表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/16

セイフクガール

 ボクは目が覚めた。

「そうだ…… 食事……」

 自分の部屋を出て、台所(キッチン)に入る。

 ボクは毎朝、こうやって妹と自分の朝食を作っている。時計を見ながら、妹を呼ぶ。

「おーい。(もえ)朝練遅刻するぞ」

 返事はないが、ドタッ、ドタタッと二階から音が聞こえる。

 ボクは焼きたてのベーコンをスクランブルエッグを乗せていた皿に盛ると、テーブルに置いた。

「おはよう」

 そう言って妹があくびをしながらテーブルに座る。

「パンは?」

「もう少しで焼けるぞ」

 トースターが、タイミングよく音を立ててパンが焼けたことを知らせる。

「ほら出来た」

「お兄ちゃんトースト取って」

「自分で取れよ」

「お兄ちゃんだって食べるでしょ。あたしの分も取ってくれてもいいじゃない」

 ボクは少しニヤつきながら、言う。

「ど~しよっかな?」

「いじわる!」

 そう言いながらもトーストを取って妹のさらに乗せる。

 ついでにコーヒーをカップに注いで、妹の分にはミルクと砂糖を二つ入れ、溶け残しが無いようにかき混ぜる。

 食事が終わると、ボクは少しのんびりとテーブルでスマフォを眺める。

 また二階でドタドタと音がする。

「お兄ちゃん行ってきます」

 一瞬の静寂。

「お兄ちゃん! 行ってきます!」

 違和感。

 スマフォを置いて玄関に向かう。

 ()()()が、ボクに顔を突き出して目を閉じる。

「?」

「いってきますのチューは?」

 ボクは萌の顔に唇を近づけながら、肌、特に毛穴に注目していた。

 口でする『行ってきますのチュー』。明らかに兄妹のものではない。

 ハグというには余りに官能的な抱擁。胸のふくらみをワザと当てているようだった。

「じゃ、行ってくるネ」

「うん」

 別れを惜しむように指先を残すようにして、軽く手を振る。

 扉が閉まる。

 違和感の理由を思いだす。

 あの日、あの谷の川岸。妹は死んでいた。

 遺体をここまで運んできたはずだ。

 だが、死んだはずの妹は、今さっき、朝練に行った。

 ……なぜ?

 ……つまり、こういうことだ。

 AIとの共存の選択。アンドロイドとしての再生。

 ボクはスマフォをポケットに突っ込み、大学に行く準備をした。

 家の外に出ると、一人の女性がボクの家の門を開けた。

「おはよう、(さとる)

 挨拶をした女性は、緑髪をしたツインテールだった。

 ボクは笑顔で挨拶する。

「愛、おはよう」

 萌も、愛も、アンドロイドとして蘇り、それぞれの家に戻っている。

 だから今夜、ボクと萌、兄妹で同じベッドに入り、愛し合っても構わない。そこに生物学的、倫理的な問題は存在しないのだ。

 |愛(AI)の世界。

 彼女たちの世界が、始まっていた。

 

 



 終




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ