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たださみしかっただけ  作者: 朝月
六章 悪魔事変
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No.3  天使型の性質

 ここに来て数時間が経ち、ずっと皆の様子を伺っていたがまあいい人達なのだろう。

 ただ、この場所には何とも言えない空気が漂っている。

 でもしばらくすれば慣れるだろうし予測はしていた。

 実はハイネがここを出て行ってから少しして再びハイネに呼び出されたので、ここの人達がどういう人達なのかはうっすらと聞いた。

 キルとソルの関係も聞いたがまあ微笑ましいんじゃないかと思った。

 しかしハイネには言えないが大分拗らせているように見える。

 それはあの二人だけではなくここにいる人達は全員何かを拗らせているのだろうな、と付き合いの長いレイを見てもそう思う。

――ここに居ればレイももう悩まずにいれるの?

 そんな事を思いながら、椅子に座って頬杖を突いているレイに近づいて行く。

 尻尾まで振って随分機嫌がいい様に見える。


「ここの人間関係ごちゃごちゃらしいわね」


「ハイネちゃんに聞いたの? まあ見てて面白いよ!」


 こんな、ニカーっと好青年みたいな笑顔を見るのはいつぶりだろうか。

 レイのそんな顔が見れるなら成り行きでも就職してよかった。


「あ、そういえばアンタのお兄さん達が今度レイに会いに行くって言ってたわよ」


「お兄さん達ってどういう事? セン兄じゃなくて?」


 キキのスカートの穴から出ている尻尾を掴もうとする手をはたき落とす。

 気を抜けば出てきてしまう尻尾をこの男はいつも触ろうとしてくるのでムカつく。

 その度に隠し直すがコートの中にずっと尻尾を隠しておくのもムズムズするので本当は出しておきたい。


「そうらしいわよ」


 お返しにレイの尻尾を掴むがそれに対しては何の反応もないのもまたムカつく。


「え、それって大変な事なんじゃ――」


 レイが話している途中で店の扉をノックする音がした。

 確か扉に臨時休業と貼ってあったような気がするがさっき来たクラウのように誰か知り合いが来たのだろうか?

 それとも文字が見えないおバカさんか。


「今入ってもいいか」


 扉を勝手に開けて男の人の声が店内に入る。

 鶯色の髪が見えるが顔はよく見えない。


「ごめんなさい。お店の工事が終わったばかりで、今日は臨時休業なんですけど――」


「おい話が違うじゃねえか」


 急いで対応に行った店員に乱暴な口を聞くなんて失礼な人、と思ったがどうやらフォミに言ったのではなく後ろにいた連れに言ったようだ。


「臨時休業って書いてあるのに用件を言わないからだろ……悪い、食事しに来た訳じゃないんだ。俺の事覚えてるか?」


「あら、あなたソルくんの――」


 聞き覚えのある声がしたと思うといつの間にかレイが居なくなっていた。

 扉から一番遠い窓が開いている。

 あそこから飛んで逃げたんだろうな、とため息を吐く。


「その声セン? 呼んでないけど何しに来たの?」


 ソルが扉に近づいて行く。

 そういえばレイが奇襲した時にソルがセンを呼んでいるのを遠目で見たのを思い出した。

 センの契約者ならソルは信用してもいいかな。


「今日はレイに用があってきた。あいついるか?」


「いるけど……後ろの二人は?」


 そう問われたセンが扉を全開に開けると、後ろには最初に先頭に立っていた男の人と、レイの天使の輪っかと同じ物を浮かばせている女の人が立っていた。

 よく見れば二人とも知っている顔だった。






 ソルと一緒に先に扉をくぐったセンの後に続いて、男の人の後ろに女の人が隠れる様な形で店内に足を踏み入れる。


「レイとセンの兄貴のガスト・イナビリティー・サクセサーだ。レイに用があるのは俺なんだ」


「リン……リン・インキュアラブル……です」


 鶯色の髪色の男の人も天使の輪っかを浮かばせる女の人もキキの思い浮かべている人物と同一人物だと、名前を聞いて確信する。

 というか魔界で知らない人はいないだろう。

 本来なら声を聞いた時点で気づくべきなのだろうがそんなに頻繁に話したこともないので仕方がない。

 リンの極端に露出の少ない真っ白なロングワンピースとは対照的に、謎に衿ぐりが横に広いシャツを着たガストにはレイと同じ感性を感じる。

 しかし、ガストの姿はキキの記憶と少し違うが、彼の魔術を考えるとそんなおかしい事でもない。

 そんな二人を遠目に見ているとセンはソルと一緒にキルの元に歩み寄っていく。


「キル、だったな。この間はバタバタしていてすまなかった。ソルと契約しているセン・レヒュッジー・サクセサーだ。お前とも長い付き合いになるだろう、よろしく頼む」


 長い髪を靡かせキルに手を差し伸べるセンはいつも魔界で見る冷徹な雰囲気とは似ても似つかず、ソルの親戚みたいに見えて少し口が綻んでしまう。

 キルは差し伸べられた手を取るべく椅子から立ち上がる。


「俺もいつかちゃんと会いたいと思ってたんだ、よろしくセン。こいつはハクだ、ソルに一番懐いてる」


 手を取り嬉しそうに微笑むキルと、ぴゃっと鳴くハクを見て、センのいつもムスッとしている口が柔らかくなった様に見えた。

 レイが魔術で入れ替わっているんじゃないかと思えるほど朗らかな態度に驚いていたら失礼だろうか。


「そういえばレイはどこにいるんだ? 姿が見えないが」


「レイならそこに……あれ、居ないな」


 キルがこっちに顔を向けキキの隣にいたはずのレイを探す。

 センもレイを探すべくこちらに見るので、バッチリと目が合ってしまった。

 現世に違法滞在しているみたいで気まずいので影を薄くしてこのままやり過ごそうと思っていたのだがやはりそうもいかなかったか。


「せ、センさんこの間ぶりー……」


「キキ、なんでお前までここに……そうかレイがここにいるからか。それでレイはどうした」


 魔界でもレイと一緒にいる所ばかり見られているので、常に一緒にいると思われているのは訂正したい。

 常に一緒なのではなく、ただよく遊ぶ仲なだけだ。

 しかし、現世長期滞在の書類をついさっき審査に出したばかりで返事をもらう前から滞在しているのを指摘されたくないので、一先ず黙っておこう。


「レイならセンさん達の声が聞こえた瞬間どこかに飛んで行っちゃったわよ」


 額に手を当てて大きなため息を吐くセンは自他共に認める苦労人で周りからよく憐れまれている。

 そしてその苦労の原因の半分を占めているであろうガストの方を見ると、レイを探すのはセンに任せきりの様でフォミの方をじっと見ている。


「お前が店長か?」


「そうよ? なにかしら?」


 複雑そうな表情でしばらくフォミを見つめて「そうか、お前が……」と呟いている。

 面識があるのだろうか、いやそんな事ある訳がない。

 フォミも目的のわからないガストの行動に眉を顰めてしまった。


「いや、なんでもない。おいセン、レイは」


「逃げたみたいだ。通信にも出ない」


 先程までなにやら独り言を言っていたセンはガストの方に向かって歩いていく。

 独り言じゃなくてレイと通信しようとしていたのか。

 通信機なんて高価な物は使ったことがないので気づかなかった。


「まだ近くにいるだろ、探してこい」


「兄貴も探せよ……」


 相変わらず動こうとしないガストに呆れた様な声色で答える。

 そんなガストとは反対にずっとガストの背に隠れていたリンが天使型特有の長い髪を揺らしながらセンに駆け寄っていく。


「ん? リンも一緒に行くか?」


 センの袖をチョンと掴みながら無言で頷く。

 センがそれを確認すると二人は扉から出て行ってしまった。

 リンも加わったならレイが見つかるのも時間の問題だろう。


「あの子ってレイがハーフって言ってた天使型よね? 見た感じだけど」


 壁際で大人しく見ていたフィーがちょこちょこと駆け寄ってきてキキの横に立つ。

 自身より頭半分くらい小さいフィーを見下ろすと、上目遣いで目が合う。

――可愛い子ね。


「そうよ。でもあの子は病気の治療の為に魔界に来てて、今はセンさんと一緒に住んでるの。詳しい事は知らないけど」


 リンの片翼だけ傷だらけの翼、そして額に巻かれた包帯を思い浮かべる。

 病気の詳細は知らないが大病という噂だ。


「わぁああ!! リンちゃんも来てたぁあああ!」


 そんなことを話していると、先程レイが飛んで行ったであろう窓から今度は転がりながら帰ってきた。

 やっぱりすぐ見つかった。

 レイの身体には十五センチくらいのマスコット人形みたいなリンが数体くっついている。


「なんだあれ?!」


――いつの間にフィーの横に。

 フィーは確か一人でキキに駆け寄ってきた筈なのに、レイに気を取られている間にエンがフィーの隣にいた。

 これが噂に聞く猫型の性質なのか。

 エンもフィーもレイが振り解こうとしてはくっつかれるを繰り返している小さなリンを興味深そうに見ている。

――そっか、私が猫型の性質に詳しくないのと一緒でフィー達にとって使役個体は未知の生き物に見えるのね。


「天使型の性質、っていうか能力の『使役』よ。忌力を分け与えて自分の分身みたいなのを作り出せるの」


 悪魔型と同じで天使型は飛ぶことができる。

 その使役個体ももちろん飛べるので店内と飛び回りながら追い回されているレイを目で追いながら説明する。

 横を見ると、ねこじゃらしを目で追いかける猫みたいに二人もレイを目で追っている。

――これも猫型の性質? それとも性格?

 今度レイに聞いてみよう、と思いながら説明を続ける。


「あんな感じのマスコットみたいな戦闘能力の無い形だったら少量の忌力でいいみたいよ。大きい個体はそれだけ必要な忌力も多くなるから自分のクローンみたいに精巧なのはギリギリ一体作れたらいい方らしいけどね」


 そこまで話していると、レイを追いかけていた中で一番早く飛んでいた使役個体が速度を落としたと思うと、ゆっくり床に落ちていって煙みたいに消えた。

 まあ、レイを探すくらいならそんなに忌力分け与えてないか。


「今、使役個体が消えたでしょ? 作られた時に分け与えられた忌力を消費しながら動くから全部消費すると存在を保てなくなって自動的に消えるの。生きてる訳じゃないから言う事素直に聞いてくれるし便利な能力よねー」


「そうね、ケイルだって言われても信じるくらい便利だと思うわ。魔術もそうだけど」


 フィーはまた一体落ちてきた個体をキャッチし、消えていく煙を見送る。


「魔術はランダム性強いしハズレも多いからピンキリよ。空飛べるのにジャンプ力が強くなる魔術の人がいて嘆いてたわ。私もそんな強い魔術じゃないし……使役の方がよっぽど役に立つわよ」


「二体、消え……ま、した」


 そう聞こえたと思うと、先程消えたのより一回り大きい個体が二体追加でレイに引っ付く。

 再び暴れ出すレイだが今度は降り解けない様なので、分け与える忌力を増やしたのだろう。

 個体が飛んできた方を見ると扉からセンとリンが入ってきた所だった。

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