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三篠家離散日誌  作者: 三篠森・N
第3章 三篠家介護編
35/36

第35話 三篠森・N、用済み

 前回は心配させてしまうヒキになってしまったが、続報をお伝えしよう。

 とにかく体調は悪化の一途をたどるばかり、最終的には職場の人に話しかけることすら出来なくなった。急ぎじゃないけどこの資料が欲しい、急ぎじゃないけどあのデータがどこに格納されているか教えてほしい。そういうことが一切言えなかった。邪魔になってしまうんじゃないかとかそういうことを物凄く気にしてしまったのだが、そんな自分の状態を「これはおかしい」と自覚は出来ていた。

 抗うつ剤の効果もあまり実感出来ず、その「これはおかしい」の翌日に再度受診したのだが、受診するのすら申し訳なく、かかってまだ三回目の先生に診断書を出してもらって一か月の休職となった。

 そこから先はこれでいいのかどうかはわからないが、基本的には出勤時と同じ時間に起きて朝食を食べて二度寝するか、そのままモンハン、自転車、物書き、家事だけやって過ごしていた。

 モンハン(サンブレイク)はここまでこのデータでは片手剣と双剣しか使っていなかったが、操虫棍、弓、スラアク、太刀を全属性揃え、傀異克服シャガルマガラを倒し、傀異錬成の沼にハマった。最強装備と名高い狂化奮闘業鎧装備も作ったのだが、リスクが高すぎて安定を求める俺のプレイスタイルと合わず、剣士は快適な天衣無崩ベース、弓は体術スタ急の快適装備で進めている。

 まぁそれはいいとして、家にこもっているのが一番良くないと思ったので整体や美容院に行き、整体の先生や美容師さんとも話した。二人とも話術のプロである上に明るいので話していて楽で、特に整体の先生にはかなり救われた。自転車も乗る時はノルマ20キロとして週に2、3回乗っている。一方で物書きも休職前よりはペースは上がったがモンハンが楽しすぎて一番書いていた時期よりは落ち着いた。

 とにかくモンハンが楽しい……というか気が楽で、気持ちが弛緩する。

 それでも休み始めた当初は外に出ると気持ちがざわついたり、仕事から母が帰ってきたりすると気持ちがざわつく。妹が一泊で帰省してきた時は一気に体調を崩してしまった。

 整体の先生や美容師さんくらいの距離感がちょうどいいのだろう。

 あとは朝が一番気分が重く、しばらく起き上がれないこともある。

 だがモンハンか自転車に移ればどうにかなる。本当にこれだけが救いだ。

 妹は一切悪くはないのだが、妹みたいに人が来るだけであんなに悪くなってしまうのなら残り時間でもう一度就労に耐えるメンタルに戻れるかはかなり心配ではある。


 と、まぁ「自分は病人だから」というラベルをうまく利用し、怠けるところは怠け、「重病人ではない」というラベルで緊張感というか生活の緩急は保てるように努めている。


 父の件からは一切手を引きLINEはブロックして本当に妹と母に任せることにした。そして先日、二人が手術前検査のために受診付き添いに行ってきたのだが、帰ってきた母から聞くだけで気分が重くなるし実際父の態度は今回もひどかったようだ。


 だが先に断っておくと前回の最後で話した免許返納も株に関することも、「なんでも思い通りになるなよ」と突きつけるための復讐はもうどうでもよくなった。あるとすればこの病気療養の慰謝料というか……働けない間の補填は欲しかったな、くらいだ。


 では母から聞いた先日の付き添いの話をしよう。


 当初は妹一人に行ってもらう予定だった。

 我が家はとにかく両親仲が悪く、既に離婚しているが離婚前から二人が雑談しているところを見たことがない。常に喧嘩だ。そのため両親が揃う休日の夕食は地獄でしかなく、父が単身赴任でいなくなってくれてよかったと思っている。昔から父と二人の時は父から母の愚痴を、母といる時は父の愚痴を聞かされてどちらにも合わせてきたため途中から俺はコウモリ扱いになった。母が付き添いに行ってしまうと帰ってきた母にまた父の愚痴を聞かされると思ったので妹一人にして欲しかったのだが、もうどうでもよくなってしまったので二人で行ってもらうことにした。

 母と妹は父と同じ時間に来院しなかった。母が看護師であるため、「ただの検査なら立ち会う必要ないよね?」と時間に余裕を持って行ったそうだ。

 そして誕生日が近い母と妹に、父はプレゼントとしてお菓子を持ってきたそうなのだが、その際に言ったのが

「これ重いから早く受け取ってくれ」

 だったそうだ。

 血糖値はなんと自力でのコントロールに成功しており手術に耐えられる体になっていた。なんで最初からしないんだよ。そのかいあってか頭や会話はいくらかクリアになっており、ご陽気な様子だった。というか父は家でも会社人間であり、下手に出世してしまったせいで全員を自分の部下、太鼓持ち、ご機嫌取りだと思っているので、母や妹、当然俺も部下だ。だから久しぶりに会えた部下(妹。父にとっての長女)にご陽気だったそうだが

「妹は今日は仕事を休んできているんです。日当をあげてください」

 と母が言うと一気にぐちゃぐちゃに顔を歪めたそうだ。

「ハァ? じゃあいくらだ?」

「そこはあなたのお気持ちです」

「じゃあこれで。二人で分けろ」

 と母と妹に渡されたのは一万円だった。日当5000円……。安すぎる。そしてやっぱり金への執着が見られる一幕だった。


「森も体調を崩してしまっています」

「あいつも少しは成長したと思ったんだがな。俺のせいなのか?」

「そうです。もう森は関わりません」

「仕事は休んで寝込んでいるのか?」

「診断書が出て寝込んでいます(母がちょっと盛る)」

「あいつはやっぱりダメだな。もうあいつの世話にはならない」

 労いどころか成長しないとディスられたようだ。そして母が何かを察する。

「森がダメでも妹もダメですよ」

「……」

 『スターウォーズEP6』を思い出す場面であった。ダース・ベイダーは息子のルークを暗黒面に誘うが、ルークが乗らないとわかればルークの妹レイアを勧誘する、という。つまり妹もレイアも、俺とルークのスペアだ。


 その後は検査の予定を立てて次はどこへ、あちらへと病院の人に案内されてもまったく覚えておらず、母か妹に「で、どこに行けばいいんだ?」と指示待ち。完全に秘書任せのお偉いさんだったようだが、これは俺が秘書だった時もそうだ。母がメモをとれ、といっても聞かない。最終的に母か妹が教えてくれるなら自分が覚える意味はないということだろう。これは他力本願ではなく、他人のリソースも自分のもの、というジャイアン的思想である。


 そして先生やあちこちで煙草についての注意をされたそうだが、煙草は昨年の6月に約束を守れず手術が流れた時以降きっぱりと辞めていると宣言していた。俺はそう聞いていたし、母と妹は俺から聞いてそう思っていた。

 だが吸っていた! いつからいつまで?

「6月に手術が流れた時に辞めた」

「でも吸ってるんですよね?」

「だから一時期は辞めた」

「今は?」

「10月から吸い始めて2週間前に辞めた」

 2週間前とは前回の俺が付き添った時であり、入院中に煙草を吸ったらどんなタイミングであろうと強制退院と告げられた後である。だが!


 俺の認識↓

 喫煙で手術が流れる→ずっと禁煙→2週間前に煙草について病院からそういう宣告→でも吸ってないから大丈夫。


 実際↓

 喫煙で手術が流れる→10月まで禁煙→2週間前に煙草について病院でそういう宣告(実際は喫煙)→禁煙


 つまり! 俺は騙されていた! 前もそうだ! 「認知症の検査結果が出るまで車には乗らない」と約束したのに、電話をかけたら運転しながら電話に出た。

 禁煙してるって言ったじゃないか!


 母が

「森には禁煙してるって言ってたんですよね?」

 というと

「あいつはもう関係ないだろ」


 あと父は受付時に出すべきだった田舎での診療情報を出すのを忘れていた。そのせいで一回検査が増えることになったのだが、そのせいで母は誕生日の予定がつぶれた。誕生日のことは抜きにしても、そういう情報は受付時に出してくれと書いてある。

「なんで最初に出さなかったんですか!」

「だって先生宛って封筒に書いてあるだろ!」

 と喧嘩が始まり、トラウマが蘇った妹はパニック寸前になったそうだ。


 ちなみに手術日は死んだ弟の誕生日であり、入院日は月命日。俺は昨年の誕生日に田舎に来いと呼び出されている。行かなかったが、五人家族で年に五回しかない誕生日という日をピンポイントで潰しに来る恐ろしさよ。一応フォローしておくが、手術日は弟の誕生といったが他にも提示された候補日はあった。それでも父がその日を選んだ。


 すべてが終わり、駅で父が見えなくなった頃に母と妹は言葉を交わすこともなく、同時に悪霊から解放されたように全身が軽くなったという。

「お兄ちゃんの気持ちと大変さが分かった」

 という妹の言葉が救いであった。


 そして今後は家族の付き添いは必要ないというので、母が誕生日の予定を潰して行く以降は入院も手術も退院も転院も付き添わない。

 鬼の首を取ったように言うが、昨年の6月に父が禁煙の約束を守っていれば済んでいた話がここまで長引いただけだ。


 俺は直接父に会っていないのにこの破壊力。やはり凄まじいものがあった。

 とりあえず気にせず、俺は俺の療養をしたいと思う。

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