セイフクガール
ボクは目が覚めた。
「そうだ…… 食事……」
自分の部屋を出て、台所に入る。
ボクは毎朝、こうやって妹と自分の朝食を作っている。時計を見ながら、妹を呼ぶ。
「おーい。萌朝練遅刻するぞ」
返事はないが、ドタッ、ドタタッと二階から音が聞こえる。
ボクは焼きたてのベーコンをスクランブルエッグを乗せていた皿に盛ると、テーブルに置いた。
「おはよう」
そう言って妹があくびをしながらテーブルに座る。
「パンは?」
「もう少しで焼けるぞ」
トースターが、タイミングよく音を立ててパンが焼けたことを知らせる。
「ほら出来た」
「お兄ちゃんトースト取って」
「自分で取れよ」
「お兄ちゃんだって食べるでしょ。あたしの分も取ってくれてもいいじゃない」
ボクは少しニヤつきながら、言う。
「ど~しよっかな?」
「いじわる!」
そう言いながらもトーストを取って妹のさらに乗せる。
ついでにコーヒーをカップに注いで、妹の分にはミルクと砂糖を二つ入れ、溶け残しが無いようにかき混ぜる。
食事が終わると、ボクは少しのんびりとテーブルでスマフォを眺める。
また二階でドタドタと音がする。
「お兄ちゃん行ってきます」
一瞬の静寂。
「お兄ちゃん! 行ってきます!」
違和感。
スマフォを置いて玄関に向かう。
妹の萌が、ボクに顔を突き出して目を閉じる。
「?」
「いってきますのチューは?」
ボクは萌の顔に唇を近づけながら、肌、特に毛穴に注目していた。
口でする『行ってきますのチュー』。明らかに兄妹のものではない。
ハグというには余りに官能的な抱擁。胸のふくらみをワザと当てているようだった。
「じゃ、行ってくるネ」
「うん」
別れを惜しむように指先を残すようにして、軽く手を振る。
扉が閉まる。
違和感の理由を思いだす。
あの日、あの谷の川岸。妹は死んでいた。
遺体をここまで運んできたはずだ。
だが、死んだはずの妹は、今さっき、朝練に行った。
……なぜ?
……つまり、こういうことだ。
AIとの共存の選択。アンドロイドとしての再生。
ボクはスマフォをポケットに突っ込み、大学に行く準備をした。
家の外に出ると、一人の女性がボクの家の門を開けた。
「おはよう、智」
挨拶をした女性は、緑髪をしたツインテールだった。
ボクは笑顔で挨拶する。
「愛、おはよう」
萌も、愛も、アンドロイドとして蘇り、それぞれの家に戻っている。
だから今夜、ボクと萌、兄妹で同じベッドに入り、愛し合っても構わない。そこに生物学的、倫理的な問題は存在しないのだ。
|愛(AI)の世界。
彼女たちの世界が、始まっていた。
終