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たださみしかっただけ  作者: 朝月
六章 悪魔事変
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No.4 兄弟喧嘩、気まずい

 区分的には獣人と獣と付くのに鼻が効かない事をひどく悔やまれる。

 悪魔が鼻が効くって記述何処かにないのだろうか。

 もしあったって悪魔型が鼻が効かない事に変わりはないのだけど。

――もう! リンちゃんが来るってわかってたらもっと遠くまで逃げたのに!


「わぁあああ!!」


 空中でジタバタするのにも片翼ではもう疲れてきて、ゆっくりと落ちていく。

 スライディングするように床に不時着すると、そこは運悪くガストの目の前。

 ゆっくりと顔を上げてその怒っているご尊顔を拝む。


「……ガス兄、ひ、久しぶりぃー」


 にへらっと笑って誤魔化す。


「お前はほんっとうにッ!! この馬鹿が!」


「いったい!!」


 怒りからか、プルプル震える拳で頭をガツンと殴られる。

 ジーンと痛む頭を両手で押さえて、この格好はまるで土下座。


「何でオレのお兄ちゃん達はすぐに殴るの!」


――あ、デジャブだ、これ。

 この間センに殴られた時の事を思い出す。


「もう帰ってきていいって言ってんのにいつまで経っても帰ってこねぇし、挙句の果てにはコソコソ勝手に機密資料漁るとは何事だ!」


「勝手に漁ったのは謝るから! しょうがなかったんだから許して!」


 患部を押さえていた両手を合わせて謝るが、ガストの気が収まる気配はない。

 魔界に帰るつもりもないのに適当に返事してたのが悪かった。


「帰ってこないってどういう事かしら? 追放されたって聞いてたんだけど」


――ああ……めっちゃ至近距離で痴態見られてる……

 何故かガストの近くにいたフォミが何事もないかの様にガストに問いかける。

 これは全部バレる覚悟をしなければならない。


「永久に追放したわけじゃない。反省したらすぐに帰らすつもりだった。現にもう追放は解いてる、なのにこいつ全然帰ってこねぇからこうして忙しい中迎えにきてやったってのに……」


 再び拳を構え出したガストから頭部を守る為に頭を抱える。

――何とか気を逸らさないと無理やり連れて帰られるかも。それは嫌だ。


「そうそう魔王様は忙しいでしょ! オレの事は放っておいて早く帰っていいよ!」


――本当に忙しいのは仕事全部肩代わりしてるセン兄だけど。

 わざと大きめの声でガストの嫌がりそうな事を叫ぶ。

 これで何とか気が逸れてくれれば後はどうにか逃げて――


「魔王……?」


「あ」


――オレの馬鹿! 大声で隠し事暴露してどうするの?! それ言われて嫌なのオレじゃん!


「レイから聞いてないのか?」


 首を傾げるフォミにガストが不思議そうに問いかける。

――ああ……追い出されたらどうしよう……


「俺達三人は現魔神、前第三魔王の親父の息子で長男の俺が魔王を継がされたんだ。だからこいつも一応魔王の血筋だ」


 一応って失礼な、オレだってセン兄と同じ地位だもん。

 何も仕事してなかっただけだもん。


「レイくんそんなに上の立場だったの?」


「何で黙ってたんだ? 魔界ではむしろ言いふらしてただろ?」


「引きこもりのお兄ちゃんは知らないだろうけど、言いふらさなくったって魔界では皆知ってる事――」


 後ろの方で話し声が聞こえ、十中八九自分の事だろうなと思うと舌が回らなくなり、その声に耳を傾けてしまう。

――「気に食わなくても魔王の血筋だから仲良くしといた方が得」って陰口言われた事あるなぁ……


「キキ本当?」


「ええ本当よ、全然ぽくないでしょ」


「死ぬほど似合わないね」


「レイが上にいたらその国滅ぶだろ」


「うん! 血筋なんか気にする人達じゃなかったね!」


 特に最後の口悪いの二人。

 ソルとエンがそういう事で態度を変える人間ではない事は容易に想像できた。

 想い人に何かあったら王様だろうが何だろうが牙を向くだろう、絶対。


「そんなに散々言ってやるなよ……」


「キルちゃん……!」


 レイの血筋にブーイングモードの皆に割って入ってくれるキルはまさに女神様。


「否定はしないが……」


「キルちゃん?!」


 キルがそんな事言うなんて。

 ソルに毒されてしまっ――あ、違う。

 レイの方を見て舌をチロッと出している所を見るとわざと意地悪を言っているのだろう。

 何て可愛らしい意地悪だろう、これなら毎日されたっていい。

 それにしても何かキルの気に触る事しただろうか。


「お前、ここでどんな事したらそんな扱い受けるんだよ……」


 ガストは可哀想なものを見る目でレイ見下ろしながら手を差し伸べてくる。

 あ、まだ土下座ポーズのままだった。

 ガストの手を取ると、ゆっくり引っ張られて立たせてもらう。

 末弟の事をいつまで子供扱いするつりだろうか、この長兄は。

 逆に一切の容赦なく子供扱いしてくれない次兄が天使と共にこちらに向かって歩いてくるのが視界の端に見えて肩をすくませる。


「この店を奇襲したあげく俺の契約者の彼女に言い寄って玉砕した上に魔界追放を理由に就職して現在進行形でその彼女を口説き続けてる」


「ちょっとセン兄! それじゃオレただのヤバい奴じゃん!」


 一言で纏めないでほしい、事実しかないから。

 意地の悪そうな顔をしているセンの服を掴んで振り回すが、ビクともしない。


「よくその流れで就職させてもらえたな……ッ! おいセン、リン、今日は帰るぞ! クソッ折角隠れてたってのに!」


「うん! そうして! じゃあバイバイ!」


 突然あたふたしだしたガストを不審に思いながらも、もしかしてこのまま実家帰りは不問になるんじゃ、という希望を持つ。


「急になんだ、レイはどうするんだ」


「また後日俺が気を見計らうからとにかく今は早く魔術使え! 理由は後で説明する! 早くしないと――」


「早くしないと何?」


 ガストがバタバタとセンに掛け合っていると、バタンと扉の閉まる大きな音が店内に響く。

 リルが帰ってきた。

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