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おとうさまとてあわせします1

お父様との手合わせ会 1回目です

試合開始までのやりとりです


「よし」


 膝くらいまであるブーツ(加護つき)の紐を確認した後、リナニエラは自分のローブ、装備を確認する。問題は無い。これは、依頼を受けて街を出る前に行う自分のルーティンのような物だ。

 一つ息を吸って大きく吐き出した後、頬を手で叩く。勢いよく叩く音が、今いる場所で響くのが分かった。

 今リナニエラがいるのは、王城にある騎士団の修練所だ。

 そう、今日は自分が広範囲魔法を使う事を父であるエドムントが許可するかどうかを見極める為に彼と手合わす日なのだ。だが、何故王城の中でそれが行われる事になったのかは正直納得していていない。


『家の庭とかでやるんじゃなかったの?!』


 目の前で腕組みをして立つエドムントを見て、リナニエラはそんな事を毒づいた。というのも、この修練所というのが、くせものなのだ。普通なら、ただの道場のような場所なのに、この場所だけは、そこで鍛錬をしている騎士団の風景を見る事が出来るのだ。つまりは、観客席があるという事なのだ。親と子の単なる力比べが、何故だか王城の一大イベントのようになっている事にリナニエラは理不尽さを感じずにはいられない。それでも、逃げる事は出来ないのだ。


「まあ、仕方が無いか。やれるだけやろう」


 そう言うと、リナニエラは一度深呼吸をした。

 頭の中を切り替えながら、リナニエラは腕を上に上げると伸びをした。そして、手を上に上げたまま、左右に身体を曲げる。その後は、屈伸をした後足を開脚して、腿の裏を伸ばす。


「いーち、にー、さーん、しー」「ごー、ろーく、しーち、はーち」


 前世で見かけたサッカー少年団が準備運動をしている時に行っていた掛け声だ。ポイントは最初を声高に、後半をテンション低く声をかける事だ。それをやっていれば、自分の元へとやって来たクリストファーが呆れた顔をして声をかけてくる。


「リナニエラ。いつも思うのだけども何でその掛け声は4までは声が大きくて5からは急にテンションが下がるんだい?」


 ずっと疑問だったようだ。真顔で尋ねてくる兄の言葉にリナニエラは体操をするのを止めると、じっとこちらを見つめてくる兄を見る。


「様式美です」

「ようしき……び?」


 きっぱりと返事をすれば、自分の言葉の意味が分からなかったのが、クリストファーは首を傾げた。


「です。本当はこの掛け声は4までを一人で、5からを複数人でやるんですよ」


 記憶の中にある光景を思い出しながら返事をすれば、クリストファーは少し考える顔をする。それを無視して、更にリナニエラはアキレス腱を伸ばす。いきなり身体を激しく動かして、慣れない動きで損傷でもしたら事だ。


『確か、前世でやらかした同僚がいた気がするし……確かやってたのサッカーだったけ?』


 そんな事を考えていれば、クリストファーは少し首を傾げながらも頷いてみせた。どうやら、無理やり自分を納得させる事にしたようだ。それを横目にリナニエラは足首と、手首を回した後、もう一度頬を叩いた。


「よしっ」


 そう言った後、父の前まで歩いて行った。父の方はと言えば、いつも登城する時の服装では無く動きやすいシャツにズボンといった格好だ。薄手のシャツだからか、父の身体の線が良くわかる。外務大臣という地位ではあるけれども、父の身体は鍛えられていて、筋肉がついているのがわかる。きっと脱いでも凄いのだろう。


「がんぷくだー」


 思わず声を漏らせば、エドムントが眉を寄せた。それをごまかすように咳払いを一つすると、リナニエラは父へと頭を下げる。


「今日は胸を借りるつもりで行きますので、よろしくお願いします」

「よく言う」


 そんなやりとりをした後、リナニエラは彼と距離をとった。そして、ギャラリーを見れば、自分達がここで手合わせをする事を知った王城の人間がいる。


『あー、ブラント団長も騎士団の人もいるし、あっちのローブは魔術師団のだよね。何でこんな見世物状態なのかしら』


 ちらりと席を見て、リナニエラはため息をついた後、自分の傍らに立っているクリストファーの顔を見上げた。


「怪我はしないように。頑張って」


 自分の顔にも緊張が浮かんでいるのだろうか。兄がかけてくる言葉は普段のおどけた言葉では無く、真面目な声音だった。それに無言で頷けば、クリストファーは自分達に背を向けると、修練所の端へと歩いて行った。その代わりに、濃い紫のローブを羽織った、ライトブラウンの髪をした男性が歩み寄って来る。


『あれ……』


 ライトブラウンにグリーンの瞳。その目つきや雰囲気に見覚えがあって、リナニエラは首を傾げた。どこかであった顔だ。だが、それが誰なのかまではリナニエラは分からない。頭を巡らせていれば、問題の彼はちらりとリナニエラの顔を見た後、エドムントへ視線を向けた。


「エドムント、お前にそっくりだな」

「うるさい……」


 名前で呼んだ後、そんな事をいう男性を見て、リナニエラは目をしばたかせる。確かに髪の毛、目の色もリナニエラは父譲りだ。そして、顔立ちも柔らかい雰囲気をしている母とは違い、鋭い眼光をしている父に似ている。それを言っているのだろう。妙に納得をしながらも、リナニエラは再びこちらを見てきた男性に頭を下げた。


「リナニエラ。コイツはクラウス・カルヴェ。伯爵家だ。そして、魔術師団の団長をしている」

「やあ、初めまして。お嬢さん。今日はよろしく頼むよ」


 渋い顔をしながらも、エドムントが男性の紹介をしてくる。『カルヴェ』という単語を聞いて、リナニエラは『あ』と目を見開いた。見覚えのある顔だと思ったのは、先日騎士団との話し合いの時に見たレオクリフの顔に似ていたからだ。そういえば、あの時説明をしていた騎士団長のデニスがレオクリフの父親が魔術師団の団長をしていると言っていた気がする。それに、確か彼らは学生時代は同期だったとも言っていた。今の父とのやり取りを見る限り、お互い気安い間柄なのだろう。

 頭の中で判断した後、リナニエラは片足を引いてカーテシーの恰好をした。冒険者の恰好をしてのそれはかなり奇妙なものに感じられたが、要は気持ちだ。無理やりそう思う事にした。


「初めまして。リナニエラ・オースティンと申します。お会いできて光栄ですわ」


 カーテーシーの後、挨拶をすればカルヴェ伯爵はぽかんと目を見開いた後、エドムントの顔を見た。

 彼の反応の意味が分からずに、リナニエラが首を傾げればエドムントはこめかみに手を当てた後、ため息をついた。


「……、随分と噂とは違うご令嬢だ……な」

「こういう所だけはちゃんとしているんだ――」


 若干失礼だと思う二人のやり取りを無言でやり過ごした後、リナニエラはカルヴェの方を向いた。それに、彼は無理やり納得した顔を向けた後、コホンと咳払いをして表情を元に戻した。


「これより、エドムント・オースティンと、リナニエラ・オースティンの手合わせを行う。この手合わせは、どちらかが降参をした場合と、手合わせが3分を経過した場合終了とする。使う魔法は中級魔法まで。身体強化の使用は許可する。武器は杖以外の物は使用禁止とする。何か質問は?」


 二人の顔を交互に見て話すカルヴェ伯爵の言葉に、リナニエラは頷いた。確かにこの修練所位なら上級魔法を使ったら崩壊してしまうだろう。そう想像したところで、リナニエラは目の前のカルヴェ伯爵が自分が上級魔法を使う事を不思議に思っていない事に気が付いた。


『一体どれだけの情報が王宮に流れているのかしら』


 自分が魔法を使う事が得意だという話は父からも流れているだろう。だが、どの程度流れているのかまでは未知数だ。とりあえずは無難にやりすごしたいが、父を相手にそんな器用な事は出来るのだろうか。

 正直、魔力量だけなら圧倒的にリナニエラの方が多い。だが、魔法操作、魔法を使う場面のタイミングなどは父の方に軍配が上がる。だから、自分がうまく翻弄されてしまう可能性だってあるのだ。


『けど、今日の手合わせは私が広範囲魔法を使う技量があるかを見るだけの物だし。大丈夫、大丈夫』


 自分に言い聞かせるように考えると、身体から力を抜いて正面に立つ父の顔を見据えた。

読んでいただいてありがとうございました

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励みにしています


次回は魔法メイン回でシリアスに仕上げたいです

一応お父様の手合わせは3本仕立てです できればちゃっちゃと上げて行きたいです


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