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たださみしかっただけ  作者: 朝月
六章 悪魔事変
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No.6  知らない癖に

 ガスト達が帰って数日後、留学ならぬ留界という事で特別に現世に滞在してもいい事になったと連絡が入った。

 そんな制度あったっけ、と思ったら権力の暴力みたいな事を言っていたので、流石ガストという空笑いしか出なかった。

――魔界から出たい他の人に申し訳ないな。






 何て思ったのも少しの間だけで、あれから数週間経った今、レイは現世生活を謳歌している。

――皆ごめん! オレはこっちで楽しく生きるよ! 皆はそっちで強く生きて!


「じゃあデート行ってきまーす!」


 不法滞在に心痛めて誘われてもしぶしぶ断っていたが、今はそのしがらみから解放された。

 貯めてた有給で可愛い恋人作ってデートと行こう。

 まだ付き合ってはいないが明日の朝まで帰ってこないだろう。


「はい、ストップ」


 食事処で店番をしているフォミに大見え切って扉を潜ったはいいものの、そこには腕を組んで仁王立ちしているキキが待ち構えていた。

 おかしいな、そこには待ってもらってた新しい彼女候補がいた筈なんだけど。


「ちょっと! 今ここに蒼っぽい髪の女の子いなかった?! 今からデートなんだけど!」


「その予定は無くなったわよ。だってその子、アンタに愛想尽かして帰ったから」


「え?!」


 胸を強調するように組まれた腕をさらに持ち上げ、不機嫌そうなキキに告げた言葉に出鼻をくじかれた。


「またオレとうまくいきそうな子に魔術使ったの?!」


 魔界にいた頃はキキのこの行動は日常茶飯事で目を盗んで逢引しなければ、誰とも付き合えない状態が続いていた。

 まさか現世でも同じことするなんて。

 キキが同じ職場になって面白がっていたが、失敗だったかもしれない。


「さあ、アンタの下心に気づいたんじゃないの?」


 そしていつもわかりやすくシラを切る。

 プイッとそっぽを向くので、真似してレイも腕を組みながらそっぽを向く。


「もう、またなの? 毎回毎回よくやるよね。また倒れるよ」


 今日会う子のレイに対する好感度を下げる、つまり自分に関係ない所を魔術でイジると消費忌力は相当な物、それはキキもわかっているはず。

 それなのにそこまでしてレイの邪魔をする理由とは何なんだろうか。

 今キキの身体は固有武器一つ出しただけで倒れてしまうだろう。


「そんな事より今日は健診の日じゃないの?」


「健診?」


 思いもよらぬ言葉に逸らしていた体をキキの方に向き直す。






「いやだ」


 薬品の匂い香る診療所、いつもは患者、主に女の子が来院している筈なのに今日は患者はおろか、ハクさえもいない。

 椅子に座らされて目の前のソルに不満を吐く。

 無意識に動く不機嫌な尻尾は時より鞭のようにうねり、机や床にピシンピシンと音を立ててぶつかり痛い。

 今怪我しました、と声を大にして言いたい。


「僕だって嫌だよ」


「桃源郷は定期的に健診してるんでしょ? 二人とも諦めなさいよ」


 面倒臭そうに椅子に座るその様はまるで闇医者。

 仲裁する為か付き添いかわからないがずっと近くにいるキキもため息を吐く。

 それにしても健診があるなら有給の話をした時にフォミから何か言われそうなものだが、珍しく忘れていたのだろうか。

 今更終わった事を考えてもしょうがない、今はこの場を切り抜ける方法を探す事が先決だ。


「いやオレだって身体検査だけならしょうがないかなーって思うよ? 実際さっきまで文句一つ言わず受けてたし」


「文句は言ってたわよ」


「言ってた」


「アンタもね」


 ソルとキキがグチグチ言ってくる傍、片頬を膨らませて椅子に座ったまま身体を左右に振るが、誰にも相手にされない。


「でもカウンセリングっている? オレはいらないと思う」


 そう、本当に嫌なのはこれ。

 なんでカウンセリング?

 職場の健診にそんな項目があるなんて聞いたことないんだけど。

 生汗をかきながらどうにか逃れる術を探すが一向に見つからない。


「決まりなんだからしょうがないでしょ、嫌だけど」


「そうよ、そろそろ観念しなさい」


 それはどっちに向かって言っているのだろうか。

 二人揃ってジト目でそちらを見ていると言う事が答えなのだろうけど。

 同意しないと始まらないし、終わらない。

 選択肢なんてあっても無いようなものじゃないか。

 腹を括ってわざとらしく大きなため息を吐く。


「はぁー……早く終わらせてよね」


「いちいちイライラするんだけど」


「早くして」


 大した接点もないキキに圧をかけられるソルは恨めしそうに声の主をチラ見してカルテを手に取る。


「……それじゃあ簡単な質問から。名前と年齢は?」


「レイ・アパシー・サクセサー、二十才」


 こらソル!

 こんなのが二十才かよ、みたいな顔しない!

 カルテを見れば全部書いてある筈の情報を聞いて訝しげな顔をするなんて、失礼な医者がいたもんだ。


「今悩み事はある?」


「さっきキキにデート邪魔された事」


 キキの方を向いてベーッとすればあからさまに不機嫌な顔になる。

 尻尾も出てきて、レイと同じようにピシンピシンしている。


「他には?」


「最近ご無沙汰な事かな? 今夜あたりキルちゃ――」


「チッ……他には」


 今度は素知らぬ顔をしているソルに嫌がらせ。

 こちらもあからさまに嫌な顔、しかも舌打ち付き。


「特に無いかな、もう終わっていい?」


「まだだよ。次は、好きな食べ物は?」


 カウンセリングと言ったら一般的には先程の質問くらいで終わりだろうに、嫌がらせをした仕返しだろうか。


「……唐揚げ、とかかな」


「嫌いな食べ物は?」


「んー……特に無いかな」


「好きな事と嫌いな事は?」


――おかしい。何でそんな事聞くの?


「えーっと、好きなのは女の子と遊ぶ事。嫌いなのは特に無いよ」


「じゃあ、今日会う予定だった子の好きだった所は?」


 手が薄らと湿ってきたのを感じ、座枠辺りを掴む手に力が入る。

 何でそんな質問するのだろう、嫌がらせ?

 この流れで答えなかったら変に思われるだろうか。


「過去形にしないでよーどうしたのソル? キルちゃん以外の女の子の事気にするなんてーキルちゃんにチクっちゃうよ?」


 キッとキツい目つきで無言で睨まれる。

 レイがなにか答えるまでこのままだろう。


「――ちなみにブレアちゃんね! まず超可愛かったでしょ? あ、会った事無いから知らないよね。それにグラマー! 特に胸の辺りが! オレの話もよく聞いてくれるし、気も利くし優しい子だったよ。あーあもったいない」


 再びキキの方を向くが、再びそっぽを向かれてしまった。


「じゃあ先週食事処でちょっかいかけてた子はどうしたの?」


 ソルの声で再び視線を前に戻し、むくれるが気にしてくれない。

――大丈夫、いつも通りにしてれば大丈夫。


「めちゃめちゃ綺麗系の顔立ちしててねー話しやすいし聞き上手! あと大切なのはモデル体型だったって事!」


「じゃあ依頼人だった茶髪の子は?」


「その子は――」


 ソルの口からナンパしていた女の子が何人も何人も出てくる。

 そして惹かれた理由を問われる。

――オレってこんなに何人も声かけてたんだ。


「そういえばあの犬型の子は?」


「……ぁ」


――しまった、途切れた。

 焦って目を伏せると、何か言われる訳でもなく、「じゃあ……」と次の質問が問われる。

 これ以上何を――


「キルの事はどこが好きなの? チッ」


――不機嫌なのは何に対して?


「……はいッ! 舌打ちしながらのカウンセリングは逆効果だと思います! 直ちに終了することが患者にとって一番いい――」


「うるさい、答えて。急がなくていいから」


――最後の言葉が余計だよ。根っからの医者だなソルは。オレの事よく思ってないはずなのに。


「可愛くて超グラマーで……」


 俯いたまま声を出せば、思ったより声量が小さい。

 気づけばいつの間にか尻尾は垂れ下がるどころか内側に丸まり始めていた。


「優しくて……えーっと聞き上手で、えー、優しくて、えーと……それと――」


 言葉に詰まれば「終わり?」とソルに声をかけられるが何も答えられない。

――いやだなぁ。


「僕が好きなのは――」


――本当に嫌になる。

 ソルがキルの事を話す時はいつも眩しくて見てられないから。


「昔僕が一人だった時そばにいてくれた事。でもそれは誰にでも平等に優しいから、妬いちゃうくらいね。僕には真似できないよ。それに本人は気づいてないけど天然だよね。それも見てて面白いんだけど……あとレイも知ってると思うけど大丈夫そうに見えても不安定な所があるでしょ。自分の事は二の次でいつも人のことばっかり。それなのに本当はすごくネガティブで目を離したらすぐにどこかに行ってしまいそうで、この間みたいに……自分に自信がないからあんなに皆に好かれてても自覚がないんだよ。でもそんな所も全部含めて僕はキルが好きだよ。本人には伝わってなかったけどね」


 息が止まったような感覚だった。

 こんな事レイにはきっと一生かかったって言えない。

 こんな眩しいの知らない。

 レイを目の前にしている筈なのに朗らかな顔をしているソルを自身の暗い瞳に入れる。

――ソルはオレに対してそんな顔しないでしょ、何で……好きな子の話だから?


「ッ!」


 瞳孔の開いた瞳で突然立ち上がる。

 立ち上がった拍子に大きな音と立てた椅子や、ピンッと立った尻尾も気に留めていられない。


「――これに一体何の意味があるって言うの?!」


 自分が八つ当たりのように声を荒げてしまったことに気づき、口を抑える。

 普段ならこんな事絶対しないのに、どうかしている。

 誰も何も言わないのが逆に嫌だ。


「……あ、わかったあれでしょ。好きな子の好きな所多く言えた方が勝ちみたいな、そういうゲームだったんでしょ?」


 矢継ぎ早に思い付いた事を次々口にするが、ソル達の反応は予測がつかなくて怖くて見れない。

 何もない奥の壁の方に視線をやりながら無意味な身振り手振りを多用して話を続ける。


「もーソルったらカウンセリングなんて名目使わなくてもいいのに! 今回はフラれた傷心のせいで詰まっちゃったオレの負けって事で許してあげる! 本当はもっと好きな所あったのに……今度は負けないからね! じゃあゲームが終わったところでオレは失礼させてもらおっと! さっきデートがおじゃんになっちゃったから早く新しい子探さないと! じゃ!」


 くるっと体の向きを変え、診療所を足早に出て行く。

――大丈夫、時間が経てば怒りは薄れる。きっと許してくれる。だから今は逃げさせて、ごめんね。






「ね、私の言った通りでしょ?」


 レイが出ていき、静かになった診療所にキキの声がこだまする。


「そうだね」


 ソルはそれだけ呟いて、何やらカルテに書いているようだが、この人は今のレイの行動に怒らないのだろうか?

 昨日もそうだった、キキの無茶なお願いに口では嫌がっているもののソルはレイの為に動いてくれた。

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