと捲っただけで読むのをやめてしまった。

――もしかして内容ほとんど覚えてるなんて事ないわよね。


「でもそれだとどうしても被っちゃうから、言い方を変えて色々言ってるように聞き手に思わせてる。内容は多分本か何かで勉強してるんだと思うけど……うーん……」


 軽く頬杖をついて悩み、独り言ように呟きだす。


「キキの話聞いた時はアロマンティックに近いかと思ったけど全然違う、嫌悪までってなると……そもそも恋愛感情とか関係なく物事全てに対して愛好も嫌悪も感じてない」


 キキの事はお構いなしに独り言を続けるソルはレイの事を一生懸命考えてくれているのだろう。

 それを静かに待っているとソルは浅いため息を吐いてこちらを見る。


「人に対してだけじゃないっていうのが特徴だろうね。もし種類の全然違う料理を何品か食べさせて、どれが一番好きで何でそう思ったのかを聞いたらレイは『全部好き、だって美味しいから』って言うと思うけど、僕なら嗜好でどれか一品を選ぶよ」


「……私もそうするわ。辛いのが苦手だったりするしね」


「レイが嫌いなものがないって即答したのは特に無くてもおかしくないからだと思う、食べ物の好き嫌いがない人なんて普通にいるし」


 再び何かを考え込むような表情になったソルだが、こんなに悩むと言う事は前例がないのだろう。


「それにしてもよくあれだけの質問でそこまでわかったわね。流石医大を特例で飛び級した天才さん」


 褒めたつもりで言ったのだが、ソルは嫌そうな顔で「誰に聞いたのそれ」と小声で呟いてる。


「センさん」


「ああ……」


 嘆くように声を漏らすソルを見ていると、珍しく自慢げに話していたセンを思い出してしまった。

 自慢の契約者なのだろうな、と思うと少し口元を綻ばせてしまったが、咳払いをして本題に入る。

――好きだけじゃなくて嫌いもわからないのは気づけなかったけど、ここまでは私達も想定の範囲内。ここからが本題よ。


「それで、ずっとこのままなの?」


「……」


「ああ見えて気にしてるみたいなのよ。それに誰にも気づかれてないと思ってるみたい。私とお兄さん達は気づいてるのにね。この前魔王様がレイを無理やりにでも連れて帰ろうとしたのはこの事があったからなの。魔界だったら何かあっても魔王様が守ってあげられるけど、現世だと逃げ場がないと思って……」


 自身の垂れ下がる尻尾が視界に入ると、いつもそれを掴んでくる姿と思い悩んでいた姿が対比になってしまい、さらにショボンと項垂れる。


「レイなりに勉強して他人の感情には敏感になってるみたいだから……逆になんでそこはわかるのか不思議だけど。なにかの拍子に一回でも好き嫌いの感情が芽生えたらそこからはすぐだと思うよ。ただ、自分に向けられる感情に疎い感じもあるよね。さっきも露骨に嫌がってるフリしてたのに気づかなかったし」


「やっぱり直接の解決法は無いわよね……でもレイが疎いのは本当だけど、さっきのに気づかなかいのはアンタの日頃の行いだと思うわよ」


 自覚があるのかそっぽを向くソルだか、キキの話を聞いて真剣に考えてくれたのはレイの兄達を除けば初めてだった。


「でもさっき言ったのも僕の勝手な憶測でしかないし、正確な事は何もわからない。それにレイは上手く隠してる。さっきみたいに似た質問を連続でしないと気づけないよ。それでも気づくのは一握りの人だけだろうけど。そういえばキキは魔術使ったのにケイルで操れない……とかで気づいたの?」


 ギクッと肩を跳ねさせる。

 聞かれたくはなかったが、ここまでしてもらっていて自分は何も話さないなんて失礼すぎる。

 でもできれば話したくない。

 スーッと尻尾を上着の中に隠し、腕を組む。


「私は……」

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