おとうさまとてあわせします3
おとうさまとの手合わせ3本目です
今日はこの前に1本投稿しています。
これで父親との対戦回は終了となります
もくもくと土煙が上がる。エドムントが起動した魔法が着弾したからだ。
審判として、間近で見ていた魔導士団団長のクラウス・カルヴェは息を飲んだ。
『相変わらずとんでもない男だ』
額から汗が流れるのを感じながら、そんな事を考える。
エドムント・オースティンはその当時の学園では、頭一つか二つ飛び出だ逸材だった。貴族科に属しながらも、剣術はトップクラス、魔法も魔法科にいた自分と肩を並べるほどの力を持っていた。そして一番彼が彼が恐ろしいと感じるのは彼の魔法の正確無比さだ。魔法の力加減や、的中率が本当に桁違いだった。今だって実の娘である彼女に対して手加減を一切加えずに攻撃を加えている。彼女の魔法のセンスも大した物だったが、エドムントには敵わない。最初の攻撃の後、追撃で撃たれた魔法である程度のダメージを受けているだろう。
『ここで試合終了にしておいた方が良いだろうなあ』
頭の中で考えながら、クラウスは土煙の向こうを眺めた。恐らくあの向こうには怪我をしたオースティン嬢がいるはずだ。一応、こういう事態も想定して、救護班も用意しているが――。
土煙が薄くなっていく中、クラウスは片手をあげようとする。そして、エドムントの勝利を告げようとしただが、煙が晴れた場所には、倒れていたり怪我をしているリナニエラの姿は無く、ただ、抉れた地面だけが残っていた。
「なっ!」
一体何が起こったというのか、訳が分からず、クラウスはその場所を凝視する。避ける余裕はなかった筈だ。あの攻撃なら、間違いなく自分だってダメージを喰らっていただろう。
『どういう事だ』
目の前の出来事をうまく頭で整理できずに、クラウスは混乱しながら周囲を見回す。そして、先ほど魔法を展開したエドムントに目をやった。彼は、誰もいない場所を見て、一瞬目を見開いたがその後真顔になって視線を上に上げる。
「まさか避けられるとは思っていなかった」
そう言うと、彼はにっと唇を引き上げた。それを見て、クラウスはぞわりと背筋に寒気が走るのが分かる。時々、魔法戦などで膠着した状態なった時などでエドムントが見せる表情だ。彼は、張りつめた場面になればなるほど楽しそうな顔をする。今までも何度も見た事があるが、緊迫した空気の中笑う彼の表情は本当に壮絶なのだ。
『その顔を今するとか!』
自分の娘に攻撃していおいて、なんて顔をしているのだと考えながらもクラウスはエドムントが視線を向けている先に目をやった。そして、目を見開く。
「なっ!」
そこには、先ほど魔法攻撃を受けたと思っていたリナニエラの姿があった。彼女は、空間魔法だろうか、半透明な立方体の上に乗る形でこちらを見つめている。その彼女の顔には怯えや、混乱といった様子は全くなかった。砂煙を被ったのか少し服が汚れている気がしたけれども、彼女はその立方体の上で立ったまま、魔法を展開している。
「さっきのは流石に焦りましたよ」
そう言う彼女の言葉に、エドムントは笑う。その言葉に、彼女も笑みを漏らした。
「うわぁ」
目に飛び込んできたのは、エドムントと全く同じ笑みだった。今の緊迫した状況を楽しんでいるとしか思えない笑み。そして、彼女は魔法を更に展開していく。
「結界班! 観客席に結界を!」
彼らが魔法を発動する直前、クラウスは大声で傍に控えている結界が得意な魔法師団員へと声をかけた。
□ □
「あっぶなかったー」
もうもうと立ち上がる土煙を目にしながらリナニエラは呟く。魔法の追撃が来た時リナニエラ自身もエドムントの攻撃を受ける事を覚悟したのだが、ふと自分の魔法を思い出したのだ。
魔法は、相手に掛ける事だけを前提をしている訳ではない。そう思ったのと同時にリナニエラは空間魔法を発動させる。主にこの魔法は結界といった物で使う魔法だ。それを固い立方体にして、階段状に展開させていきながらリナニエラはその場から上へと退避する。その直後、魔法の第二波が地面に着弾して、更にひどい土煙が上がった。これなら、おそらく自分が上へ逃げた事も、エドムントに気が付かれるまでに時間が稼げるはずだ。
『けど、前世で読んだ漫画がヒントになってよかったわ』
そんな事を考える。魔法では無かったのだが、こんな風に結界の術を使って妖怪を倒していた漫画があったと思い出したのだ。その中の主人公が、結界を足場にして、駆け上がっていくシーンがあったためそれを真似してみたのだ。空間魔法は基本的に何かを囲んで守るなどのイメージがあるが、それを上から足場にすると言う発想はなかなかに良い気がする。
「これ使えるなあ」
はじめての試みだったがうまくいって、リナニエラがにやにやとしていると、眼下で立っている父がこちらに視線を向けた。下を見ているリナニエラとばっちりと目が合う。
「うわ……」
さすがに、気が付くのが早いと、焦りを感じるが対するエドムントは自分が上へと逃げた方法を見て一瞬驚いた顔をした後、にっと口角を上げた。余り表情が動く事が少ない彼の珍しい表情にリナニエラは苦笑する。
「まさか避けられるとは思っていなかった」
「さっきのは流石に焦りましたよ」
どうやら、父は自分に魔法を着弾する気満々だったようだ。そのセリフを聞いて背筋が寒くなるが、リナニエラは返事をする。そして、先ほどの父と同じように口角を引き上げた。最大火力の魔法は使っていないとはいえ、緊迫した空気が流れている。ひりひりとした緊張感が肌を撫でていく。土煙で、自分の身体や髪は汚れているけれども、さほど気にはならなかった。
『た、楽しい!』
こんなに強い相手と手合わせしたのは、初めてだ。学園だと真面目に授業は受けているけれども、どうしても本気で魔法を展開する事が出来ない。だが、今なら何も遠慮せずに、自分の力を出す事が出来る。なにせ、相手は父であるエドムントで、彼は自分が尊敬している魔法使いだ。
『だったら』
自分の内側から湧き上げる高揚感のまま、リナニエラは手に魔法を展開する。さっきまでは初級魔法だったが、次は風と水の複合である氷魔法。しかも中級の物だ。さて、この状況に父はどんな反応をするのだろう。そんな事を考えながら、リナニエラは氷魔法を発動する。リナニエラの周辺には、氷の塊がいくつも浮かび、それをエドムントの方向へと向けて撃つ。それを確認したのだろう。エドムントの方も中級の魔法を展開させた。そして、それらがぶつかる。その直前、カルヴェ伯爵の叫び声が聞こえたような気がしたが、それすらもリナニエラは気にならなくなった。
火と氷魔法がぶつかった瞬間、大きな爆発が起こる。さっきまでの初級魔法がぶつかった時よりも更に大きな衝撃に、リナニエラの足元が一瞬揺らぐ。
「うわ!」
ずるりと足が滑る。まずいと思った瞬間、リナニエラの身体は空中に投げ出されていた。
自分が落ちた事に、周囲から悲鳴が上がる。
そのまま落下し始めた身体に、リナニエラは身体強化をかける。体勢を崩してしまったから、自分でちゃんと着地する事は難しいが、この後風魔法で落下の衝撃をやわらげれば擦り傷程度で済むはずだ。
頭の奥で冷静に考えながら、リナニエラは魔法を展開させようとする。地面にぶつかる直前に魔法を展開するタイミングを計ろうとした所で、リナニエラの身体がガシリと抱き止められたのが分かった。
自分の背中を支えて、膝裏に手を入れられてお姫様抱っこのような状態になったのに目を見開いた時、リナニエラの視界に、少しあわてた顔の父の顔が目に入った。
「お父様……」
「全く――」
エドムントに声をかければ、彼はほっとしたままと息を吐く。自分がいる場所から、父が立っていた場所は距離があった。その中、彼は助けに来てくれたらしい。
「ありがとうございます」
そう言って父の首に抱き着けば、『無茶をする』と言葉が返って来る。そういえば、幼い頃はよく父に抱き上げられたなと思っていれば、周囲の音が段々聞こえ始めた。慌てた声を上げるカルヴェ伯爵の声や、自分の名前を呼ぶクリストファーの声などが聞こえる。慌ただしいその声をききながら、リナニエラは父であるエドムントと顔を見合わせるとへらりと笑みを浮かべた。
読んでいただいてありがとうございました
反応もありがとうございます。嬉しいです
一気に書ききりたかったので慌ただしい投稿でしたが書いていて楽しかったです
この後は再び不定期に戻ります




